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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-前編
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ノイリームの最期

「キサマなどに構っている暇はない!私はあのウエダユーイチを!」

「それだけは許さないって言ってるでしょ!」


 河野とノイリーム本体だけは、相変わらずの戦いをしている。


 ノイリーム本体の重厚な刃と河野の高速の刃がぶつかり合い、火花を散らす。

 側に発火物の一つでもあれば、あっという間に大爆発を起こしそうなほどだ。


「そしてその爆発はやっぱり俺をハブるんだろうな」

「上田君……」


 倫子は寂しそうに語りかけて来るが、実際トードー国でモンヒが俺に抱きつきながら自爆を決行した際にもその爆風は俺だけを捉えないまま吹き荒れ、俺には何の物理的打撃も与えられなかった。



「おのれ!」

「うわっと!」


 ノイリーム本体が力を込めてほんの少しだけ河野を押し、その間に中央分離帯から何色にも光らない信号に飛び乗って手を振る。


「来い……!」


 まるでノイリーム本体が信号機になったように分身をかき集め、攻撃が通る可能性がありそうな河野へと差し向けようと力を込めた。すぐさま河野に追いつかれ迎撃に専念するしかなくなるが、それでも必死にノイリームたちを俺たちから引きはがそうとしているのはわかった。



「ああっ!」

「ぐぅ!」

「魔王様バンザイ!」



 でもノイリームたちは、飛び出し坊やの警告むなしく赤く光る存在に向かって突撃してしまう。上がるのは悲鳴と青い血ばかりなのは変わらず、それ以外の音声と言えば俺が振る剣の音とノイリームの体を斬る音だけ。

 当然ながらノイリームの数は減り、俺の数は減らない。


 あの快速を誇ったノイリームもまた、十人の俺の刃によって斬り捨てられた。




偽ノイリーム隊長

職業:小悪魔

HP:0/300

MP:0

物理攻撃力:280(装備補正により320)

物理防御力:130

魔法防御力:210(装備補正により420)

素早さ:300

使用可能魔法属性:なし

使用可能特殊能力:速度調整




「他に速度調整を持ったノイリームはいないようです」

「ありがとう」


 本当はおそらく、普通のノイリームをぶつけてタイミングをわざと覚えさせ、その上でこの偽ノイリームの隊長と自分自身が突撃して俺たちを倒すつもりだったんだろう。

 もちろん数による押し潰しもあるが、ひとたび慣れてしまった物を元に戻すのはなかなか難しい。ましてや千人ともなれば、本来は十二分に覚えるに決まっている。

(セブンスが味方で良かったな)

 そのたくらみを打ち破ってくれた存在に俺は深く感謝すると共に、この魔法を切り開いた細川にも少しだけ感謝した。


「トロベ、本当にゴッシの部屋にこんな本があったのか」

「魔法を覚える本と言うより、魔力を増大させる本だったらしい。同じ人間に二度は使えないようだがそれでも効果はあったとオユキは言っていた」

「魔法って何それって人間に使われてなくて何よりだよねー」


 セブンスのおかげで、俺たちはこんな世間話をする余裕まで生まれている。そんな本があるんなら後で読みたい、って言うか赤井に読ませたいもんだが、俺たちにこっちの世界の文字を読む力はない。まったく、言葉は通じるのに難儀なもんだ。



「ええい……!キサマ!コーノとか言ったな!キサマだけでも!」

「私は負けないっての!」


 俺たちがテレビの向こうの戦争を見ている中、ノイリーム本体はまったく余裕なく剣を振り回していた。


 千人対八人のはずだったのに、気が付けば百人対千人になっている。分身が消えたらおしまいだろう。

 千人の俺の刃が、ノイリーム本体へと向けられる。逃げる事ができればいいが、それすらも河野は許しそうもない。


 河野は徹底的にノイリーム本体の隙を伺い、一撃でも加えようと躍起になっている。実際何発か当たっているのが見えると言うか見せられているが、かすり傷ばかりで致命傷は一つもない。


「そんなところに立って人を見下して!」

「私はただ普通に戦おうとしていただけだ!」

「裕一を危険にさらしちゃダメなの!」


 信号機の上に仁王立ちするノイリーム本体の周りを飛び回る河野の剣の速さが落ちる事は全くない。ノイリーム本体も速度調整を最大限に振っているようで俺の目が追いつかなくなって来たが、それでも河野に有効打を与えられているようには見えない。




 そして。




 俺はひもが切れた音と、信号機から落ちた光の存在を確認した。


「ううう……!」


 それと共に、両足を踏ん張って仁王立ちしていたノイリーム本体が揺らぎ出した。

「決まったのか?」

「おそらくはあのペンダント!」


 魔法防御力;装備補正により700…………わざとか否かはともかく、河野の一撃がその魔法防御力に補正をかけているペンダントを叩き落したらしい。


「ぐぐぐ、くそっ、ウエダめ、ウエダユーイチめ……!」

「何のつもり!」

「ダメだ……ここ、ろが……抑えきれん!!」

「あっちょっと!」



 これによりヘイト・マジックがついに通ってしまった。


 ノイリーム本体は俺であふれかえった道路へと飛び込み、目の前の俺たちを手当たり次第に斬りまくった。



 だがその結果は悲しいほどに見え透いており、すべての攻撃が勝手に俺をハブりまくり、そのまま俺たちからの攻撃を受けてしまった。


 速度調整でタイミングをずらそうとするが、結果は何も変わらない。速くすれば大振りの攻撃がかすり、遅くすれば振り遅れが命中する。そして俺の攻撃は俺をハブり、ノイリーム本体のみを狙い続ける。




 盾となり矛となるべき偽ノイリームも、もういない。




 あっという間にノイリームは満身創痍となり、本当の俺にたどり着く事すらできなかった。青い血をまき散らしながら道路のはるか遠くまでおいやられ、そこで河野の双剣を胸に受けていた。


「これがヘイト・マジックの恐ろしさか……だが覚えておけ!魔王様は決して、こんな風に敵意に駆られ、道を誤るほど弱くはない……!ひと時の勝利を味わい尽くせ!」




 そこまで言うとノイリームの姿は塵となって消え、都会の上空へと舞って行った。




「あっぱれな最期であったと褒めてやるべきか……」




 トロベがため息を吐く間に、千人の俺は血まみれになりながら消えた。


 残ったのは、まともに戦いをした気分になれない俺一人だけだった。

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