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「ッゾコラー!」

 サングラスに縦縞スーツ。筋肉質そうな肉体。


「何者だてめえら!」

「俺はウエダユウイチ。この町にいると言う獣耳娘を探している」


 サングラスの下では鋭い目をしているだろう男二人が、腕組みをしながらこちらをにらんでいる。


「すごく上等そうな装束ですね」

「褒められても嬉しくねえぞそこの小娘」


 前に立っていた男が、無邪気な感想を飛ばしたセブンスに凄む。

 もう一人は俺への距離を詰めようとしてゆっくりと歩き出して来る。


「言っとくけどな、ただの娘には興味ねえんだよ。うちのボスはな」

「ボス?」

「この町から財宝を奪おうとするとはいい度胸だなお前ら、坊ちゃん嬢ちゃんのくせによぉ……」



 口元を嫌らしくゆがめながら懐に手をやる。少しでも抵抗すれば刃傷沙汰辞さずと言う事かとばかりに、俺は腰の刀に手をやった。




「フン!」


 そして懐から飛び出した物の存在を確認するや、刀を抜いて斬り付けた。



 だがおかしい。まともな音が鳴らない。


「おいおいおいおい、坊ちゃんはこれだからいけねえ。何もしねえから拾ってみてみろ、ほらよ」

「か、紙……?」


 どうやら俺がナイフのつもりで手を出したのは紙だったらしい。

 俺が体以上に赤くした顔のまま刀を握り続け、セブンスに紙を拾わせる。そんな俺らを可愛いねえと笑う二人をじっとにらみながら、セブンスの安全を確保させた。


「真っ二つだったので容易であります」

「それは」

「落ち着けウエダ殿。それでその紙にはなんと?」

「わからないわ……」



 実際、俺もわからなかった。先ほどアスファルトに落ちた際にわずかに見えたのだが、その大半が漢字でもひらがなでもカタカナでもアルファベットでもない文字に埋め尽くされていて読めやしない。

 そしてオユキはともかく大した教育を受けていないセブンスに読めるわけもなく、結局トロベが読むしかなかった。代わりのように出て来た市村に前線を任せ、トロベは真っ二つになった書状を読み始めた。



「……つまらん冗談はよせ。オユキの方が桁外れに面白いぞ」



 で内容が耳に入って来ると共に、トロベの声と同じように俺らの顔は重くなる。




「獣娘はトードー国において被差別的待遇を受けており、その苛烈な支配から逃れさせるために我々ノーヒン市の人間が導いた物である。よってトードー国の要求は全く的外れ極まるそれであり、ノーヒン市としてはまったく言語道断と言うほかない。

 もしどうしても彼女らの身柄を欲するのであれば、国王陛下直々に謝罪の文を寄こし、さらにその上で一名に付き保護料として金貨百枚、当市への賠償金として金貨五十枚を納める事。そして第三国との戦役が起きた場合には全面的に当市に協力する事。それらこそ、トードー国を蛮国から真の近代国家へと変える唯一無二の道程であり、この提案はまったく貴国のためを思っての物である」




 現代文に訳するとこんなだ。


 いやもっと乱暴に言えば

「一人当たり千五百万円持って来い、でなきゃ返さねえぞ」

 である。



「これはひょっとしてギャグで言ってるのでありますか?」

「ギャグ!?これはなあ、本気の条件なんだよ!」

「お前らは何にも物を知らねえからな、特別に俺らが教えてやろうって言ってる訳よ。そんだけのお話だよ、わからねえのかなあ?」


 すがすがしいほどの上から目線。自分たちが賢く、相手がバカであると信じて疑っていないかのような振る舞い。

と言うかどう考えても下っ端にしか見えないこいつらが書いたとは思えないような高い所にある文章。



「これを書いたのは誰だよ」

「大事な大事な獣耳娘を誰よりも寵愛してらっしゃるお方様だよ。あんなに素晴らしい才能を無為に浪費する事に耐えられないお方だ」


 実に殊勝ぶった言い草で、自分の行いをびた一文否定する気も反省する気もない。下っ端だからの一言で片づけるには、あまりにも耳に悪い言いぐさだ。



「じゃあこれはこの町の一番偉い奴の意見だってことでいいな」

「あーあ…………」


 俺が交渉決裂ですがと言わんばかりに吐き捨てると、やたら深くため息を吐いて来た。



「ふざけるなよ!」


 俺は刀を振り降ろし、飛び退いたヤクザ野郎の胸を斬った。刀の先端が赤く染まり、ヤクザの胸のネクタイと同じ色になる。


「小僧!」

「やってやる!」


 相棒の男が、また懐から何かを取り出して来た。今度は紙ではない、ナイフだ!


「先に手を出したのはてめえなんだからな!責任取ってもらうからな!」

「だったら獣人たちを返せ!」

「先に手を出した罰、受けてもらうからなぁ!」




 もう一人のヤクザの声と共に、次々と前からやって来た。


「かなりの数よ!」

「しかも、南側からも来た!」

「ユーイチさん!」


 セブンスがもう一度ヘイト・マジックをかける間に、前だけなく左側からも同じような格好をした連中がやって来る。


「ヘイト・マジックにしても」

「ヘイト・マジック?そんな魔法なんぞ関係、ねえよ……」


 次々と現れる敵に不安を覚える暇もないまま、さっき斬った奴がふらつきながらも立ち上がって右手の人差し指で自分の胸、さっき俺に斬られた胸を指していた。

「あれ、なんか固いのが見えるよー」

「まさかネクタイに防備を!」

 確かに、血の向こうに小さな金属の球が見える。それで刀を防ぎ決定的な打撃を免れたと言うのだろうか。


「冥土の土産に教えてやる……!刀や魔法のような大時代的な武器で俺らを傷つけるとな……」


 そんなありきたりな事を考えていた俺を蔑むかのように、ネクタイの中の球が光った。血やネクタイの色に紛れていたのでわからないが、あるいは赤く光ったのかもしれない。


「まさか!」

「そういう、事だよ……!」



 北と東からは来ないが、それでもかなりの数の連中が集まって来た。

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