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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-後編
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大スランプ!?

最初は4話の予定だったんですが……。

 二年前の悪い予感が当たった訳でもないが、実際問題俺の小学校最後の一年間はかなりつらかった。



 ぼっちだからじゃない。



 成績が上がらなくなったのだ。


 5年生の時はまだ平均よりやや上レベルだったのに、6年生になると急について行くのがやっとになった。


「上田…………どうしたんだ」

「ああ、はい……」


 5年と6年の担任は同じ先生だったのだが、その先生の前でまったく違う成績になっちまったもんだから心配もされた。

 もちろん6年生の勉強は5年生のそれの延長のはずなのだが、少しでも踏み込むと急に頭が回らなくなる。当然のように机に向き合って勉強してみたが、一日一時間を二時間に増やしても、まったく成果もテストの点数も上がらない。


「このままじゃ俺は落ちこぼれちまうのかな……」

「大丈夫だ、努力は裏切らないぞ」

「でも…………」


 当然のことながらぼっちの俺が相談できるのは、先生じゃなきゃ親だけ。埃が積もりかかったゲーム機の側で、父さんが頭を撫でてくれた。

 少しは気分を変えろと言われて父さんと一緒にやりもしたが、それでどうなる訳でもない。


 漢字を書いても、計算を解いても、なぜか頭に入って来ない。百点なんて夢のまた夢、寝ても飯を食っても走っても、どうにもうまく行かない。

「チクショウ!」

 腹を立てて空き缶を蹴飛ばしたが、わずかに転がるだけ。それで何が解決する訳でもねえだろと拾って自販機を探し歩きゴミ箱に突っ込んでやった所で気分が良くなるわけでもない。

 塾や通信教育を求めたかったが、俺だって家の懐具合なんぞ知っている。と言うかそれだけで成績が上がるんなら劣等生なんぞ存在しない。

 ゴールデンウイークも家の中でノートを三冊潰したのに、一向に成果は上がらない。


 そのまま梅雨がやって来て、登下校がいっそう憂鬱になった。



「どうしたの、そんなに思い悩んで」

「河野……」



 そんな俺にたった一人声をかけて来たのが河野だった。相変わらず出来の良かった河野は友達も多く、あっという間に俺を引き離していた。

「悩みがあればなんでも聞いてあげるからさ」

「知ってるだろ、俺最近全然勉強ができなくてさ…………まあお前じゃクラス1位でもないから無理か」

「1位じゃなきゃ教えられないだなんてのは偏見だよ」

「そうだけどさ……本当、決してサボってるつもりもないのにさ……」


 憎まれ口込みで嘆き節をこぼした俺を、河野は無言で抱きしめ、実にいい笑顔を向けた。

「大丈夫だよ、私が手取り足取り教えてあげるから」

「頼むよ……」


 その上にこんな言葉を耳元でささやくんだから、弱っていた俺はあっという間にほだされちまった。



 その日から毎日、料金ゼロ円の私塾の開始だ。40点や50点のテストを見せてはお互いにあれだこれだと言葉を交わし、悪い点を指摘してくれた。




「なんか顔色明るくなったみたいじゃない」

「まあね、成績が上がったからね」


 果たして、十日もしない内に頭が回り始め、いろいろ覚える事ができた。

 これまで何らかのイベントアイテムを入手していなかったから先に進めなかったのが急に世界が開けたみたいになり、どんどん楽しくなっていく。


 なんでこんな事が分からなかったのか不思議であり、同時に自分が延々二ヶ月も何をやってたんだと言う自己嫌悪も覚えた。

「やっぱり、速美ちゃんとくっつくべきよ」

「そうかなぁ…………だって俺が救われてばっかだもん」

 これも河野のおかげなのかなとも思ったけど、すぐそこまで行ってしまう母さんには辟易する。俺は自分ばっかが施しを受けていては申し訳ないとか言う理由を付けてノートと教科書を持ちながら、その日も河野の所へと通った。


「待ってたよ裕一」

 いつものように、河野の教科書とノート、そしてポッキーが置いてあった。


「今日はとりあえずこっからここまでって事で」

「わかったよ」


 河野は俺にやたら寄り添いながら、一手一手正確に教えて来る。先生には悪いけどここまで入ってくるのはなぜかわからないぐらい頭が回り、どんどん自分が賢くなっていくのが分かる。


「すごいよなお前」

「まあね」

「でもさ、世の中は広いよな。お前知ってるか?」

「何を?」

「ちょっと遠い所にさ、天才小学生がいるって話」

「そんなのどうでもいいじゃない、ほら次これ」


 世間話を交わしながら、ノートをめくって行く。




 あるいは、母さんの言う通り俺はこのまま河野とくっつくのかと思っていた。

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