二人の名声
第二章開幕です。
「うわーっ、改めてすごい所ですね!」
「二人ともんな所を本拠地にしてたのかよ……」
馬のおかげかわからねえが、三日の予定が二日で着いた。
デカい城壁とかはなかったが、それでもミルミル村では一個もなかったレンガ造りの建物を見るだけでここが「都会」なんだなって認識できる。
野宿にも慣れ、立ちションにも慣れちまった俺らは、馬を門番の人に預けた市村を先頭にこのデカい街の中を歩いた。
「このペルエ市は交通の要衝ですから、北・西・南三方から物が集まるのであります」
「それでだ、目標はどちらだ?」
「南と言いたいがな、南の城、俺達が最初に来た城では今魔王軍の攻撃を受けててかなりピリピリしている」
「そしてその方面でいろいろな話を集めた物の私たちの仲間は見つからず、それでこのペルエ市へと参ったのであります」
二人もやはり、クラスメイト達を探していた。それが帰る道なのか、それとも単純に不安なだけなのかはわからねえにせよ、いずれにしても素晴らしいもんだ。
「よう姉ちゃん、俺と付き合ってくんねえか?」
「そんな急に言われましても!」
「んだよ、そんなに照れるなって、絶対」
そんで、デカい街にはこういう連中も多いらしい。
この前倒したコーク並みに鼻息の荒い、筋肉も脂肪もありそうな男。
「この顔が照れてるように見えるのか?」
「ん?おい姉ちゃん、こんな弱そうな男なんか捨てちまえよ、なあ。そんな細い剣なんかでこの世界を渡れるのか?」
自分なりにすごんでみるが、まったくひるむ様子がなく手を振り上げて来た。ったく町に着いてそうそうにこれって、こんなトラブルからはぼっちになれねえのかな。
「人様の女性を奪おうなどと言う強欲、見逃すわけには行かないでありますな!」
「んだとこ……ああ失礼いたしました!あなた様方の連れのお嬢様でしたか、これはこれはどうかお許しを……!」
と思ったら赤井の声を聴いた途端にこれかい。一度上げた手をびっくりするほど簡単に合わせるしぐさと来たらこりゃ絵に描いたような小物っぷりだね。
「お二人はこの町で相当ご活躍したんですか」
「一応な、これでも冒険者としてはそれなりのランクだ」
「二人合同でチームを組み、現在ではWランク冒険者チームであります」
「Wランクだって!?って言うか冒険者ランクなんてあるのかよ!」
「ええ、Zランクからたかが半月でここまで行くのは異例らしいであります」
ああ俺も小物、って言うか田舎者か。冒険者なんて職業がある事すら知らねえで必死こいて俺らの世界との異同をミルミル村で探し求め、そのままひと月も無駄にしちまってよ、俺はどうしてもぼっち気質なのかね……。ってあれ?Wランクって?
「すると何かい、一番下がZランクで、そこからY、Xと上がって行く訳?」
「まあそうなるであります。給料もその冒険者ギルドからいただいているのであります」
「お互いこの年にしてもう給与労働者かよ、まったくさ……」
「でもユーイチさんならすぐに高いランクになれますよ」
エリートとそれ以外にはいつ何時差ができるんだろうか。俺は運動神経や勉強の成績ではエリートとまでは行かないにせよ平均以上の存在ではあった。でも人付き合いとか友人の数とかに関しては底辺だ。
その底辺から脱出する方法を考えなかった訳ではない、と言うのは大ウソで、不思議なほど俺の頭はそっちに向かなかった。向いたのは良く言えば自己研鑽、悪く言えば引きこもり的な方向の活動ばかりだった。
「とにかく、俺たちのギルドに招待するぜ。ああセブンスさんも、そこ酒場も兼ねてるからちょっと雇ってくれるか交渉するから」
「ありがとうございます」
「ああそれから大変申し遅れてしまいましたが、このペルエ市の東は素性よからぬ者や魔物が多い故むやみに立ち入らぬようにするであります」
「飯の種でもあるんだろ?赤井ならわかるよな」
「それは、その……まあその通りなのであります」
「傷つけてもいい」「殺してもいい」存在ってのは実に便利だ。その相手を殴り続けている限り、自分は正しい事をしてると言う気分になれる。
実際ゴブリンだって人間様の領土を荒らす限りは害獣であり、退治されるべき存在だ。その存在を金に換えるのが冒険者であり、兵士なんだろう。盗賊とかは言うまでもない。
陸上競技だって同じだ、一人の勝者と多数の敗者ができる。おててつないでみんな仲良くなんてありえない世界だ。
そんな世界に改めて身を投じる覚悟を決めながら、俺はセブンスの家の数倍の広さがある酒場兼ギルドへと入った。
「ああマサキ、ハヤト。どうしたんだい、今度の仕事は失敗か?」
さっきのチンピラと同じ縦にも横にもでかくていかつそうだけど、同時に妙な愛嬌がある男が親しげに手を上げて来る。並びまくる木の椅子には負けず劣らずいかつそうなおっさんお兄ちゃんが座り、飯を食ったりしゃべっていたりしてる。
「諸事情により失敗となりまして、申し訳なき次第であります」
「まあな、新進気鋭の二人組にはいい薬だろ。ってかその二人組は何だよ」
「新たなギルドの参加希望者であります」
「おいおいそちらのお嬢さんがかよ!」
「ウエダユーイチです、マサキとハヤトから推薦されました」
くだらない冗談に付き合う事もないとばかりに俺だけが前に出てはっきりと名を告げ、その上で新進気鋭の二人組のご紹介だとか軽くハッタリもかまして見せた。
「彼は強いですから」
「私たちも名前は惜しいのであります、そういう事であります……」
「まあ、そういう事だな」
それで二人して自分勝手なハッタリを飲み込んでくれたおかげで、俺はZランク冒険者としてペルエ市のギルドに登録される事になった。
ああ、残念ながら少しふらついてたせいかセブンスの酒場の求人は断られちまったけど……。