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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十二章 この女だけは許せねえ!
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十八人目

「……ですから!我々は自ら!この村を立て直し!幾百年先の繁栄のために戦わねばならないのです!」


 いつの間にか三田川の演説は終わっていた。


 拍手もなければ声援もない。罵声すらない。



 このむなしさを極めた独演会に、一体何の意味があったのか。



 俺の見出した意味は、たったひとつ。




 ————宣戦布告。


 この村全てを「復興」させるまでの無限労働か、さもなくば死。

 ソージローさんを焼いたように、ためらいもなく殺すのだろう。




 だったら!







「と言う訳で皆さん!さっそく」

「何がと言う訳でだよ!」




 俺は、二人で三田川の隣に映り込んだ。


 そして下では俺を俺が支え、俺を投げ飛ばして三田川に斬りかかった。


「これ何!」

「必殺魔法です!」


 セブンスの力で、百人の俺を出させた。


 俺たちが地上に集い、ミタガワのいる家を囲み、そしてミタガワを襲う。

「ちょっと!」


 果たして傷こそ負わせられなかったが、とりあえずミタガワの服に打撃を与える事には成功した。




「ミタガワ……」


 二百個ぐらいの瞳で、上空へと逃げたミタガワをにらみつけてやる。単純に百人もの人間に敵意をもってにらまれたらひるむかおびえるかするもんだろう。


「それだけの力があるのならば土木工事に従事し、今すぐこの村を立て直しなさい」

「お前が二度とこの村に手を出さない事を誓ったらな。あああと、このソーゴって子に祖父を殺した事を全身全霊をかけて謝罪しろ」

「まさか上田、あなたがロリコンだったとは思いもよらなかったわ」

「そこまでソージローさんって人が憎いのか?」

「憎いわよ。サボろうとする欲がどこまでも深く、村全体の事をまったく考えてない独り善がりの世界王者は」


 父母と兄を連れ去られ、たった一人の身内として料理から仕事までいろいろと教えてくれた祖父。

 そんなソーゴにとって誰よりも大事な存在をこの女は平然と殺し、その挙句こんなはずはないと泣きわめく。

 自分がこき使っていた村民全ての意見を代表した勇者の、どこが独り善がりなのか。



「てめーのがよっぽど独り善がりだろうがよ、このバカ」

「バカ…………?」


 ミタガワの声が太くなる。重くなる。


 その間にも、俺たちは動く。



「バカ?私が、バカ?」

「ああそうだよ、このバカ」



 見えないが、おそらく目は据わっているだろう。


 一日百時間ありそうな自称秀才のミタガワからしてみれば、バカと言う単語こそ自分の努力を否定するそれであり、絶対に許しがたき言葉のはずだ。

 どうせヘイト・マジックは効かない。だとすれば。


「だったら、あなたを……!」

「俺をどうする?」

「堕落と怠惰の使者を木端微塵にし、努力なくして成就なきことを証明してあげる!!」




 案の定、来た。


 俺たちに向けて、槍が降って来た。




「これって、これって!」

「安心しろ、いつの間にかみんな逃げている!」




 俺たちを狙った槍の雨。


 全ては一発たりとも当たらず、ただの金属として地面に転がっている。もちろん、さっきまで俺たちがいた建物の屋根にも刺さっていない。



「まったく、生意気な力なんだから!」

「だからその気ならばそんな高い所にいないで降りて来い」

「私はあんたのようなぐうたら怠け者と違う!数だけを揃えた所で結果は同じよ!」



「集合!」

 ミタガワの攻撃を確認したセブンスの声と共に、百人の俺が弾に向けて集まる。



「これは爆発!」

「みんな、目をつぶって!」


 トロベと大川の声と共に、みんな一斉に目を閉じる。俺も閉じる。


 そして目を閉じていても侵入して来た閃光と、爆風。



 あのモンヒが見せた自爆攻撃のような爆発魔法。



 だが、やっぱりハブられた。


 百人の俺全てが爆風からハブられ、まるでビル風のような突風が巻き起こった。

俺をハブるためにグニャグニャに曲がったり、上に行ったりした爆風が巻き起こり、よく見ると一部ミタガワに向かっているように見えた。


「ぼっちもここまで来るとすがすがしいな」

「まったくだな、どんな攻撃にもぼっちだよな」


 俺と俺がお互いにお互いのぼっちぶりに感心している。傷のなめ合いかもしれないが、それでも圧倒的な現実がその寂しさを覆い隠す。


「フン……!何勝手にくっちゃべってのほほんと生きて……!」

「お前のやってるのはこんな事だぞ」


 自分では誰よりも強く決めたつもりでいる。だが現実はすべてすり抜け、まったく届かない。ただただ、自分の力を見せつけただけ。


 そして、村人は無反応。

 唯一そこにいたソーゴはおびえるどころかセブンスに感心するだけで、ちっともミタガワの思い通りになっていない。



「どうして、どうして……!」


 いら立ちが心をミタガワの心を痛め付け、俺への怒りを増幅させていくのが遠くからでもわかる。

「もういい……!どうしても、どうしてもサボりたくてしょうがないのね……!」

「どうしてそういう発想から離れられねえのかなあ!」

 確かに仕事は真面目にやれってのは正論だよ。でもこうして叩き付けている以上それはもう正論じゃなく暴論だ。



「もういい、抵抗するとどうなるか教えてあげるから……」

「どうなるんだよ」

「こうなるのよ!」



 本物の俺の目の前に、一本の槍が浮かんでいる。


 さっき俺の周りに落ちた数本の槍のうちの一本だ。


「その槍を使うのよ」

「俺には当たらんぞ」

「俺には、ね。でもさっき何百本と降らせたでしょ。ほら……」


 その一本の槍が、飛んだ先。




「てめえ!」

「命の危険を感じればその気になるでしょ?さあ、全てはこの村のために働くのよ」



 方向は南西。この女が無理やり建てさせた家。




 そしてそこにいる村人!




「セブンス!」


 セブンスはあわてて五十人ほど俺を作り、飛ぶ槍を受けにかからせた。

 だが速い。あまりにも速い。

「ええい!」

 最初の五十人はスルーされ、さらに後続の三十人を繰り出してようやく受け止められた。

三十人のうち五人の俺が槍を必死に踏みつけ、二度と飛ばないようにしている。


(一本阻止するのに三十人かよ……まずいな……)


 さっきの槍の雨を見る限り捌き切れる保証がない。とりあえずと思って槍を抑えにかかろうとすると、ミタガワの顔が歪んでいた。



 嘲笑ではなく、混乱で。



「次の攻撃が……?」

「ないであります」




 ミタガワによって飛ばされるはずだった槍がない。




 どこにもない。







 いや……あった。


「やれやれ……今日はえらく大漁だな……」


 一本の槍を握った男が、あっという間にその槍を消した。




 緑色の帽子と上下、それに靴。


 やけに目立たない姿だが、それでも帽子の下から覗くそれは存在感を見せていた。


 短めの黒髪。



 小さな目と、鼻と、横一文字な口。







 それはまぎれもなく、奴だった。







「持山!?」


 俺が叫ぶ傍から、持山は最後の一本の槍を消していた。

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