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救出、ヒラバヤシリンコさん!

 守りの力にくるまれ、身を守っていたグベキその3。

「さっき押された時に気付きました!」

「よっと」



 そのグベキその3に向けてオユキさんが氷の矢、いや、先ほど打撃を与えた誘導弾を投げ付けます。



「そんな攻撃など!」

「はいよっと……」


 少しだけつらそうな顔をしながら、必死に一本の氷の矢を動かしています。スピードもさることながら、まったくブレーキがかかる事なく正確に飛び回りグベキその3を狙っています。

(これを避けられるのはユーイチさんだけですね!)

 私が心の中で目一杯の賛辞をユーイチさんに送っていると、氷の矢がグベキその3の前で弾けました。


「触れていないであります!」

「と言うかかなり目の前で破裂したぞ……!って、あっ!」


 飛び散った氷がアスファルトにへばりつき、相変わらずきれいな輝きを放っています。

 しかし足にも、顔にも、氷はくっついていません。


 って言うか浮いてます。



「……わかったとしてどうするのだ?」

「なれば破るまで!」


 いつの間にかグベキその3の後方にいたイチムラさんが剣を振り上げますが、やはりバリアに弾き返されて届きません。

「仕掛けを見破った所までは褒めておく!だがそれでどうなる!」

「おとなしく解放しろ!」

「馬鹿の一つ覚えが!」


 覆面越しでもわかるほどに目鼻立ちはすっかり歪み、殺意をむき出しにしています。

 襲い掛かるイチムラさんに悪態を付きながら、ヘイト・マジックの主であるトロベさんを殺すべく刀とシュリケンを放ちまくっています。



(どうして……?)



 なぜ急にこんなに熱くってしまったんでしょうか。

 これまでもヘイト・マジックによってたくさんの敵を倒して来ましたけど、今ここにいるグベキその3はこれまで私たちが同じように倒して来た敵の中で一番醜いかもしれません。


「私たちは七人です。七対一ならば負けても恥ではありません!」

「七人だろうと百人だろうと怠け、いや雑魚の野蛮人の集まりに負けては面子が立たぬ!」

「そうやって片意地を張って何になるのです!」

「黙れ!その程度の力で一体何が言える!ぬくぬくと生きて来た小娘が!」


 もし自分が無敵だと信じているのなら、こんな風に叫んだりやけっぱちになって攻撃などしたりしないはずです。ヘイト・マジックのせいにするとしてもあまりにも異様です。


「冷静さを失った忍者など、もはや雑兵にも劣るであります」

「忍者とは元来情報収集役らしいが、それがこんな真似をしていてはな……」

「おのれ貴様!その舌引っこ抜いてやる!」



 バリアの上に浮かび上がったり地面に転がったりしている氷全てを溶かしそうなほどにグベキその3は吠えます。


 しかし攻撃は相変わらず単調で、他の武器は何もありません。それで一体何ができるのか、まったくわかりません。




「うあああああああ!その頭をおおおおお!!」


 そしてその怒りのまま、グベキその3は刀をトロベさんの首元に向けて突き出そうとしました。


 その瞬間です。




「もらった!!」




 イチムラさんの剣が、グベキその3の背中を捉えました。


「なん、だと……!?」

「今しかないであります!」


 当たりとしては浅かったですが、それでも先ほど負傷した場所です。また血が噴き出し、イチムラさんを染めます。


「こんな、こんな魔術!」

「時すでに遅しです!」

「何を!」


 その衝撃のせいかヘイト・マジックが切れてしまったようですが、そんな事は関係ありません。



「何だと!!」



 そう、正面から来たのです。




 パラディンであるイチムラマサキさんが。




「まさか忍者に対抗して分身の術!?」


 分身の術とか言う言葉は知りませんが、今グベキその3は「イチムラさん」に挟まれています。







 前からは本物、そして後ろは私が作った幻影の。




「バリアを!」

「よし!!」


 本物のイチムラさんの剣が白く輝き、大きく振り降ろされます!

「ぐぐぐ……!!」

「そこ!」

 ガラスを割ったような音が鳴り響き、さらに幻影のイチムラさんの剣がグベキその3の頭巾を切り裂きました。


 さらに赤い液体がアスファルトに吸い込まれて行くのが見えます。




「不覚!だがお前らの手にはかからん!!」


 さあとどめと言う所で、グベキその3はいきなり消えてしまいました。




 真っ黒な石の付いた指輪だけを残して。


「逃げられた……」

「だが俺たちの目的は達成されたと言っていいだろう。それでわかるか」

「一応……強力な防御の魔法がかかっている上に緊急脱出も可能なようです」


 とりあえず拾ってみて魔力で分析してみると、防壁・危機時の瞬間転移の魔法がかかっている事がすぐわかりました。


 そして同時に、よっぽど魔力を注ぎ込まなければ使えないって事も。


「あの女のしもべだと言うのは本当のようだな」

「……しかしセブンス、実によくやった」

「自分そっくりの存在が現れたのに動揺しない市村君もすごいであります」



 ちなみに原理としてはビュー・マジックを地上に持って行き、その上でホソカワさんの力と合わせたのです。

 ホソカワさんには悪いですけど一度見たおかげでそのやり方、学んでしまいました。

「でもセブンス大丈夫、力かなり使っちゃったでしょ」

「大丈夫です」

魔力をコントロールするのって難しいですけどね、うまく幻影状態のイチムラさんを突っ込ませ、剣の先っぽだけ実体化できて良かったです。







「平林、もう大丈夫だから」

「ありがとう、本当にありがとう!」


 敵がいなくなったことを確認した私たちは、ようやくヒラバヤシさんの元へ戻りました。ヒラバヤシさんは両足でしっかりと立ち上がり、尻尾を振りながら私たちの手を握ってくれました。


「リンコさん!」

「サテンちゃん!」

「サテンさんのおかげであります!」


 そしてサテンもヒラバヤシさんの足元に寄り添い、本当にいい笑顔で笑っています。


「でもサテンちゃん、悪いけど私たちはこれからお友達を助けに行かなきゃいけないの」


 でもヒラバヤシさんの安全が確保された以上、ユーイチさんを助けない訳には行きません。そのためにはヒラバヤシさんの力はやっぱり必要ですが、こんな子をさっきのような殺し合いに巻き込むのはさすがに気が引けます。


「うん、我慢する。リンコさんの言う通り」

「私が守るわ、倫子をそうしたように」



 でもサテンって子は本当に素直でした。元々そうなのか、それともヒラバヤシさんのおかげなのかはわかりませんけど、本当にいい子で何よりです。


 まあ私たちとしてもオオカワさんがまた守ってくれるのならば安心できます。



「平林、積もる話は後だ!急ぐぞ!」

「はい!いい子にしててねサテンちゃん!大川さん後を頼みます!」



 実に真面目でさわやかで、そしていい挨拶です。



 それで、足も速いです。




「ユーイチさんと同じぐらい速いですね!」

「そう、かなあ……」

「大丈夫です、私が速いって言ってるんです!」

「本当にいい子なのね」

「彼女の一途な思いには誰も勝てないのであります」

「アカイさんったら……」



 そんな事を言いながら、少しだけ私より少しだけ長くユーイチさんと一緒にいるはずの存在に張り合って見せます。

って言うかアカイさんも、ずいぶんとカッコいい事言うんですね。ちょっとビックリです。

……ああ、イチムラさんの苦笑いが聞こえた気がしましたけど。




 とにかくそんなこんなで死体とビルに挟まれながら曲がり角へとたどりつき、そして大きなビルへとたどり着いたのです。


「ざっと12階はあるな」

「それをまたエレベーターとやらで……」

「ここに上田さんが」


 首が痛くなるほどに高いです、それもまっすぐ。あのホテルよりさらに高いだなんて、本当どんな建物なんでしょうか。


「平林、覚悟はいいか」

「もちろん!」

「セブンスたちはまだエレベーターに慣れていない。ここでの戦いはお前の活躍にかなりのウエイトがかかっている」


 イチムラさんが言うには12階分もあんな箱の中にいなきゃいけないようです。イチムラさんやアカイさんは平気なんですよね、本当にすごいです。


「上田は「同級生」がお前の事だと思ってこのビルに入ったんだろう」

「そんな」

「だったらお前も救うんだ、上田を共にな」




 そしてウエダさんが彼女のために動いているのかと思うと、少しだけうらやましいです。


 あ、ドアが開きました。


 大丈夫です、エレベーターなんかに負けたりしません!待っててください、ユーイチさん!

次回から再び上田裕一視点に戻ります。

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