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ぼっちが怖い?

 一人で来いと言うナクヨの言葉に従い、俺は後を付いて行く事にした。



「あなたは知りたいんでしょ?仲間の事?」

「もちろんだ!」

「だったらわたしたちの大事な財宝である獣人たちの事はあきらめてね?」

「バカも休み休み言えよ」

「欲張りさんは女の子に嫌われるわよ」

「嫌われてませんけど」



 しかし、一人がこんなに怖いとは思わなかった。いくら刀とぼっチート異能があるとは言え、実際にこうなってみると正直不安な気持ちが沸き上がって来る。


 で、この女は自分勝手に言いたい事だけ言いながら足早に歩き、時々わざとらしく年上ぶって見せる。



「俺はこの世界で嫌な女に何人も会って来た。残念ながらあんたもそうだ」

「そこがお子ちゃまなのよ。背伸びをやめればいいのに」

「人の話を全く聞かず、お子ちゃまの一言で全てを終わらせる。ずいぶんと楽な生活をしてるんだな」


 レッテル貼りによって思考を停止し、パターンに当てはめてしまう。そうなればあとはそのパターンを遂行していくだけ。そんなステレオタイプ思考は、こんな状況では当てはまるはずもない。




「そういう所が可愛いのよ」

「嘘吐け、余裕気取りもやめとけ」

「もう、意地悪なんだからあ」


 不意打ちのつもりで斬りかかってやった一太刀を軽くいなす程度には油断していないようだが、それでもこの笑顔に癒される人間はめったにいない事はわかる。

「ミタガワって女は自分の事を正しいと信じて疑わず、それが叶わぬと知ると暴力を使って自分の意見を押し通す女だ。あれは確実に破滅する」

 アスファルトに金属製のブーツの足跡を付けながら、俺は考えうる限り最悪の女の名前を出す。今このナクヨがやっている事だって同じだ。


「だから、それが」

「それこそ野蛮だと思うがな。力さえあれば何をしてもいいだなんて、そんな傲慢な話がどこにある?」


 一緒に旅をしている赤井の辻説法を聞かされる度に、聖書の一節や二節覚えてしまっている自分がいる。

(「武であれ知であれ権であれ、力を振りかざして拙速に思考を歪めんとすればそれは敗亡の道なり」かよ……)


 確かにこの町の文明は、トードー国やシンミ王国よりずっと進んでいる。だがだからと言ってそれだけで勝てるもんじゃない。


 知識と言う点で言えば俺はセブンスたちよりずっと上だ。だがセブンスたちに頼らねば俺は生きていけなかった。それだけの事だ。


 俺が嫌気が差して唾を吐き捨てながら刀を引くと、女は噓くさい笑顔をこぼしながら簡単に背を向けた。


「まあね、ゴッシ様に会えばあなたのその可愛らしい自尊心もいい具合に育つでしょうけどね」

「俺は世間が狭かったけど、あんたも相当に狭いな。ゴッシ様ゴッシ様って、ゴッシ様からやれと言われれば何でもするのか」

「あなたはまだ本物の恋を知らないのよ。自分が全てを捧げたいと思う相手に出会えてない、と言うかなってない。それが悔しいのよね」

「上から目線も大概にしろよ」



 要するに、なめくさっている。自分が絶対的に上回っていると思い、何があっても言う事を聞いてくれると信じ切っている。


「私たちはあなたたちの事を知っている」

「どの程度だよ」

「あなたたちがこの文明に慣れていると言う事。この世界の中で一番進んでいると言う事」

「そんな事より俺の仲間はどこだ」

「だからせっかちは」

「あんたに求める事は他にないからだよ」



 ――――今度は向こうが不意打ちをかけて来た。弾く事もせずにじっと顔を見るが、ナクヨはびた一文動揺していない。


 この女、よく見れば50と言う数字の書かれた道路標識の下で、15歳の男子に向かって槍を突き出している。


「なぜ刀を抜かないの?」

「あんたが俺を害しようとしてるからだよ」


 渋谷のハロウィンであっても正当化できないような真似を平気でしてみせるこの女とどっちもどっちにされたくない――――そんな欲望が俺の頭の中を駆け巡った。


「あんたこそ何を焦ってるんだ?」

「焦り?そりゃもちろんあなたがどうしても私たちの素晴らしさを理解してくれない事よ。どうしてなの?なんでなの?」

「そんな人間が重臣だって言うんなら、ゴッシ様とやらも知れたもんだな」

「鉄に鉄をぶつければ必ず傷を負う。鉄を布にぶつければ受け止められる。布を鉄に投げつければくるむ事ができる……ね。この世界の教えとやらも捨てたもんじゃないわね」


 戦争はどうしても鉄と鉄の対決になっちまう。だからこそまず布を投げろって事なんだろうけど、こいつらは明らかにそれを怠っている。


「セブンスたちに何かあればこっちだって手を抜く気はないので」

「大丈夫よ、彼女たちは。あなたの仲間がどうなるかは別問題として」



 まだ虚勢を張れているつもりの俺と、まだ好人物気取りのナクヨ。バカが二人揃って無駄に血の気をたぎらせながら歩くその有様は、こんな現代文明そのものの空間でファンタジー世界そのものの装備をした俺たち以上にこっけいだったし、同時にひどく汎用的にも思えた。

 






「ここよ」




 そんなバカ二人がたどり着いたのは、ノーヒン市の中央だと言うかなり大きなビル。


 昨日の夜見かけたビルの内一つ、おそらく一番高いビル。


「動じてないのね」

「他に言う事もないのか」



 人の言葉を聞く気がない女が立つ事によって開けられた自動ドアの向こうには、どこかの会社のようなロビーがあった。受付らしきスペースもあったが、相変わらず人がいない。

 そしてやけに広い。ソファーもあれば自販機もあり、噴水っぽいのもあれば誰が描いたのかわからないような絵もある。


「……大方見慣れてるんでしょ」

「ええ」

「じゃあ早く行くわよ」



 急に投げやりな声色になりながらナクヨは手を振った。その右手に免じて俺が入ってやると、自動ドアが急にせわしなく閉まった。




 その速さに少し動揺して振り向いた俺の目に、二つの黄色い三角系が映った。




 そして――――。




「ん?」


 その三角形から目を離せと言わんばかりに、二本の棒が俺の顔の横をすり抜けた。

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