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いつ以来かわからないほどの打撃

「くっ……!」



 刃が刺さった左頬が痛む。



 痛みの元を抜いて投げ付けてやったが、ゴッシは全く動じていない。


 その痛みの元を握った手は赤く染まり、思わずなめてきれいにしてやりたくなる。

 実際なめてみると、確かに血の味がした。



 こんな出血、クチカケ村への山を登った時以来だった。紙で手を切ったとか言う話もなく、あれほどまでの刃傷沙汰に見舞われながら全く無傷だった。


「どうした?当たりもしないのに?」

「ふざけるな、こんな流れ弾のおまけの当たりが!」


 俺は必死に痛みをこらえながら刀を握る。

 だがいつもにもまして鈍っていた刀はゴッシに届く前に、ゴッシが持ち替えた剣によって弾かれてしまう。



「相当に上質なドアなんだろ?」

「わかっているならそのドア代を弁償してとっとと帰ってくれたまえ。ちなみに金貨十枚だ」


 バカバカしいにもほどがある。豪奢そうに光る観音開きドアの真ん中の部分————取っ手の側をえぐった弾痕を作ったのは、ゴッシなのだ。



 しかしその銃弾によってはじけ飛んだ木片が宙を舞い、俺の頭や背中を襲った。


「そんな汚い背中を私に見せないでくれ」

「わざわざ見る事もないだろうが!」


 背中に飛んで来た木材は鎧を汚すだけで済んだが、頬に飛んで来た木材を避けるすべはなかった。


(まったくとんだ傷が残ったもんだ……って言うかまさか、ぼっチート異能を把握した上で……!?)


 ぼっチート異能とか言うが、所詮は害意を持った攻撃にしか効かない。

 挨拶のつもりで派手に肩を叩かれるような時には無効なのだ。


 クチカケ村の時も、俺以外の誰かを狙った攻撃が反れて俺の肉体に打撃を与えた。まさかそれを関知されたわけでもないだろうが、実に有効かつ見事なやり方だ。


「ナクヨを始め部下たちにずいぶんと手荒な真似をしてくれたそうだな……だが彼らの犠牲のおかげで君の力を知る事ができた……彼らには後で礼を言わねばな」

「そんなに頭が回るんなら、もっと他の事に使えよ!」

「何を言う。君のような素晴らしい力の持ち主を味方に加えると言うのが素晴らしくないのか?いや負かしたとしてもその名は高く上がり、他の国も我々の素晴らしさを理解するだろう」

「ふざけるんじゃねえ!」


 痛みをこらえながら飛びかかるが、ゴッシはベッドの上に土足で上がりながら右手で銃を抜き、今度はドアの豪勢そうな取っ手を狙いやがった。


「てめえ!」

「おおっとあわてないあわてない、拙速はすべてをふいにするよ」

「本当にナクヨの上司だな!」


 凶器を突き付けられておきながら、金貨一枚以上しそうな服を着て平然と笑っている。

 その上でさっきドアノブにぶつけてあらぬ方向に飛んで行った銃弾が壁に当たるのを見るや、また剣を握って俺の攻撃を受け止めて来た。


「ナクヨか、彼女はいい女だ。彼女のような秘書がいればこの世界を掌中に収める事など簡単だな」

「俺に蹴り飛ばされた程度の女に対してそんな評価かよ!」

「私の銃の腕はこの世界では頂点でね、まあ銃なんて知らない輩が多いだけだが」

「お前はどんだけ薄っぺらいんだよ」




 ナクヨもナクヨなら、こいつもこいつだ。

 あまりにもインチキくさい笑みを顔に貼り付け、きれいごとばかりを抜かしている。そのくせやっている事は一方的で暴力的な支配であり、盗賊よりもたちが悪い。


「俺でさえも数分で見敗れる程度のくせに粋がるんじゃねえよ!」

「はいはい、そんなに興奮しなくていいからさ」

「身のほど知らずが!」


 身のほど知らず。他に言いようがない。



 俺だってお互い様かもしれないが、少なくともこのゴッシってのは小物だって事はわかる。


(人の言葉を真摯に聞く気もねえ、わかったふりをして自分が正しいって言いふらそうと懸命になってる。耳を貸さない奴を取り込む気もなく、質問してるように見せて反論すれば論破してやろうと躍起になってる。しかもマウント取りにためらいも間隙もなし……)



 右足ローキックでベッドを蹴っ飛ばしながら刀を突き出してやるが、相変わらず安っぽいポリゴンお面の笑顔を崩す様子がない。

「この!」


 それでも体勢を崩させて一撃、左手の中指の先に当てる事には成功した。そこから飛び散った血がベッドの上に落ちる。あーあ、たやすく取れそうにねえな。


「大事なベッドに血なんか落とされたんだぞ!悔しくないのか!」

「何を言う、血なら幾度も落ちているよ。私たちの素晴らしさを理解した少女たちによってね」


「てめえこの野郎!!」



 少女の血をベッドに流すと言う事は、何よりも神聖な事。俺はずっと一番身近な女性からそう聞かされて育って来た。

 そんな神聖な儀式をこんな奴にやらせるだなんて!



「どうしたんだいいちだんと熱くなって」

「トードー国の親たちの無念を思い知れ!」

「だから君はお子ちゃまなんだよ」

「お子ちゃまの一言で逃げるんじゃねえ!!」


 こいつだけは生かしておけねえ!俺は数年分の怒りをぶつけるかのように、やたらめったらと言う勢いで刀を振った。

 一応狙いとしては右ポケットの拳銃、それを斬るかさもなくとも使えなくさせればなんとでもなる。


 だがすぐさま見抜かれたかゴッシも銃をかばうように剣を振り出して来た。ったく、不安定なベッドの上でよくやるよ!



 しかし、俺だって素人なりには経験を積んで来た。隙がある事ぐらいわかる。


「どうだ!」

「ぬぬっ……!」


 スーツの左下部分から大きく斬り上げ、その反動で肩口の方までやってやった。


 あーあ、高級なオメシモノが無残だぜ。



「やってくれたね!」


 口調こそそのまんまだが激しく叫ぶようになったゴッシ。

 ったく、ようやくイイ男のふりをやめたのか……と言いたいが、まだインチキな笑みを貼り付ける余裕だけは残っているらしい。

 ああムカつく!


「この一撃で!」



 全て終わらせてやると思いながら、俺はベッドの上で踏ん張るゴッシの心臓を一突きにしてやるべく強くにらみつけた。



 ドン



「うん?」



 だがここで、いきなり壁に何かがぶつかる音が鳴り響いた。


「ええいこの!!」


 それでも今は目の前のゴッシだとばかりに、気を取り直して自分なりの最高速の突きを決めてやった。


 本来なら心臓をひと突きにできるかもしれない、と言うかそのつもりだった。




「やらせるか!」




 逃げられた訳でも、ゴッシに受け止められなかった訳でもない。



「ゴッシ様をやらせるか!」



 ……ナクヨが、いつの間にか戻って来ていたのだ。

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