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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-前編
350/631

本物のノイリーム!

「まったく、あ奴を破るとは大した人間たちだ!」

「お前が本物の……!」

「そう、正真正銘のノイリームだ!」


 さっきのニセモノに比べて体の色が濃く、その上にやけに目立つ青いペンダントを首からさげている。




ノイリーム

職業:小悪魔

HP:500/500

MP:0

物理攻撃力:350(装備補正により400)

物理防御力:350

魔法防御力:350(装備補正により700)

素早さ:400

使用可能魔法属性:なし

使用可能特殊能力:速度調整、※※※※




「すみません、読めません……!」

「十分だ」


 どうやらあの青いペンダントはそういう防具なのだろうと言う事はわかったが、あとは偽物と比べてそんなにスケールが変わっている訳でもない。

 もちろんあの偽物があんなすさまじい力を発揮した以上本物を侮る事など土台無理な話だが、それでも少しだけ拍子抜けさせられもした。


「とは言え未知の特殊能力であります」

「…………お前も魔王様のためにか?」


 俺はようやくコーラを飲んでいるセブンスを横目に、じっと本物のノイリームをにらみつける。

本物様はさっきの影武者同様、一目甘ったるそうに見えて実に鋭く厳しい目をしながらこちらをにらみ返して来る。


「当たり前だ。このノーヒン市は魔王様の城からほど近い。戦争で荒れ果てた、と言うか荒れ果てさせてしまった南地区と違い、この地域はかなり優れている。この地域の力を手に入れれば、魔王様がこの世界を収めるのはたやすい……」


 一見真剣だが、よく考えるとおかしい。

 魔物たちがコンビニに入っておにぎりを買い、さらに高層マンションに住んでそこでシャワーを浴びるとか、正直想像するだけで笑えて来る。

「赤井……」

「なくはないでありますが……」

 お前が言うなと言われれば言い返せない話だが、これまで戦って来たファンタジー世界バリバリの魔物がどうしてこんな世界を求めるのか、明らかなミスマッチである。



「この町はゴッシと言う悪党が支配していた、そのゴッシを半ば傀儡にして戦争を起こし国家を乗っ取ろうと言う計画だったのだが、貴様のせいで台無しだ……」

「それはもう聞いたよ」

「だがとは言え、まだ北の国がやって来るには時間がある。その間に貴様らを討ち、そしてこの町をそっくり手に入れればどうせ同じ事……」


 ここで俺の腕にいきなり負荷がかかった。

「やっぱり速度調整か」

俺がとっさに受け止めると、河野がノイリームをそれだけで殺せそうな顔でにらみつけた。


「ずいぶんと獰猛な猛獣を飼っているようだね……」

「人間に向かって猛獣とは何だよ」

「その戦いぶり、まさに猛獣だよ。飼い主に危険が及んだと思えばすぐさま食い尽くしに行き、その死肉を持って帰って尻尾を振る……」

「お前の方がよっぽどずいぶんだな」


 言い返してみたが、実際河野の顔は怖い。さっき俺らに向かって吠えていた時は真剣さと同時に善意があったが、今の河野には敵意しかない。


「裕一……どうしてもやらなきゃダメなの」

「魔法はまだまだ生きている。おそらくはあのアクセサリーで耐えているんだろうけど、それでもまだ魔法が消えるのには時間がかかる。それこそ敵がいなくなるまでだよ」


 ヘイト・マジックの効果が切れるのにかかる正確な時間はわからない。だが今の俺の体が依然として赤く光り続け、敵意ある者を誘っている事だけはわかる。



「今のはほんのごあいさつ……さて、本当の力を見せてやるか……」

「どんなに速い攻撃でも私が受け止めてやるから!」


 目の前の魔物もまた、すぐに喰ってかかろうとこそしないがそれでも大きな敵意をたぎらせながらこちらの死を願っている。


「できるかな……!」

「そんな一本の剣なんか!この二刀流で!」


 さっきノイり~ムを討ち取った剣を突き付ける河野だが、エクセルとトロベの目はいささか冷ややかだった。


「やっぱり素人……」

「俺もそう思うよ

「いみじくもその通り。その剣はしょせん素人の剣……一人や二人の影武者を討ち取った所で……!」


 河野の剣は、俺から見ても正直うまくない。俺に負けず劣らずのゴリ押しの剣で、スピードと手数だけで全てをどうにかしようとしている。

もしそれがこんな奴にと思わせてしまうのならば好材料ではあるが、ノイリームも笑っているようにそれもまた現実だろう。




「何よ、二人や三人……!」




 そう凄む河野だったが、そんな彼女に叩き付けられた現実は凄まじかった。




「ここここれは!」

「百、いや、二百、五百……!!」


「違う、千だ!」




 都会の空、高層ビルの最上階周辺まで覆い尽くす、千匹のノイリーム。




「どうしても……裕一を殺す気なのね……!」

「ああそうだ、彼ほどの脅威はいないからな……」


偽ノイリーム

職業:小悪魔

HP:250/250

MP:0

物理攻撃力:250(装備補正により290)

物理防御力:125

魔法防御力:200(装備補正により400)

素早さ:250

使用可能魔法属性:なし


 本物よりスケールは小さいがそれでも手ごわい。特殊能力がないのが救いかもしれないが、そんなのはこの数の前では雀の涙だ。


「オユキ、吹雪を……」

「この魔法防御じゃ……!」


 氷の魔法も、ヘイト・マジックが効かないほどの魔法防御力の持ち主ではあまり当てにならないと来ている。

唯一防御力は低いようだが、それでもこれだけ数が揃うとまぐれ当たりが存在しない保証ができない。



「裕一を傷つけるなど、この私が許さない!!」



 河野が空を舞い、ノイリームの大群へと突っ込む。



「なるほど、その手で来るか……だが……」



 ノイり~ムとの戦いで河野の事を知っていたノイリームは特段慌てふためく事もなく、極めて冷静に右手の剣を振っただけだった。


 その合図と共に戦闘の数十匹が河野に襲い掛かる。


「ええい!」


 どんなに怒りに任せた所で、火力が足りないって現実の前にはどうにもならない。


 守りこそ脆いが数で圧倒する偽ノイリームの前に、ただでさえ不安定な河野の剣が決定打を与えられる保証はない。




「このままじゃ河野が……!」

「とは言えこれ以上ヘイト・マジックを使えば!」

「かき集める事はできるだろうが」


 まず数が恐ろしいし、それ以上にここで下手に消耗して本物のノイリームに勝てるのだろうか。


 そう考えると、どうにもこうにも手の打ちようがない。


「河野がどれだけ持つかわからない……だが……」




 再び何もできない自分を思い知らされた俺だったが、勝ち誇るノイリームに謎の攻撃がいきなり加えられた。

「そんな攻撃に何の意味がある……?」

 空き缶を斬り上げたノイリームが笑う中、その投げた張本人は顔を伏せながら自由になった両手を高く上げていた。







「ユーイチさんを悲しませるなど、私も許しません……」







 セブンスが顔を上げると同時に、また思いも寄らない人物がアスファルトの上に現れた。




「何だと……」




 俺が、いる。







 もう一人の、いや……







 もう千人の俺が。

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