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エノ将軍の最期

「不思議だ、お前には悪意がない、と言うより届かない……」

「そうだな、俺は生まれてこの方ずーっとそうだった!」



 エノ将軍の言葉が、少し歪んで来た。


 ぼっちぼっちと言いながら、それでいじめられた事はない。最後にあったのは小二ぐらいの時だが、そのいじめっ子はなぜかすぐさま転校して行った。それ以来、俺は不思議なほど平穏無事に過ごして来た。


 無視されてもわざとではなく、見落としとわかる無視しかなかった。もちろん少しだけ腹は立ったけど、すぐにああわざとじゃねえんだってわかってすぐ収まった。




 俺は少しの善意と、ほんのちょっぴりの悪意を他人から受け取って来た。何もかもが他人事のように流れ、俺自身さえも第三者だった。


「すさまじいまでの悪意を拾ったからここまで来たんだろ?」

「悪意などとんでもない!わしはセブンスに何が正しいかを」

「これは私の最期のお願いです!どうか、これで家の修繕などを!」



 村長のすがすがしいまでに悪意のない保身に、どこからか持ち出したかわからない金貨銀貨を頭を下げながら村人にばらまくニツーさん。村人の皆さんは複雑そうな顔でその金を受け取ってる。まあ、正直他にどうしようもねえしな。


「セブンス!!」

「私はニツーさんを尊敬します!でもこんなことするカスロ村長とデーンさんは嫌いです!」

「わざと、わざと、そんな事を言わせるためにわざとセブンスの名前を……!」


 しかし頭を下げながら硬貨を渡し、ほんの少しでもエノ将軍が主人の方を向こうとすると短剣を構えようとするその姿。



 村がうまく回ってたのって、ただ放任してただけじゃねえのか……?余計な口を出さねえで丸投げしてよ、それがダメとは一言も言わねえけどさ……。でも責任者たる者、時には体を張らなきゃならねえ時もあるだろ!




「さあ来い、目の前の相手を倒せねえのにどこへ行く気だ!」

「言われなくても貴様を倒さねばならん!貴様のような恐ろしい敵はな!」


 エノ将軍の足音と俺らの金属音がのどかな村を戦場にする。赤井は村の僧侶と共に回復魔法をかけまくり、負傷した村人を癒している。


 俺は相変わらず押されっぱなしだ。腕の力も戻り切らず、攻撃を受け止められない事が増えている。チート異能がなければとっくに死んでいるだろう。


「俺はな、仲間のために必死になって戦ってるんだよ、生まれて初めてな!」

「……寂しくないのか」

「寂しいとは思わない、不思議な事にな!でもよ、確かな事が一つだけある、まずお前を止めない事には何も始まらないって事だ!」



 魔物にまで言われるほど、俺はぼっちだった。それを寂しいと思う気持ちも湧きあがらないまま過ごして来た。

 助けを求められれば助ける事はした。めったに求められなかったけど。


 でも今の俺は強く求められている、それだけで良かった。


「どうした!動きが鈍いぞ!」

「鈍かろうがなんだろうが、当たんない限りは引き分けなんだよ!」

「何故だ、何故当たらない!」


 突かれても、斬り降ろされても、薙ぎ払われても、つねにギリギリのところでエノ将軍の刃はすり抜ける。先端に血を付ける事もできない。




「もう手がないのか!」

「やむを得ない、こうなれば私自ら抱き付き、二度とかわせないようにして……」

「そんな手に誰が乗るかよ!」

「お前の攻撃も効かんだろうが!」


 そしてついに、エノ将軍は槍を高く上げながら自らの鎧をぶつけにかかって来た。俺が剣を構えているのにも構わずだ。こっちの剣が有効打にならないのをわかっていての攻撃だ。




「バカめ!」


 俺の言葉と共に、市村がエノ将軍の手空きとなった左側から突っ込んだ。


 市村の剣が、白く白く光っている。これがパラディンって奴の剣なんだろうか。「聖騎士」らしく聖なる力とやらをため込んだ剣、拙速ではない剣は、さっきよりもずっと速く、そしてずっときれいだった。




「しまった!」




 市村の一撃が、ごくわずかに動揺したっぽいエノ将軍の首筋に決まった。


 首、と言うか兜が転がり、中身のない甲冑がくずおれ槍も手甲から離れた。そんで、その兜が俺の剣に乗っかり、跳ねてカスロの下へと飛んだ。


「決まりましたであります!」


 いや、味方ながらものすげえ刃だね。村人たちも含めもうみんなマジびっくり。赤井だけだな、まともに喜んでるのは。




「うっ、クッ……!」

「ああ……」

「gmぇwくぇ;kl、んv;ろいじg・hw:p…………」


 しかしやっぱり魔物だね。首が胴から離れてもしゃべり続けてる。まあ虫の息っつー感じだけどな。んでカスロと来たら今更あわてふためきやがって、ニツーさんみてえに安堵のため息の一つぐらいこぼしてみろっつーんだよ…………。



「しかし、パラディンの刃は本物だな……」

「すべては裕一のおかげだけどな……」

「まったく、このような村に貴様らのような恐ろしい連中がいるとは…………だが覚えておけ、魔王様の力が目覚めし時には、貴様らはあのコークのように…………!」



 俺らが健闘をたたえ合っている間に、エノ将軍は最期まで魔王への忠義心を見せながら光となり、空に溶けて消えちまった。血の一滴も出さないままに、まったくきれいなまんま死にやがった。もちろん、鎧も残さないで。




(後味のいい戦いなんて一つもねえんだな……)


 そう思わせる程度には、ご立派な死に様だった。





「あの、その、これはその、私の独断で」

「あんたはもう休めよ……」


 その一方で、ようやく雑音を止めたと思ったら息子のようにみっともなく口を開けてるあのオッサンと来たら……あーあ、何がご立派な村長様だか……。







 で、この後言うまでもなく村長親子は村人たちから糾弾された。


 コークを呼び出すのはともかく、あんな凶悪なそれを作り出した時点でそんな心根の人間に村を治めさせるわけには行くかとばかりに、二人そろって村から追放。


 金の切れ目が縁の切れ目とばかりに三人の女も元の場所に戻り、二人は俺らより先に村から逃げ出すことになった訳よ。皮肉なもんだね。

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