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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十一章 魔王軍、都会に来たる!-前編
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ノイ※※ム!?

「来た!」


 ノイリームが俺に向かって来た。


 相変わらずすさまじい攻速だが、いつの間にか目が慣れてしまったせいか受け止める事ならばできる。




「なんだこれ……重くないぞ」


 そして冷静に受け止めてみると、案外ノイリームの刃が重くない。

 数字ほどではないのか?あるいは手数優先なのか?

(赤井も機敏だよな……)

それとも赤井に補助魔法をかけてもらったからなのか?


 まあいい、このまま受け止めていればいずれは河野が何とかするだろう。もちろんトロベたちだって……。




「ちょっと!!」




 とか楽観的な事を思いながら攻撃をあしらっていると、いきなり首根っこをつかまれそうになった。


「なんでそういう事するのかなあ!」

「しょうがないだろ、勝つためには!」


 河野が、空振った右手を手持ち無沙汰そうにしている!ったく、この命のやり取りの最中に何やってるんだよ!


「だから、こんな危険なのに関わっちゃダメって言ってるでしょ!」

「俺はもっと危険なのにいくらでもかかわって来てるんだよ!この前は銃を向けられたぞ!」

「まったく、そんなのは私が止めてあげたのに!」


 なんだこの言い草は。

 近所のお姉ちゃんっつーか、完全なオカンムーブだ。子供が少しでも危ないことをするとパッと現れてきっちり言うべきことを言って、素直に頭を下げれば非常に優しいけどそうでないと反省するまでいくらでも言い聞かせる、真剣な母親の目だ。


 だがその慈悲深さは、TPOをわきまえないで発動される事がままある。こんな生死をかけた場で口を動かすぐらいならば、剣を一振りしていた方がよっぽど効果的だ。


「俺らの最優先課題はノイリーム討伐だろ!」


 河野はノイリームの立場を全くわきまえてない。

俺が叫びながら剣を振っているのに、まるでいたずら扱いだ。


「お前ら、私をなめているのか!」

「そんな危ない物はポイしなさいよ!」

 当然ながらキレたノイリームに対し、あくまでもオカンスタイルを崩そうとしないまま河野は後ろから斬りかかる。


「河野……」

「私が全部やってあげるから、裕一は後ろで見てればいいの!そんな危ない事しちゃダメ!」

「するもしないもないだろこんな状況で!」



 俺と河野に挟まれたノイリームだが、ヘイト・マジックが効いて来たのか俺にしか刃が向けられない。

こうなると刀を下ろしたくなるが、その暇も与えないのはさすがと言うべきか。


「こっちは真剣だ!真剣に魔王様のためを思い、魔王様のための!」

「魔王様のためか!だがこっちだって仲間のためにやってるんだよ!」


 必死に高速で動き逃げ回りながらも、俺を狙って来ている。ヘイト・マジックにかかった奴らの共通の特徴だ。こうして疲弊したり隙を作ったりした所を後方から狙い切り落とす。その繰り返しで俺は戦って来た。


「改めてすごいなって」

「これが私たちの戦いであります」


 さっき集団で襲い掛かって来る敵を薙ぎ払ったが、個人戦でもこの戦い方は有効だ。

(普通の精神状態だったらまず間違いなく心折れるだろうな……)

 いくら攻撃しても一発も当たらないとなれば、最初はまぐれだと思いこみ、途中からいらだち、しまいには気力も失せてしまう。

 ましてや俺自身が突っ込んで行った場合、かすらせる事もできない。俺の攻撃が当たるとは一言も言えないが、だとしても普通は心が持たなくなる。


「河野さん、上田君は十分に強いんだからさ、もう安心して任せなよ」

「そんな事言われても……!」

「河野が押しまくっているノイリーム相手に俺は防戦一方だ!」


 だがしょせん、この力は防御のための力であって攻撃のための力じゃない。いつもカッコよくとどめを刺しているのは市村であり、俺はあくまでも引き付け役に過ぎない。今回、市村から河野に変わっただけだ。


「河野!平林の言う通り、ノイリームにとどめを刺せるのはお前しかいない!」

「そうだよ、頼むよ!」


 河野は市川やオユキの声援にも泣きながら歯を食いしばるばかりだった。

 俺がこうして引き付けているせいで一方的な形勢のはずなのに、なぜここまで苦しむ必要があるのだろうかと言うぐらい苦しんでいる。



「私は、裕一を守るために戦う!だから今は、裕一を苦しめる奴を許さない!」

「むぐぐぐ……!」


 むやみやたらに歯を食いしばりながら振られる刃が、次々とノイリームの体を削って行く。うめき声がノイリームの口から飛び出し、体を青く染めて行く。

 だが、やっぱり決定打がない。確実に弱ってはいるが、どうにもこれだと言う一撃がないまま時間ばかりが過ぎる。

(こうなると俺も動けないか……)

 ぼっチート異能ってやつは性格上、ノイリームを狙う河野の攻撃が俺へと流れない保証はできない。俺が下手に刀を引っ込めて素手で殴りかかろうとすれば、こっちが河野の剣激をもらいかねない。耳障りな音を立てながらも、こうして剣を突き合わせているほかないのだ。



「おのれ、ウエダユウイチ……!」

「なんだよ」

「キサマだけでも、キサマだけでも……!」


 幸い数分の間に微細な打撃が蓄積されて来たのかかなり動きが重くなって来たが、その分だけ目が据わって来た。走り回りながらもずっとこっちを睨み続け、その上でなお必死に剣を振っている。

 その度にますます傷が増えるのにも構う事なく、ノイリームは澄ました顔を崩しながら攻撃を仕掛けて来る。


 青い血のサークルを地上に描きながら走り回り、だんだんと減速しながらも、逃げながら攻撃を続ける。敵ながらあっぱれとでも言いたくなるほどだ。

だが現実は、執念深さだけでどうにかなるものでもない。



「うう……!最高、速……」

「覚悟!」



 河野の二本の剣が、ノイリームの背中に深く刺さった。

 その剣と共にノイリームは俺の右横に向かって前向きに倒れ込み、最後の悪あがきのように剣を遠く離れたトロベの方へと滑らせた。


「大丈夫だ、どうと言う事はない。しかし、コウノ殿が与えていた蓄積ダメージがついに限界に達したと言う訳か……」

「見えるぞ、私にも見える!……であります」


 魔法とも違うチート異能で速度を高めていたノイリームであったが、やはり肉体の負傷はどうにもならなかった。たび重なる負傷がノイリームの速度を削り、最高速でさえも俺の目に入る速度になっていた。



「まったく、さすが最強の小悪魔だ……」


 俺がため息を吐きながらノイリームの背中に刀を刺そうとすると、いきなりノイリームが仰向けになった。



「そんな力はまだ残っていたのか……」

「フン……バカめ…………」

「魔王様が本気になるって言うのか」

「魔王様?魔王様が出るまでもない、本物のノイリーム様がな……」

「本物!?」




 ……何、「本物」!?


「お前ニセモノだっつーのか!」

「そうだ……本物のノイリーム様は、こんなに弱くはない……せっかくの防備も、台無しだが、まあいいだろう……」


 倫子の目が激しくまばたきしている。




ノイり~ム

職業:小悪魔

HP:1/400

MP:1

物理攻撃力:310(装備補正により360)

物理防御力:310

魔法防御力:320

素早さ:340

使用可能魔法属性:なし

使用可能特殊能力:速度調整




なんだこれ!




ノイリームじゃなくて、ノイり~ム!?




「くそ……!」

「ひと、時の、勝利に、浸るがいい……!」


 ノイり~ムは、俺に心臓を串刺しにされながらも実に満足そうな顔をして目を閉じた。


後味は全く良くない。


「本物はこんなに弱くないって事かよ…………!」


 字面こそマヌケだがニセモノでこの力となると本物は……。




「これはかなり厳しい戦いになるな……」

「……ああ」




 市村も河野も、深くため息を吐いていた。俺だって吐きたい。




 ……あ、河野の顔が明らかに違うが……。

作者「来週の19日でこの作品一周年なんだよね」

上田「なんか企画あるの?」

作者「一応それっぽいのが……」

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