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さよなら、ミルミル村

「なあ、セブンス……」

「ユーイチさんって本当かっこいいんですね」

「全然かっこよくねえよ、俺はただ逃げ回るだけが本能の情けねえ男だ」

「その強みを生かして戦う、それはただの戦術であります。何も恥じる事はないのであります!」

「はっきり言ってお前は最強のアビリティを持ってるようだな」


 元村長様のお屋敷で、俺達はニツーさんの手配によってくつろがせてもらってる。三人とも早熟茶を飲みながら、むやみやたらに俺をもてはやしている。



 最強のアビリティか……。



 確かに、どんな攻撃でも当たらなきゃダメージはゼロだよな。しかしその根源が少し悲しいし、ましてや本当の本当に100%かわせるだなんて保証はねえ。



 先ほどの戦いでもあのエノ将軍はおろかコークにさえ俺は真正面から打ち合う事ができなかった。三対一じゃなきゃ絶対に負けてた。




「お前らありきだろ、頭が上がらねえとはまだにこの事だよ」

「おやおや、それではこれまでセブンス殿を守って来た時は」

「ニツーさん、いやニツー村長……」


 ニツーさんは村長になる事が決まってる。本当なら二人と一緒に逃げ帰る予定だったらしいけど、カスロもあれで村の経営に対して小さくない功績があった事は間違いねえようだからな、その部下って言う政治を知ってる存在はどうしても必要らしい。



「上田君、村長の息子に生まれた事をずるいと思うでありますか?」

「別に思わないよ、デーンだってあれはあれで苦労してたんだろうし」

「そうであります。そういう力を決してむやみやたらに振りかざしてはならないでありますが、同時に過剰に疎んではならぬも同じであります」

「どうせどっかのアニメだろ」

「ええ、「ふらいと・ガールズ」の第七話で放たれたセリフでございます!」

「よく知ってるよなあ!」



 俺はぼっちのくせにそういうもんに関心はなかったが、いずれにせよ俺の事を元気づけてくれている事だけは間違いなかったから素直に笑っておく。ニツーさんやセブンスが首を傾げている姿を見るのも面白いし、少しだけ取り返せた気分にもなれた。


「今夜はどうかこちらでお泊りの上で」

「ありがたいお言葉ですけど、二か所用件がありまして」

「では待ちましょう。ベッドメーキングはしておきますよ。ああ夕ご飯も」


 そして俺たちは赤井と市村を残し、セブンスの勤め先である食堂へと向かった。屋根が少し壊れてる、雨漏りするかもしれねえほどに。ああそう言えば雨漏りの修理をした事もあったな……もちろん大工仕事なんか経験ねえから資材運びしかできなかったけど。




「ああすんません、なんか勝手に従業員を持ってく格好になっちまいまして」

「いいんだよ、セブンスちゃんを幸せにしてね」

「だから俺は」

「もうユーイチ君ってば本当に照れちゃって、かわいいんだから」

「あーはいはい照れてます照れてます照れてる方が都合がいいんでしょ、正直あのエノ将軍よりとんでもないお方様ですね!」


 俺がこの人の話を聞いていないおばさんを勢い任せに持ち上げると、おばさんは笑顔を失いながら頭を抑え出した。

 あれ?強く叫び過ぎて頭にガンガン来ちまった?


「ユーイチ君、お酒はダメよ……」

「俺らの世界では酒は二十歳からじゃないとダメなんです、俺は15でセブンスは14だから大丈夫ですって、絶対断りますから!」

「そうよね、セブンス、この子の面倒を見てやってね…………」

「はい……」


 こういう人種にぼっちだったのがいいのか悪いのか、その答えを俺は知らない。





とにかく一つ終わりましたとばかりに俺らは酒場を離れ、墓場へと向かった。


っつーか酒場さかば墓場はかば、一文字違いで大違いだね。



「お父さん、お母さん、行って来ます……」

「しかしさ、流行り病で二人して死んじまうなんてさ……まだどっちも三十三だったんだろ」

「それでも私はそれから三年間ずっと生きて来ました、一人っ子として苦しい思いをしながら……」


 セブンスは二人のお墓の前でじっと祈りをささげている。俺も真似をして同じ格好、ちょうど俺の知ってるそれと同じだった格好をして顔も名前も知らない彼女の両親に向けて祈りをささげる。


 確かにもし流行り病でバタバタ死ぬような世界なら、なるほど一人っ子ってのは軽蔑されるかもしれねえ。俺らの世界では免疫が確立して死ぬ子どもは減ってるけど、もしあのデーンも俺らの時代だったら平穏に過ごせたかもしれなかったのにな……本当、残念極まる話だぜ……。


「言っとくけど帰れる保証はないからな!」

「大丈夫、もう十分お礼は言ったから…………」




 彼女の強さに俺は感心し、そしてこれからも尻に敷かれるぐらいがちょうどいいのかもしれねえなと思いながら腰を上げた。



 村長さんの家に戻るまでに、歓声や別れのあいさつが飛んで来た。ここは俺の第二の故郷、とか言うつもりもねえけど心地いい場所ではあった。それを飛び立っていくのが俺の宿命か、二羽、いや三羽の仲間と共に……なんて柄にもねえ事を思いながら俺は夕飯を食い、寝た。







 そして翌朝、セブンス・赤井勇人・市村正樹と言う三人と共に、第一の目的地である東の都会・ペルエ市を目指すことになった。




 にしてもさ、やっぱり馬術のスキルってうらやましいよな……ああいちいちかっけえぜ市村は。

第一章終了、と言う訳で次の章は一日お待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一章だけですが読み終わりました。 話もスキルもキャラクターも嫌いではないのですが、どうも全体的に細かく行間を想像してください的な文章スタイルなんでそこを呑めるかどうかで評価が変わりそう。 …
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