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もっと熱くなれと言われても!!

 このうす暗い道の中、細川が馬に乗って飛んで来た。


「細川!」



 俺の声に何の反応もしないまま、細川は平然と馬を消しながら飛び降りた。



 その後方には、百人以上のサムライ軍団が控えている。


 いやサムライだけじゃなく、キミカ王国風の騎士や聖職者までいる。


「細川君!」

「前田!今すぐこの若君様を惑わしている魔物を殺し、お前たちを守る!俺が守る!」

「何やってるのよ!!」

「俺は今こうして!」


 前田の叫び声も、案の定今の細川の耳には入っていない。


「気を付けろ、あいつは若君様を盾にするぞ!」

「なればこそ俺の力が要るのだ!」



 次々と細川が生み出した幻影が向かって来る。騎士も、サムライも、揃ってモンヒに向けて突っ込んで来る。

(だが全部素手じゃねえかよ!)

 おそらくはそうやって実体化させて取り押さえようと言う腹だろう。

 確かに、本来ならばそれでいいかもしれねえ。



「ぼくは魔導士なんだよ?」

「フン……」


 モンヒはまったく澄ました顔をしている。その虫も殺せぬ顔のまんま、右手から閃光を放った。

 当然のように細川も幻影を消してモンヒの攻撃を避けようとし、その間に幻影たちはどんどんモンヒに向けて迫って行く。


「やろうとしている事は結局同じじゃないか。みんな全力でテイキチをなぶろうとしている」

「なぶると言うのはお前のことだ!お前は本来テイキチと言う人間が得るはずだった恩恵をすべて踏みにじった、つまらん甘言によってな!そのような不埒な輩から俺は若君様を救い出さねばならんのだ!」




 二人の温度差が違い過ぎる。


 細川はどこまでも燃え上がり、モンヒはどこまでも冷めている。熱い心と冷たい頭を持てとか言うが、どこまでも熱くなっている細川とどこまでも冷めきっているモンヒと言う存在がここにいた。

(確かに気合いを込めてくれるのはいい。でもその気合いをいくら見せつけようともその相手が必要じゃなきゃ意味がないんだよ……)

 もっと熱くなれよ、なんであきらめるんだよ、やればできるできる!

 そう吠えられた所で無理な物は無理だ、と言うか例えば寝る間際とかにそんな事を言われてはいそうですかと眠れる訳もない。



「それかよ……!」



 俺がようやく若君様の感情に気付いた直後、先頭を走っていた幻影がモンヒに接触した。

「はい交換」

「アッ!」

 しかし体がめり込む直前にモンヒとテイキチの立ち位置が入れ替わり、実体化した幻影はテイキチの巨体に突っ込んで吹っ飛ばされた。


「なればこれで!」


 なればとばかりに細川はテイキチを通過させたうえで二人とも取り押さえようとして騎士の幻影を突っ込ませている。


「上田君!」

「下手に手を出せばまた若君様の心が俺たちから離れる。今の若君様に必要なのは優しく頭を撫でてくれる存在だ!どんな事になっても!

 前田!細川を止めろ!」

「私じゃ」

「セブンス!」

「………………」

 セブンスはさっきから何も言わず、ずっと目を閉じてじっと立っている。


 だがオユキは軽すぎるし、トロベは重すぎる。


 セブンスが何をしようとしているのかはわからないが、俺としてはあまり止めたくない。セブンスがセブンスなりに何かしようとしている事はわかる。

「今はそれがベストだと思うであります!」

「前田!」


 赤井と市村に背中を押されるように、前田は癒しの風を放った。



 敵味方関係なく、全てを癒す風。人工の明かりに満ちた山道に吹き荒れる、自然の営み。それからなぜか草木の匂いも立ち込め、幻影たちさえも顔がとろけているように思えた。




 ――――約二名を除いて。




「前田!お前はなぜ!」

「そうやって、いつもいつも俺を労わっているふりをしていたぶりやがって!!そんな奴はこうだ!」


 なぜ敵であるモンヒに情けをかけたのだと吠える細川と、さっきのやり方を見ていたせいか自分にめり込もうとした所でパンチを決めたテイキチ。

 この肝心要の二人の熱量が全然下がらない。それどころか、むしろ上がっている。


「私は、私は!」


「しょうがない!細川、お前もう好きにやれ!」

「上田!」




 俺はこの時、細川を止めようとした自分の愚かさを悟った。







 細川忠利はどこまでも努力家で、どこまでもその自分の努力を誇りにしている。

「赤井!なぜおまえがそんなに!」

「家で勉強をしているだけであります!」

「学校で女に囲まれて、いやそれはいいとしても口を開けばアニメゲームライトノベル!そんな姿勢を見せていてお前はいいのか!だからこそ三田川にも蔑まれるんだぞ!」

 細川は三田川を悪く思っていなかったし、三田川も細川を比較的好いていた。

 細川は、俺らがだらけている(本当は違うんだと言い訳しても無駄だろう)間にも必死に学問にはげんでいた。部活も歴史研究部と言う名の書物片手のそれであり、登下校の際にも教科書や参考書を握って離さないと言う噂まであった。


(お前の敵はヘラヘラしている奴全てらしいな……)


 






 こういう存在を止めるには、それこそ決定的な敗北を味合わせるしかない。




「ウエダ殿……!!」

「その後です。若君様の事も、あのモンヒの事も……それより、モンヒもとうとう馬脚を露したようですしね」




 そう、空からやって来たのだ。


 また、あのガーゴイルたちが。

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