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transfur

「驚いてくれた?」

「驚きたくねえけどな!」

「もう、何をそんなにイライラしてるの、体に悪いよぉ?アハハ!」


 だらしなく口を開け、両手の小指と薬指を立てながら笑う。


「まるでリダンみてえだな」

「リダン?あああの妖精もどき。あんなのと一緒にされて、ぼくは悲しいよ。見たでしょ、すごいでしょ、ぼくの魔法の力」


 ウインクまでして見せる。本当に人をうまくイラつかせる。そんなマニュアルでもあるんじゃないかってぐらいだ。


「で、何をしたいんだよ、武器なんて使い道ひとつでどうとでもなるんだよ!」

「ぼくはあくまでも悩めるテイキチを助けただけじゃないか。それの何が悪い訳?」

「お前たち……お前たちがいばりくさるからいけないんだよ!」



 テイキチが吠える。若君様と言うどんだけ威張りくさっても許されそうな人が、他人に向かっていばりくさるなと吠えている。


「若君様……!」

「お前は何をやっても褒めてくれない!いつもいつも口ばっかり丁寧で言ってる事はお前はガキなんだよでしかねえ!どんなに刀を振っても、本を読んでもまったく褒めない!」

「それはあくまでもまだ心底から認めるには不足であると」

「だからだよ!だからこの力で!」


 飛び退いたモンヒに代わり俺に向かってパンチを放つ。もちろん当たらない。


「お前もだ、何をやっても参ったどころか痛いとさえ言わない!そうやっていつもいつもこっちを見下してるんだろう!」

「見下すも何もこれは」

「やかましい!お前らに二度と見下されないように、俺は強くなりたかった!だからこそつらい思いもしてやって来た。何年経っても本当に頭を下げさせるために!」


 なんつー孤独な戦いだよ、しかもまったく意味不明————と言いたいけど、この若君様に取っちゃ文字通りの聖戦だったんだろうな。本当に気の毒だ。


「ぼくはその手助けをしただけ。セイシンとか言ったね、そこの渋い顔のオッサン。お前のようなご立派な教育係気取りより、ぼくの方がよっぽど心をつかめるんだよ」

「何を!」



 セイシンさんが刀を抜きモンヒに斬りかかるが、その瞬間モンヒとテイキチの位置が入れ替わった。

「おおっと残念残念、まさかと思うけど大事な大事な若君様を斬っちゃったりはしないよねー、この魔法がある限りね!」

「ぐっ……!」

 ギリギリの所で刀を止めたセイシンさんを、また嘲笑う。

 大川が強引に帯を引っ張ってセイシンさんをテイキチから離そうとすると、テイキチの顔が歪んだ。


「しまった!」

「オ・マ・エ……!」


 テイキチの腰に、氷の結晶がまとわりついていた。そしてその中央には、一本のナイフが刺さっている。

「オユキ殿、貴公も」

「許せないと思ったから……!!」


 もしかするとオユキもその時を狙っていたのかもしれない。だが敵は予想以上に強く、予想以上に凶悪だった。


「そうだよ、これが、これがキミを元に戻したがっている奴らだよ!」

「ほら見ろ、やっぱり、やっぱり正しかったのはモンヒだ……!モンヒ師匠こそ俺を本当に救ってくれたんだよ!!」



 トードー国中に響き渡りそうなほどの大声で、真後ろの少年に最大限の称賛を下す。

 右の腹を押さえながら、かろうじて粘らんとしている。たぶん、さほど効いていないと言うのに。


「みんなさ、体裁のいい事ばっかり言ってさ、上っ面だけ飾って何も」

「どうやって人間をこんな姿にしたんだよ!」

「人が話してる所に割り込む普通?」

「お前の喋りは不愉快なんだよ、360度全方向!」

「ほらね、またそうやって若君様の親友であるぼくを傷つける。ぼくを傷つけるって事は若君様も傷つけるんだよ、わかるぅ?」



 完全な盾扱いじゃねえかよ。


 俺が批判してるのはこのモンヒのふざけ切ったやり口と物言いであり、テイキチじゃねえ。そりゃテイキチに対して言いたい事はあるけど、若君様っつー立場からすりゃまあそうですねでしかねえのも事実だった。


「しかしそう言えばセブンス!」

「……えっ?」

「じゃあトロベ!何かおかしいと思わないのか!」

「魔物、ガーゴイルの大軍により町が襲われ、そして城にも侵入した、つまり!」

 こいつは魔物だろう――――やり口とかじゃなく、種族として魔物。だがそれを言った所でどうにかなる訳でもない。魔物だとしても今のテイキチはこのモンヒを選ぶ。いいとか悪いとかじゃなく、それがもう絶対の真理だった。

 とりあえず知るべきは

「そんな魔術をどうやって身に付けたかって話だ!」


 人間を魔物に変えるなど、おそらくはこの世界でも相当な術の使い手だ。

 そんな事ができる奴がいるのか、できるとすれば何者なのか。解呪の方法があるのか。


「ぼくはねえ、ただ気持ちを利用しただけだよ。心底にたまっていたさ」

「その強い気持ちをお前は利用したのかよ!」

「なりたくない奴はダメだね、そんなのを無理矢理どうにかした所でザコキャラにしかならないから。まあこれも師匠のおかげなんだけどね」

「師匠?」


 ああ、テイキチがキラキラした目をしてやがる。目は口程に物を言うって言うけど、いちいち立ち位置が見え見えだよな、あるいはわざとだろうけど。




「これはね、ミタガワ様からもらった力なんだよ!!」

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