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俺はぼっちなんだよ!!

「だいたいさ、おかしいじゃないか!」


 ミタガワの薫陶を受けたかのようにテイキチを突き飛ばしたモンヒの顔から、ふてぶてしさがなくなっている。


 あそこまでテイキチや細川を弄んで来たしたたかさも見えず、急に追い詰められているかのように攻撃を放ちまくっている。

 もちろんヘイト・マジックの影響で狙いは俺になっており、そして命中する事もない。

 ただ無駄に地面をえぐっているだけだ。


「ぼくはねえ、ぼくなりに苦労してここまで持って来た!だってのに!」

「結局、お客様の期待に一番応えている奴が一番偉いんだよ。お前は何がしたかったんだ、今更だけど」

「ぼくはただ、魔王様のために。魔王様のためにこのトードー国の未来をつかみ取るために、こうして!」

「セブンスだって人間だ、人間には限界ってもんがある。ほら若君様……」


 映像を空に映し出す魔法にも、当然だがかなりの魔力が要る。セブンスはかなりの魔力を使っていたらしく、だんだんとテイキチの母親の映像が薄くなっている。



「うう、母上……」

 立ち上がってセイシンさんの隣に立ったテイキチの顔から、また涙がこぼれた。

「セブンスの力があればまた会えるわよね」

「私も十歳の時に母を、十二歳の時に父を」

「そんな事もあるのに、俺は本当に弱虫だった!弱いなら弱いって言えばいいのに!セイシン、お前は何にも悪くないからな、運以外!」


 こんな姿になっても、魂はサムライのまんま。それだけにつらくてたまらないんだろう。セイシンさんも、細川も、俺たちも。

 そしてテイキチ本人も。




「わかっちゃってるんだよ!どうせ結果がどうなるかって事!」


 俺たちが苦渋を噛み締める中、ノークを率いながらもモンヒはわめいていた。

 何十匹単位のノーク、本来ならば並の冒険者など一網打尽にできそうな数の魔物を揃えている。十分に脅威なはずだった。


「ウエダ、お前はなぜここにいる?」

「仲間を探す事、俺と同じ仲間を探す事。その過程だ」

「ぼくは魔王様の世界を作るためにここにいる。そのためならば何もかも利用してやるつもりだった。もしもう少し早くキミと出会っていればキミを使っていたかもね」


 卑怯と言えば卑怯だが、目標は間違っていない。魔王と言う主のために動くと言うのは、やや暴論だがセイシンさんやトロベと変わらないとも言える。

「魔王の狙いは何だよ」

「魔王様に逆らえば討つ、そうでなければそれでよしと言う事を知らしめるだけ」

 それでこれまたありふれたお言葉だ。魔王が圧倒的な力を持って世界を統一し抑え込もうって事なんだろうけど、そんな風に強権に頼った国家がどうなるかなんて俺でさえも答えが分かる。

「魔王はいつまで生きている、いつまで強いままでいる?」

 世の中に永遠はない。魔王によって抗う者すべてを押さえつけるか滅ぼした果てに魔王がいなくなった後に残るのは、「魔王の配下」たちによる争いしかない。それではそれこそ元の木阿弥である。


「その時はその時だ。ぼくは魔王様のために動いているだけだからね」


 答えになっていない答えを返しながら、モンヒは俺に向けて攻撃を放つ。当然当たらない。


「だがテイキチ、こいつらはお前より強い。そしてこいつらはぼくを許さない。わかるよね?」

「ああ……」

「さっきも言われたようにキミにはもう若君様の特権なんて物はない」

「わかってるよ!」

「ん!?」


 俺に向かって攻撃しつつテイキチに向かって吠えるという器用な事をやっていたモンヒはいきなり俺に向かって抱きつきにかかった。


「何を狙っている?」

「テイキチ……ぼくは魔王様の配下。この国を最初から乗っ取るつもりで全て動いて来た。魔王様の敵は一人でも少ないに越したことはないんだよ」

「でもお前は」

「これがぼくの答えなんだよ、魔王の配下の!!」




 モンヒの上半身の服が、いきなり弾け飛んだ。




 そして目を閉じ、一挙に突っ込んで来る。



「まさか!」

「上田君、逃げるであります!!」







 自爆!




 その最終手段を察した俺だったが、まるで何らかの魔法でもかかっているかのように足が動かない。


「ユーイチさん!」

「ちっ、最後の魔力を放出したのか!って言うかお前まだノークが!」

「ノークを注ぎ込んでも結果は同じだよ!!お前だけでも消えろ!!」



 モンヒは俺に抱きつこうとして外したものの、それでも俺の眼前で全裸になり、そのまま辺りをいっぺんに明るくした。




 土が飛び、草木がなびき、風が起こり、全てが砕けて行く。







「ユーイチさん!!」







 セブンスの声が耳を覆う。目を閉じても入って来そうな光が、俺を襲うはずだった。




 そう、はずだった。









 まあ、要するに俺は、自爆からもぼっちだった。







 魔力をため込んだ事による自爆攻撃のエネルギーは密接していたはずの俺を置き去りにして、左右や後方の草木やノークを粉微塵にしただけだった。







「良かった、ご無事で……」

「ユーイチさん!」


 あまりにも空しい死。

 神風特攻隊よりも無駄な死に様であり、多数のノークをも吹っ飛ばした迷惑な最期。


「俺を恨むか?」

「そんな訳、ないだろ、お前の……」


 チリひとつ残さず消えた親友に手を合わせながら、テイキチはまた涙をこぼした。


「いや、その、俺は……俺は魔物の、いや力欲しさにこんな過ちを……ああ……母上、父上…………!」

「モンヒのせいにしていいんだよ、なあ」

「やめろよ、やめてくれよ、俺のせいなんだよぉぉ……!」



 俺らのせいとは言え親友まで失って地面に突っ伏して泣きわめく声は、ミルミル村にまで届いたかもしれねえ。


 罪悪感から逃げるように俺は残っていたノークの落ち武者狩りを行ったが、それでも達成感を得られた気にはならなかった。


 エスタと同じように、いやそれ以上に重たかったかもしれねえ存在をぶち壊した俺の刀は、殺した魔物の血も付かないのにやたらと重くなっていた。

最初モンヒはもっと嫌な奴にするはずだったんですけどね……。

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