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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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酔っ払いの戦士

 二人の報酬は、金貨二枚。俺は、銀貨六十枚。まったく正確な報酬だ。




「上田君は何を焦っているのでありますか!」

「ああ、すまない、ついカッとなって……」




 コボルドの剣を下ろしたついでにデカい城門とこれぞ西洋の城だって代物を確認できたのは良かったが、それ以外は全くダメな日だった。


 赤井と市村に向かってニコニコするモモミちゃんだけど、俺に向かっては笑ってくれない。



「お兄ちゃんはわかんなかったの?何が一番大事なのか!」

「うん……」

「もうちゃんとしてよね、そんなんだからでありますお兄ちゃんも怒っちゃうの!」



 市村は誰にでも失敗はあると慰めてくれたけど、赤井はかなり不機嫌だった。俺は昨日の三分の一以下の稼ぎを握りしめながら、淡々と飯を食う。



 一日二食にも慣れた。セブンスの料理は基本的に肉を薪で焼いた上にこの世界の野菜、トマトを中心としたそれを添えて、フォークとナイフを実に器用に使っている。



 そんで交通の要所ってのはそんなもんなのか、いろんなもんが入り混じって結果まったくよくわからん料理が出て来る。っつっても単に市村と同じもんを頼んだだけなのだが、まあ薄切りのエリンギっぽいキノコがずらっと並んだ所になんかパセリっぽいのがかかってる下に、なぜか焼いた肉が敷かれている。



「いくらなんだよこれ、勢いで頼んじまったけど」

「銀貨一枚であります」

「高え……」


 味は確かに相応だったけどよ、そんならもう少し安いもんを選ぶべきだったぜ。うまい飯は人を幸せにするとか言うけど、まず味がわからなければどうにもならねえよな……。


「ああ、こういう食材ってどうやって取って来るんです?」

「時期に合わせて収穫したのを取っておいてるだけだよ。今はそういう採取のクエストはやってないからな、それこそ新物なんてそうそう出せるもんじゃないぞ」


 それもまた冒険者のお役目かよ、と言うか冷蔵庫なんぞない世界ではそんなもんかもしれねえがな。

 毎日毎日同じ飯を食ってても飽きない程度には俺はこの世界にしつけられて来た。セブンスなんかは給仕のくせに作れるメニューの種類が少ないとか嘆いてたけど、この酒場だってメニューは十種類もない。そんな世界なのだ。




「ヘッ、ずいぶんと威勢がいいらしいじゃねえか新米」

「おや、そちらにいるのはヘキト殿でありますな」


 そんな風に打ちのめされてた俺の肩に、小さな刺激が走った。相変わらず、敵意のない攻撃はかわせないらしい。

 それで安心して手の方向を見ると、背の高くてやたら肌の赤くボロボロな鎧を着た男がいた。


「俺はユーイチと言います、Yランク冒険者です」

「知ってるよ、昨日華々しいデビュー戦を飾ったお前の事は。でも今日はしくじったらしいな」

「ええまあ……」

「俺はこれでもWランク冒険者だ、この稼業をやってもう十年になる。いろいろアドバイスぐらいはしてやれるぜ」

「私たちはお酒が飲めないのであります!と言うかそれしかないのでありますか!」

「ったくよう、坊主はこれだからな……」


 ヘキトは口からそういう臭気を出しながら、俺にすり寄って来る。テーブルを見るだけで相当な量を空けて来たって事がわかる。


 そりゃここが酒場であって飯屋じゃないことはわかるし、まともな夜間照明なんぞない世界だって事はわかるけど、明るいうちからこんなに飲んでどうするのかね。



「酔っ払いの相手はもう勘弁ですよ、昨日もあの酔っ払いの相手して疲れてるんですから」

「酔っ払いだとぉ?お前も赤井ってえ坊主も市村もそうだが、黒髪連中はどいつもこいつも酒が飲めないって言うけどな、それはなぜだ?」

「五年待ってください」

「五年~?ったく、酒も飲めねえくせに冒険者になんぞ、ヒック、なるんじゃねえよ!」

「酒を飲まなくても酔うやつは酔いますがね。今日の俺のように」



 そう、お酒なんか飲まなくても人間は酔える。 

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