平林倫子
第十章最終話です。
上田「と言う訳で文化の日だってのに明日の投稿はなしだ」
作者「外伝はあるからさ……」
「明日からまた、その子たちを救わなきゃならねえ」
今の俺らは、とりあえずこの町に残されたトードー国の女子たちを救わねばならない。別に最終目的に関係する訳でもないだろうが、それでも平林を支えてくれた子たちだ。
サテンとかは支えてくれたみたいに言ってるけど、サテンだって平林を支えていたに決まっている。
「だが俺たちはどれだけ頑張ればいいのか」
「敵の戦闘力は正直低くないであります」
「わかるのか?」
「実は先ほど平林さんに教えてもらったのであります」
そして平林にもチート異能があった。
「能力値、って言うか数字が見えるんです」
その数字、RPGのステータス表示よろしく見えるらしい。
ゴッシ
職業:マフィアのボス
HP:0/70
MP:0
物理攻撃力:100(銃の攻撃力は加味されない)
物理防御力:70
魔法防御力:200(デフォルト20)
素早さ:100
使用可能魔法属性:なし
セイシン
職業:サムライ
HP:300/300
MP:5
物理攻撃力:300
物理防御力:150
魔法防御力:180
素早さ:290
使用可能魔法属性:毒消し
例えばあのゴッシとセイシンさんはこうなってるらしい。
数値からすれば、ゴッシは銃頼みだったと言う事でいいだろう。HPがゼロなのは死体のステータスを表示させたせいらしく、それ以外の能力値はほぼ生前そのまんまと見ていいだろう。
で数字には武器防具やアクセサリーなどによる補正も計算されるようで、これだけでもセイシンさんが強いって事が分かる………………と思いきや、銃の補正は加味されない?
「まだ銃はあると見るべきだろうな……」
「ごめんなさい」
「一向に構わないよ」
「それより気になるのはこっちです」
そういいながら平林が出した、また別のステータス画面。
ナクヨ
職業:槍術士
HP:0/700
MP:0
物理攻撃力:150
物理防御力:250
魔法防御力:300
素早さ:70
使用可能魔法属性:なし
「なんだ、かなり強かったのか」
ナクヨってあんな口だけの奴かと思いきや。ぼっチート異能がなければ勝てなかったってのか。
「何悠長なことを言っているのでありますか上田君、さすがに個々人がここまでとは思わないにせよ、残るマフィアたちがこのレベルとさほど大差ないと言う可能性は考慮しておくべきであります」
「それは極端だとしても、最悪の場合を考えてそれ以下ならばと言う理屈はあるな」
だがそんな油断した発言を吐いた俺に対し、赤井が鋭くツッコんで来た。
実際赤井の言う通りだ。これから待つ敵がナクヨより弱いだなんて保証はどこにもない。
「とりあえずはホテルへ入るか」
「いやその前に、平林……」
ゴッシの残党を全て片付け平和な町にしたいとか言うのは欲張りだとしても、とりあえずまずは目の前の平林を何とかせねばならない。
「平林、どんな暮らししてたんだ」
「川の水を飲んだり浸かったりして、野草や廃棄品を口に入れて、それでわずかなお金で何かを買ってはみんなに配ったりして」
「ホームレスそのものであります……」
三田川はこうして平林が苦しんでいるのを笑っているんだろうか。あるいは本気でこうして苦労する事により人間として成長できるのだと喜んでいるのか。
前者のような人間であってくれと言う俺の醜い願望を受け入れてくれない事など、もうわかっている。
「センスは大川とセブンスに任せる。金に糸目は付けない」
洋品店に女性二人と共に行かせる事とした。
幸い金ならある。
元から持ってたそれに加えあのビルの最上階でゴッシが持っていた、おそらくはトードー国から脅し取っただろう金を、悪いがどさくさ紛れでネコババさせてもらう事にした。
ああ、もちろんセイシンさんと話し合った上で、今回の仕事の報酬としてだ。
「セブンス、大川、頼むぞ。俺には女性の服のコーディネートなんてできねえからな」
「コーディネートって飾り付けの事?」
「まあ、そうだな」
「コーディネートにはあるの、こうでねえといけねえっての?」
「アハハハハハハハ……!!」
ああ、平林が硬直してる。
って言うかとりあえず落ち着いたからってオユキも飛ばすな、そんでトロベも相変わらずだな……。
「二人とも大変善良であります」
「あははは……」
まあそんな二人のおかげで今後ともうまくやって行けそうではあるのは何よりだが。
「やっぱりさあ、これぐらいきれいな物を着てしかるべきよ」
「素材がいいとこうなる物だな」
「もしこれが贅沢だって言うんなら、正直頭おかしいよね」
で、完成品。
本人の好みだと言う事か茶色のトレーナーに、やはり茶色のスカート。靴も地味なスニーカーで、靴下もかなり濃い紺色である。
「本当はジーンズとか履きたかったけどね、この尻尾がね」
「しかし改めて風俗の差を感じるな」
「俺たちの世界ではありふれた平服だ。いくらだったっけ」
「銀貨十枚」
尻尾を振りながら平林は薄く笑う。
ファストファッションの店でもなさそうだったのに銀貨十枚、≒一万円。
実際には下着代も入っているらしいが、それを決して高値とは思えないのが俺たちだった。
「でもこの町に住んでいる、いや住まわされている子たちにとっては銀貨十枚などものすごい大金であります……」
「実は私もたくさんの銀貨はありましたけど金貨は見た事がなくて……」
だからと言ってこの金をこの町に残った獣人たちに分け与えるつもりはない。冷たいかもしれないが、セイシンさん曰くあるいはこの町にしばらく滞在し、その度に残っている存在に自分なりの答えを求める事にしているそうだ。
「権力を使っていい、強引にでも魚の取り方や田の耕し方を教えろと言うのがセイシンさんの方針だ」
本当、その配慮がほんの少しだけでもあの二人にあればこんな事には……なんてのは言い訳だな。
「とにかく今日は終わりだ。平林、一緒にホテルに入るぞ」
とにかく平林の着替えを終え元の服をビニール袋に突っ込んだ俺たちはまたホテルに入った。町のボスを殺したってのにフロント係のお人は全く変わらない様子で俺らを出迎え、今度は二階へと案内した。
ちなみに今日は二食付きである。
「今頃平林さんは至福の時間を過ごしていると思われるであります」
「男三人はババ抜きだけどな。ああ上田、バレバレだぞ」
「もう一回!」
あったかいお湯に浸かり、一個百円未満の石けんで体を流す。そんな当たり前の生活が、三田川により奪われていた。いやそれはこの世界に来たみんな同じだろとも言えるが、元々平林はトードー国ではVIP待遇でありそれなりに豊かな暮らしをしていたし、入浴も二日に一回ではあるがしていたらしい。
そんな物を奪った三田川への憤りを隠さないままババ抜きをしたせいかあっさり惨敗した俺はやけくそになってもうひと勝負を乞うたが、結果は全く同じだった。
「コインランドリーあったよな」
「便利なホテルであります」
「とりあえず俺が入れて来るよ」
古めかしい洗濯機に銅貨を入れ、汚れた衣類を突っ込む。もちろん今までもやって来た事だが、それでもピッピッピッで終わるのはありがたいことだ。
「……」
無言で女物の服を入れ、終わるのを待つ。
低い所から見る夜景も、きれいではある。だがその夜景を成り立たせている存在の事を思うと、心底から楽しむ事はできない。
「終わったの?」
「今やってる所」
ほどなくしてやって来た平林、いや倫子は実にきれいな顔をしながら、肉球をこちらに向けて来る。実に幸せそうな顔だ。
「今日はヒラバヤシ殿と二人で過ごすべきだ」
「賛成よ」
「私もそう思います」
「大丈夫、お金はあるから」
洗濯物を取り込みながら部屋干ししようとしていると、洗濯機に関心しきりだったセブンスらに呼び止められて口々にそう言われた。
その上で四人の女子、とりわけセブンスに強く言い聞かされ、そんな訳で洗濯物を四人に渡して俺と平林、ホテルの二階の部屋で二人きり。
「平林……」
「上田君、倫子って呼んで?」
全身から薄汚れた部分がなくなった平林は、狼の耳をぴこぴこ動かしながら寄って来る。
ずっと三田川に押し込められてきた姿しか見て来なかった俺、いや他の十八人にも見せた事のないほど甘ったるい顔をして。
「本当は私、つらかったの……」
「……ああ、だよな……」
「どうして私がって、なぜ三田川さんは私を……」
「…………ああ…………」
「どうしてって聞いてもそれはあなたがぐうたらだからしか言わなくて!」
言いたい事はいろいろあったが、黙ってうなずくだけ。
女性には話を聞いた上で意見して欲しい訳じゃなく、ただただうなずいてくれるだけでいいって時もある。
そんなセブンスの言葉を聞き入れ、俺はじっとベッドに座りながら平林、いや倫子の話を聞く事にした。
学校の中の事、この世界での事、中学校以前の事。
「寂しかったよ、ずっと、ずっと、寂しかったよぉぉぉ……うう……!」
やがて全てを話し終わった倫子は感情を抑える事なく俺に寄りかかり、俺の服を濡らした。
そしてそのまま泣き疲れて眠った倫子をベッドにあおむけにして寝かせ、改めて自分のベッドの寝心地を確かめるべくシーツを触ってみた。
本当にきれいで、すべすべしていて、まさに宿泊のプロだ。
(悪と信じて為された悪事千個より、善と信じて為された悪事一つの方が凶悪である…………)
こんなあったかいベッド、はともかくトードー国でもそれなりに立派な布団で寝ていたはずの存在の安らかな寝顔を見るにつけ、俺は自分が普段送っていた生活のありがたさと、三田川恵梨香に対する憤りを膨らませた。
とにかくこの日、俺たちの旅に七人目の仲間が加わった。
クラスメイト、平林倫子、職業、ワーウルフ。
とりあえず、その事だけはめでたかった。
作者「あともう一話おまけで付けました」
上田「読まなくても差し支えないぞ」




