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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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冒険者デビュー戦

「ずいぶんと遠いな」

「乗合馬車を使えば十分足らずでありますが、何せ運賃がかかる物で……」


 さすがデカい市だからか、交通網はきちんと存在している。だが西門のすぐそばにあるギルドと二人の定宿から、延々四十分も歩かなきゃならねえとはな……。



 そんで東門には槍をばってんの字にした衛兵が二人、じっと身構えてた。



「アカイハヤトだな」

「いかにもアカイハヤトであります」

「お前はいつ依頼を受けたのだ?」

「今回はこちらの彼の冒険者デビュー戦を、しっかりと見届けるために来たのであります」

「おおそうか、お前らのような奴が最近多くて困るからな」

「何か俺しましたか?」

「いや違う、ただ頭の毛の話だ。今も同じ髪の色をした奴がコボルド狩りをしてるんだよな、まあ仲良く頑張れや」




 そして予想通りと言うべきか、ここにも俺らのクラスメイトがいるらしい。



「会いに行きたいもんだ。できればお前控えて」

「じっと観察させてもらうであります」


 ちゃんと任務は果たす。それでこそ冒険者であり、責任ある男だよな。赤井って案外、真面目なのかもしれねえ。まあ今の赤井は「聖職者様」だしな、その宗教の教義なんぞよくわからねえけど、間違いなく噓つきは大罪だろうからな。


「まあ、どうもよろしくお願いいたします」

「ちゃんとやらせてもらうのであります!」


 男二人、仲良く魔物たちの中へと突っ込んで行く————ああ、こう書くと実にマヌケだ。もっともそのマヌケなシチュエーションを、赤井と市村は何度もやって来たわけだけどな。










 で、やって来たのは森。セブンスの家の側の「林」とは違う森。


 ただ視界は広く、葉っぱの繁りそのものはそんなに多くはないし木も低めだ。その代わり木の数が多い。


「大体5メートルぐらいの木が立っているのであります、ここを少し進んだ広間の当たりによくコボルドは現れるのであります」

「しかしやっぱこれって、森じゃないんじゃないのか」

「森であります、森と言うことになっているのであります……」




 赤井がトーンダウンしてるし息も上がり気味だ、まあ確かにさっきから足がきつい。



 元々四十分歩いて来た上にこの森、はっきり言って坂道っつーか山道じゃねえか。一キロ歩くのに十メートルは上ってねえかこれ。


「言っておきますが回復魔法はかけないでありますので」

「本当にそう言う所、嫌いじゃないな」


 今さら後に引けねえとか言う気もないけどな、魔物に出くわさずに歩いてるだけじゃここ二日間とほとんど変わらねえじゃねえかよ。

 あーあそろそろなんか変化が起きねえかなぁ!




「あっ来たであります」



 と言う俺の期待に応えるかのように、さっそく魔物が現れた。


 犬顔の獣人、なぜか黒いパンツだけ履いた上半身裸の生き物。



「こいつがコボルドか?」

「いかにもであります」


 俺はようやく時が来たとばかりに剣を抜く。そしてコボルドは俺の存在を確認したか、右腕を上げて剣を召喚した。エノ将軍とほとんど同じことをやってるところからすると、あれはそんなに高等な技術でもなかったのか?


(でもだとしたらそれはそれで厄介かもな。接近されて頭から剣でも降らされたら……)



 チート異能があるからとか言う考えは捨てなきゃならねえ。俺は俺の剣の腕、この二日間市村から教わった腕を見せなきゃならねえ。


「行くぞ!」


 俺は間合いを計りながらコボルドに迫り、十分に詰まったと見るや一気に叩き下ろした。コボルドが真っ二つになり、そのまま倒れて消えた。後には剣だけが残る。


「しかしさ、鞘のない剣なんて……」

「その剣は斬れない剣であります、試しに木の枝にでも触れてみるべきであります」



 そう思って残った剣を握って適当な大木に向けてその剣を刃先から根本までくっつけてみたけど、傷一つ付きゃしない。俺の剣で軽く触れるとちゃんと傷が付き、そして拳で殴れば木だってはっきりわかる感触があったのに。


 どうでもいいけどおかぐずの感触って案外気持ちいいもんだな。



「あのさ、だから銀貨とか銅貨とかにするってのはわかるけどさ……」

「私たちも同じことを五回やったのであります………………」


 コボルドの中に、それに気づく奴はいねえんだろうか?剣を振りかざすレベルの知能があれば気付きそうなもんなのにな、どうにもおかしな話だぜ。




 まあとにかくこの何にも切れない剣を布で適当に包みながら、俺は先へと進んだ。


「これから先は本当に死にかけない限り助けないのであります、助けて欲しければ報酬として剣四本を渡すのであります」

「それマジの規則?」

「正確には銀貨二十枚でありますが、まあどっちでも同じと言う事で。ギルドにはそういう需要のための聖職者もいるのであります」

「ずいぶんとよくできてるな……」


 俺がコボルドたちの相手をする間も、赤井は淡々とこの世界の仕組みについて解説してくれている。なるほど、冒険に行って無傷で帰って来られるような強者ばかりなわきゃねえもんな。


 ましてやZランク冒険者ってのは、文字通りの最下級。それこそけが人なんか日常茶飯事なんだろうな。俺みたいな田舎剣士、ただ単に既に名の知れた冒険者の推薦とほんの少しの読み書きができるだけでもなれるような世界だから、そういう人間は多いはずだ。



「まさかWランクになったのは」

「いやそれは、ほんの二つほど盗賊団を滅ぼして五十人ほど引き渡し、その前にここのコボルドを含め魔物を二〇〇匹ほど狩っただけでありますが」




 それを真顔で言いやがる程度にはこの世界に慣れ切っちまった赤井から少しだけ距離を置きながら、俺はコボルドたちを狩る。


 まあ、コボルドって奴の剣はまるでスローモーションみてえに遅いし、走って突っ込んで来たとしてもエノ将軍やデーンに比べれば遅い。


 五匹目からはまるで雑談をしながら飯でも食うようにコボルドの置き土産を集め、そして徐々に背中が重くなる。背筋も鍛えられそうだ。




「おいおいあそこ……」

「自分の仕事に専念してくださいであります、他人は他人であります、二人で受けているのとは違うのであります」


 そんな風に余裕もあったから、他の冒険者の姿を見つける事もできた。

 ベリーショートってとか無造作ヘアとかってのとは違う、何か中途半端な後頭部。



 そんで、真っ黒。



「あれもしかして、もしかしてだけど」

「断定はできないであります、しかしあくまでも私の任務は上田君の見届け人であります」

「でも助けろと言われれば助けるんだろ?」

「押し売り厳禁であります!かすり傷に回復魔法を使って追放された聖職者崩れとも対峙した事がありますゆえ……」



 楽なんだか世知辛いんだか……ああ、疲れるねえ。って言うか体重いんだけど……



「確かに細く見えますけどそれ一本で一.五キロはくだりませんよ。上田君ってずいぶんと力持ちでありますな……」

「計ったのか……?」

「いいえ適当であります、しかしここまでこうも簡単にこなすとは……」




 結局、三十四本も集めちまった。赤井の言葉を真に受けるんなら五十キロ近くになる。


 そこまで重くは感じねえけど、実際背負いきれなくなって最後は左腕に持たなきゃいけねえ状態なのも事実だったしな。



「にしても下りの山道ってきついな」

「こういう所で不意打ちをしてくる輩もいるのであります、もちろんバレれば追放です」



 いちいち言う事が物騒だよな、赤井も市村も何やってたんだか、本当格が違うぜ……。




 にしても誰だろ。どっかで見たような後頭部だったんだけどな…………。

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