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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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不思議なカード

「酒を飲まなくても酔うやつは酔いますがね」



 小学校時代修学旅行に行った際に、二時間のバスで五回も吐いた奴がいた。


 そして昨日の遠藤のように自分の正義に酔っぱらってるやつもいた。確かに俺だって、箱根駅伝って一つの目標に向けて酔ってる時はあるけど、それでもさめる時は案外パッとさめる。

 酔ったりさめたりを繰り返しながら、俺は日常を過ごしていた。まあ、今はそんな事より目の前の暮らしが大事だけどな。


 だってのに今日の俺はひどく酔っちまった。気分の悪さはあれだ、二日酔いっつー奴なんだろうな。


「かぁーまったくよ、酒より飯がいいのかい!銀貨一枚でこのボトルが空っぽになるだけ飲めるんだぜ!」

「一体何歳ぐらいから飲み始めたんです?」

「お前らぐらいの時からだよ、それからはもう、俺の血のせいかわからねえけど何杯でも飲めるからさ、それこそ酒のために仕事してるようなもんだよ」

「ヘキト、あんたがまだひと月のハヤトとマサキに並ばれたのはその酒癖のせいじゃねえかなぁ。その酒癖を直せば今頃はUランクまで行ってたぞ」

「俺はランクより酒だね。酒が飲めないんならAランクですら魅力はねえ」

「いつから酒に溺れるようになったんだ、もしかしてあの女の」

「つまらん冗談より先に酒だ」



 俺が乗って来ないと悟るや、ヘキトさんは元のテーブルに戻ってしまった。




 何があったのかは知らないけど、腕の太さを見る限りはかなりの剛腕のはずだ。俺らのようなチート異能はないにせよ、きちんと冒険者してれば相当な出世ができただろう。

 あの女とか言うからあるいは昔何かあったのかもしれないが、それ以上にお酒ってのは恐ろしいもんなんだろうか。


「って言うか血って何だよ」

「俺のおふくろの親父はゴブリンなんだよ、そのせいかぶどう酒ってそれこそ母乳の次ぐらいに飲んでたからな」

「あまり関係ねえだろ、だいたいそれだけ酒飲んでるくせに女に魅かれないってのはやっぱり」

「俺はミーサン以外の女には興味ねえよ」

「そりゃまた驚きだね!って言うか女に興味あったのかい!」

「そっちの坊主じゃあるまいし」

「私は……今は行方不明ですが三人ほど仲の良い女子がいるであります!」

「俺よりモテますからね」


 市村はフォークを器用に使いながら、肉を口に運ぶ。こいつは昔から、自分がモテていると言う自覚はない。赤井が自分の趣味である程度のモテを得て、遠藤がスクールカーストの上位って奴でモテを得ているのに対し、こいつ自身のモテってのはよくわからない。自分でもわかってねえらしい。

 と言うかLGBTがどれだけこの世界で市民権持ってるのか知らないが、いずれにしてもどの世界でも酒飲みが女遊びにもギャンブルにも夢中だってのは親父が言ってた通りなんだろうか。



「ミーサンって言えばさ、ミーサンの店に黒髪の三人組女がいるって話知ってるか?」

「マスター、なんで言っちまうかなあ!せっかく酒飲み代稼ぎしようと思ったのに」

「そういうのは良くないぞ、お前らもそう思うだろ?」

「情報はただではない事を、ここに来てよく思い知らされたのであります……」

「まあ、そうだよな。その代金として早熟茶三杯ください」




 って言うかこの流れでよくもまあそんな情報をサラッと言えますねギルドマスターさん!飯のなくなった皿を持ってこうとしてなくてよかったぜ。

 俺ら以外誰も食い終わった皿を片すようなことはしてなかったらしいけどな、やっぱりマナーってのはあるに越したことはないだろ。

 って言うかおい市村、俺のも勝手に頼むなよ!



「ほんの銅貨二十枚だ、なあいいだろ」

「ああ……」


 ったく、ただでさえ今日は儲けが少なかったのによ……そう思うとその三人を探しに行く気にもなって来ねえ、あーあやんなるな……。


「お前も存外ケチくさいな」

「冒険者なんて金なくなったらおしまいでしょ、少しでも倹約して質素に生きなきゃ」

「あのデカい女戦士じゃあるまいし、そんなちびっとしか食ってねえくせに何言ってんだか」



「デカい女戦士?もしかして髪の毛も」

「黒かったよ、ああ真っ黒真っ黒!」



 と思いきや三人娘の上、また別の黒髪の女と来た!まったく、正直頭にいろんな情報が鳴り響くぜ。



「これは驚きでありますな!」

「その女性の特徴とは」

「酒も飲めねえ奴に教えられるかっつーの!ああ俺はこんなシラフ坊やたちを相手にしてもつまんねえからこれで上がらせてもらうぜ!」


 舌でも出したそうにしながら、ヘキトさんはまったく乱れてない足取りで酒場から出て行く。テーブルに空きビン三本が残され、じっと俺たちを見つめていた。



「マスター、ミーサンのお店って……」


 起き残された俺らに向かって、マスターは一枚の薄い板を取り出した。




「………………」

「いやどうしたんだ、こんなありふれたもんを見ただけで」




 その板は、俺たち三人の目を一点に集めた。




 害意がないせいか視線を逸らす事もできず、真ん中に赤く輝くひし形のマークを見つめてしまう。




 俺らの世界で見慣れた板————いや、板と言うか、カード。




 そう、ダイヤのエースだった。

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