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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-後編
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河野速美って女は

 西側の百貨店一階の喫茶店っぽいスペースにて、倫子が集めてくれた女の子たちが無言で座ったりはしゃいだりしていた。

 どうでもいいけど、ホテルと同じようにやっぱり客がいない。


「ざっと五十人はいるな」

「それにしても倫子さんお見事であります」

「さすがに私も手伝っています」

「男にはできない事だよな」


 百貨店のすぐそばにあったスーパー銭湯に入らせ、体を清めた上でとりあえずスパゲッティを食べさせている。

 まあ五十人分いっぺんにやるのは無理だったので二十五人ずつだが、それにしてもこんなにたくさんの獣娘たちがこんな治安の悪い場所に押し込められていたのかと思うとゾッとする。


「やはり彼女たちはゴッシの」

「ああ、ウエダ殿が言ったようにわざと苦しい環境に身を置かせ救いを求めて来るのを待っていたらしい」

「そして実際に数名絡めとられていた……」


 大半の少女たちは久々の清潔な環境と食事に素直に感動し、泣いてくれる子もいたが入浴及び食事を拒んだ少女がいた。あまりにも急激な開放、環境の変化に悩んでいる子はセブンスと倫子が言い聞かせてなんとかなったが、それでも話の通じない少女が数名いた。


「ナカシンちゃんって子。あの子は私に懐かなかった。どんなに頑張って触れ合おうとしても、ほっといてとしか言わなかった……」

「リンコが頑張ってる間、他に何かする事があっても良かったはずなのにね」


 ナカシンって犬耳の娘は元々比較的豊かな農家の長女で、本当ならとっくに嫁入りしているはずだった。そこをあのグベキその3に誘拐され、半年近くこんな地上の牢獄に押し込められて気力が尽きちまったらしい。

 リンコやセブンスに食事を勧められても無言で口に運ぶだけであり、入浴しても他の子のようにはしゃいだり泣いたりすることもなかったそうだ。

「兎耳の女の子が必死に励ましてたけどね、正直戦いよりずっと苦労したよ」

 結局彼女はこの町に残る事を決めたそうだ。クタハって黒猫娘の事を紹介したらほんの少しだけ笑い、彼女を探してみると言って口にケチャップを付けながら去って行った時にようやく背中がまっすぐになったのが本当に悲しかった。




「下世話極まる話だが中には肉体的な意味でゴッシに絡めとられたのもいたらしい」

「やっぱりあの男変態かよ」

「生命探知魔法を使った結果は大丈夫でしたけど、でしたけど……」

「罪深い男だ……」


 本当におぞましいお話だ。実際孕ませられるまでには至らなかったようだが、実際にそういう事をやらかされた子はいたらしい。

 そしてそういう子は、全員俺たちに懐かなかった。今もこの場で俺たちをにらみながら乱雑に食い散らかし、さらに風呂場でも暴れて手が付けられなかったらしい。



「どうして河野はいなくなったんだろう」

「彼女は人の話を聞いておらん。まあウエダ殿もその旨を伝えるべきだったと思うがな」


 食事代と風呂代合わせて銀貨六十枚など、そんな大金でもなかった。さすがに着られない服などを処分した上で新しいのを見立てた結果もう三十枚ほど上乗せされたとは言え、俺たちの懐具合はかなりあったかかった。もちろんできるだけ多くの子をトードー国へ引き渡すつもりなのでどうせ一日限りだろうと言うのもあったが、それでもこんな事をしてもなおまだ路銀は足りていた。


 それ以上に問題だったのは人手で、五十人の少女(二十五人ずつだったが)を男と一緒に風呂に入れる訳にも行かない。オユキはいくら暑さには耐えると言っても論外だし、トロベでは文明に不慣れな上に堅すぎる。結果的に倫子と大川、さらにセブンスが少女たちを入浴させ、俺たちは食事を取らせていた。


 そこに河野がいればどんなに役立ったかわからないのに、なんでとっととこの場を去ったんだろうか。


「河野はあまり学内でも集団行動に向いていなかったわ。いつの間にかやって来て、いつの間にか終わらせている、そんな感じで何でもできちゃう」

「三田川は自分を秀才であって天才ではないと豪語していたけど、河野は天才型だな。実際にそうなのかはさておき」

「河野は昔から俺に何かあるとサッと駆け付けて、俺が満足したと見るやサッと去って行く。シギョナツでもサンタンセンでもそうだっただろ」


 河野が何を考えているのか、俺には何もわからない。わかるのは、河野が俺が思う以上に自由気ままであり、気まぐれで、それでいてとんでもない力を持っているって事だけだ。


「倫子はずっと子どもたちの世話を焼いてるな」

「性根ってのはこんな時に出るのかもしれない。例えば市村がいちいちイケメンであるようにな」

「何それー」


 オユキは笑っていたが、実際女性陣だけでは捌き切れなかった獣娘たちをなだめていたのは市村であり、俺ではない。

 赤井が回復魔法と聖書の教えで心をなだめ、大川がコンビニで買って来た食事を取り合えず分け与え、オユキは陽気な笑顔でみんなを和ませ、トロベは頼もしい姿を見せていた……と同時にオユキの「オユキ曰く、さあお行き(おゆき)なさい!」ってギャグで馬鹿笑いして妙な安心感をも与えていた。そして言うまでもなくセブンスと倫子が獣娘たちをまとめる中、俺は財布のひもを緩める事しかしていない。



「しかしさ、見れば見るほどおかしいんだよね。ウエダがぼっちって言うか不人気だったのって」

「確かにいささか不自然さを感じる事もある」

「まるで意図的にそうなるように仕組まれていた……と言う感じがするのであります」


 ありがたい言葉だが、確かに気のせいと言うにはどうもおかしい。



 もし今の俺が持つぼっチート異能がこの世界に転移する際に、いや万が一この世界に来る前からかかっていたとしたら――――――。




 自分自身の事かもしれないのに、まったく及びもつかない話だ。


「と言うかどうやって集めたんだ」

「彼女たちを見張っていたのはそんなに多い人数じゃなくて、実はあのゴッシってのが作った仕掛けだったみたいです」

「ゴッシ亡き後もあのノイリームが制御していたようだが、そのノイリームの死と共に制御が利かなくなり、と言うか破壊されたようだ」

「だとしてもあまりにも一挙過ぎないか」

「あれほどまで大規模な戦争だ、目に入らなければ嘘だろう。しかもヒラバヤシと言う名の味方がいる陣営の勝利、少しでも目敏ければ動く」



 ……とりあえず俺自身そんなに多くの事はできねえ男だってのはよくわかったけど。

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