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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-前編
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ロッド国の噂

「本当にさ、ここっていい意味で商業主義だよね」



 血を洗う事もしないまま乗り込んだ俺たち八人に対し、店主のお兄さんとウエイトレスさんは何も言わずにメニューと水と、カレーライスを持って来た。


 最寄り駅の側にあるカレー屋によく似たその店に入り、10人そろってカレーを食う。

 ったく朝も昼もカレーになっちまったのには呆れたけど、セブンスの意見を取り入れない訳にはいかなかったからしょうがねえって事にしてもらいたい。


「しかし不便な席だな、4人掛けしかないのか」

「俺はいいよ」


 相変わらず男前な市村のおかげで男女1:3の席が2つ出来上がり、赤井と大川・オユキ・トロベ、俺とセブンス・河野・倫子でテーブルを囲む事になった。ちなみに俺の席は通路から遠い側の奥で、隣にはセブンスがいる。


「しかしセブンスちゃん、あんまりがっつくんじゃないわよ」

「大丈夫です、大丈夫ですってば……ねえ、ユーイチさん……」

「あ、ああ……」

 大盛りカツカレーチーズ付き、銀貨一枚。俺らがビーフカレー(銅貨六十枚)を注文する中、ずいぶんとぜいたくなもんを頼んでいる。

「俺何にも貢献していないのにいいのかな」

「そなたもノイリームを何体か屠っただろう、そうだなウエダ殿」

「エクセルもいいだろこれぐらい」

「イチムラ……これはなんとも不思議な味だが」


 エクセルも市村の隣にいて、カレーライスと言う名のカルチャーショックを味わっている。セブンスのように虜となる事もなく、じっと落ち着いて食べているようだ。



「それでこの後は」

「とりあえずセブンス」

「このカレー本当においしいですね!」

「…………だな」


 セブンスが案外と大食いである事を思い出しながら、俺は話を横に置きながらカレーを口に運ぶ。その一挙手一投足をじっと見つめる河野の目線がやたら重たい。


「裕一、人様の目があるんだから、ちゃんと礼儀を守って食べないと」

「ちょっと、その、河野さん、声が大きいんだけど……」

「それはあなたも同じよ平林、あなただって同じように」

「少し静かにしてくれないか」


 河野の顔は、昔から全然変わらない。この世界に来てから都合三度目だが、今回もまた同じ顔をしていた。十年前から、ずっとこんな顔、こんな口だ。


「コウノ殿、あまり熱くなる物でもないだろう。この場においては皆身内も同然だ」

「身内って、こんな場所で食事取らないの?」

「お前だってこの世界を相当な期間旅しているはずだろ」

「そうだけど、それでも裕一が見てるかと思うと下手な真似なんかできないよ」


「あのさ、俺をストーカーにしないでくれる」


 他に何も言えない。そりゃ人の目を意識して動くのは大事だってよくわかるよ。


 でもさ、こんな遠く離れた世界で俺の目を意識って、正直キモい。って言うか傷つく。


「俺は四六時中お前を観察してる訳じゃないんだぞ。お前だってこの世界でいろいろやって来たはずだ、その際に俺の目線を意識してたか?」

「それは、もちろんよ」

「俺だって何十人と人を斬り、魔物も斬った。そんな時にいろいろ考えてる暇はないんだよ」


 もちろんぼっチート異能がある以上ウソだが、自分の鼻息ひとつを見張られているのは実に心地が悪い。平和に生きて欲しい、血生臭い事に関わらないでもらいたいって気持ちはわかるが、それにしたって現実ってもんがある。毒食わば皿までなのだ。



「それでセブンス、この後は」

「ああやっぱり、この町に残された女の子たちを救いたいと思います。もうゴッシもノイリームもいないんでしょう」

「だな。もちろんトードー国から援護も来るだろうが、俺らもしばらくはここにいる事になるだろう」


 最大の目的である倫子は取り戻したとは言え、それだけで終わるのはどうにも自分勝手で気分は悪い。セブンスには探知魔法を使わせ、出来得るならば最後の一人まで見つけ出したい。



「その後はやはり、ブエド村に?」

「そうなるな、しかしブエド村ってのは何だ、魔王の領国かなんかか」

「クチカケ村みたいだね」


 ノイリームの言葉からするとブエド村は職人が多いか、鉱石の産地かの少なくともどっちかだ。オユキの言う通り、クチカケ村にちょっと似ている。


「クチカケ村か、あそこはどんな村だった?」

「トロベはシギョナツで会ったんだな、それでオユキ」

「正直雪が多くて静かな村だよ」

「そうか、実は私も行った事がないのだが、ブエド村は、かつてとっても豊かな町だったと聞いている」



 だがクチカケ村は文字通りの寒村だったのに、ブエド村は繁栄して《《いた》》らしい。



「かつてブエド村は、南の大国ロッド国の領国だった。ロッド国はこの世界の五王国の一つであり、我がキミカ王国が領国を失ってからは最大の国だった」

「だった?」

「ああ、ロッド国はシンミ王国に戦争を仕掛け、当初は有利に進めていた。だが魔王軍が、その人間同士の内輪揉めに乱入したのだ」



 シンミ王国。本当に久しぶりに聞いた名前だ。

 ヒトカズ大陸の南西に位置していたはずの国が次に行く場所と戦争をしていただなんて、本当に大陸を一周しちまったんだって思い知らされる。正直気が遠くなる。



「その戦争は」

「当初からロッド国が優勢だった。ブエド村で作られた武器があったからな。だがそれに、北の魔王軍が目を付けたのだ。魔王はその鉱物資源に目を付け、ブエド村を襲ったのだ」


 鉱物資源を狙い、武器を狙うために北側からロッド国の東端のブエド村を手に入れんとしたって訳か……。


「この攻撃により、ロッド国は当然ながら大打撃を受けた。そして皮肉な事に本城さえも攻撃を受けペルエ市並びにミルミル村まで撤退する事を考えさせられていたシンミ王国は復活し、戦争はシンミ王国の勝利で終わった」

「ロッド国はどうなっているのですか」

「魔王軍の脅威もあり名目的には和平を結んだが、実質属国に近いだろう。五大王国が三大王国になる日も近いかもしれぬな…………」


 戦争を繰り返して歴史ってのはできるんだろうけど、内輪揉め同然の戦争のせいで村ひとつ魔王軍に壊されるだなんて、まったくやってられねえよなあ。



「それは一体いつ頃だ」

「十年前だ。ロッド国は自分が盟主となって魔王に立ち向かいたかったのだろう。その勢いでヒトカズ大陸の統一を狙って」

「…………カレー喰っていいか」



 んで、遠い昔だと思ったらほんの十年前……!


 しかも理由がこれかよ……



 呆れて物も言えやしない。



 ああ、カレーがうめえ。




「たくさん……いるのね。お友達」

「河野……」

「私はもう、この町に用はないわ。また別の所へ行くから……」


 そんな俺に呼応するかのように落ち込んだ河野は、いつのまにかカレーを全部食べ切ると店を出て、そのまま駿脚を飛ばして去って行った。




「上田君、止めなかったのでありますか?」

「無理だよ、あの速さを止められると思うか」

「そうじゃなくてですね、他に何か」

「ダメだよ、いざやるとなったら河野は人の話を聞かないから」


 そして、理由なんか言わない。それが正しいからと言わんばかりに動き、理由は見ればわかるでしょの一点張り。

 わからないと言うとやけに甘ったるく微笑み、その上でやけに丁重に説明して来る。


「……上田君と私たちはまだ四か月の付き合いであります」

「河野とは十年来一緒なんでしょ」

「他に、仲のいいお友達とかいなかったの?」




 赤井たちが、置き去りにされた俺に問いかけて来る。




 俺は無言で首を縦に振った。




 本当に、河野しかいなかったのか?




 女子はおろか男子もいなかったのか?




「ああ……」




 そう。俺は、本当にぼっちだったのだ。

作者「明日は1周年スペシャルです!」

上田「その結果今まで全くやった事ないジャンルに手を出すんだな」


企画は明日のお楽しみに!?


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