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怪物の名は!?

 で、城を出てから延々二時間。すでに夕日が見えかけていると言うのに、まだ足跡はなくならない。

 馬は四頭ともほとんど動けず、俺たちももう疲労困憊だった。


「あいつは一体どんな馬に乗ってたんだ?」

「明らかに不自然な耐久力であります……」


 速度そのものは決してあり得ない速さではない。


「やはりその手の魔法がかかった馬か……」

「もしかすると、幻影の馬を使って乗り潰して?」

「それでもどこかで途切れるはずであります。ここは城からいったいどれほど」

「およそ十四里だ」




 …………五十六キロか。ったくまったく本当に遠くまで来たもんだ。


 ミルミル村からペルエ市まで二日間だがあそこは道があまりよくなく距離にすれば五十キロ程度しかないらしい。それでペルエ市からクチカケ村まで一直線で六十キロ、あとクチカケ村とエスタの町、シギョナツとサンタンセンはだいたい等間隔でそれぞれ五~十キロぐらいしかない。で、サンタンセンとリョータイ市の距離がその倍ぐらい。キミカ王国とこのトードー国の間は十キロもないが、あの悪路だったため時間がかかった。

 ついでに言えば、キミカ王国をほぼ一周したせいか移動距離としてはそこだけで七十キロは稼いでいるらしい。


 五十日(実質十五日)で合計二四〇キロ、マラソンの練習ならばたったそれだけでしかない数字だが、横浜駅から直線距離で二四〇キロとなると福島の郡山駅よりもう少し先になる。電車を乗り継げば二時間足らずで行けるほどの距離だが、それにしてもえらく遠い所まで来たと言う気分にしかならない。




「今日はもうこれ以上の前進は無理だと」

「馬を置き捨てれば話は別でしょうが、元より登城時に既に昼過ぎであった事を思うと」

「闇夜で馬を走らせるほどバカな事もない……夜襲ならともかく追跡などはとてもとても……」

 


(夜もえらく暗いよな)



 いろいろな事が違う世界を巡り、自分なりに成長したつもりでいた。


 血しぶきが飛び交うのにも慣れてしまったけど、それと同じぐらい実感させられているのが夜空の暗さだ。



 この世界には月はないようだけど、その代わりのように星は強く主張している。星は闇夜の中でみんな競うように輝き、結果として調和を作っている。

 あるいは女神様ってのがそうさせているのかもしれないが、本当にうまい事できている。


 まあいずれにせよ、街灯などありゃしないこの世界。夜の頼りは松明かランプか魔法だ。

 今俺たちが休んでいるのは宿ではなくただの小屋であり、そこに馬四頭を並べてかろうじて九人分の寝床を無理くり確保しているに過ぎない。

「大川は家主さんにえらく平身低頭していたな」

「お武家様と言う名の支配階級にあるセイシンさんも誠実だったからな、誠実なればこそ領民には好かれるんだろうな」


 相当な大金を渡し、そして一夜の宿を乞いたいとするその姿勢はもはや支配階級のそれじゃなく、ただのお客さんだ。


 この誠意をどれだけの人間が嫌えると言うのか、俺にはわからなかった。



 まあとりあえずは休もうかと思い、家主に向けて改めて挨拶をしようとした。




「ん?」

「馬蹄の音がする!」

「何だおい、細川が」




 細川が何かをやらかしてあわてて戻って来たのかとばかりに首をやると、西から凄まじい速度で馬に乗った人たちが駆けて来た。



「ああセイシン様、お助け下さいませ!」

「何事があったのだ!」

「西の村に魔物が現れたのです!」

「魔物だと!」



 魔物。わかり切っていたとは言え、一体今度はどんなやつなのか。



「特徴は!」

「毛むくじゃらで……それで顔が」

「ちょっと!」

「はっきり申せ!」

「毛むくじゃらで背がデカくて爪があって……ああはい、それだけです!!ああまた迫って来た!失礼いたします!!」


 恐怖で震えまくっていたとは言え、どうにも要領を得ない。


「とりあえず、迫って来ている事には間違いない。体制を整えるより他ない」

「了解であります」



 街道からやって来る存在をじっと待ち受けるように、俺たちは街道を挟んで別れた。


 もちろん逃げて来る人間は通すが、毛むくじゃらの魔物とやらは見過ごさない。お城や城下町に被害を出す訳には行かない。



「ああ、若君様が!」

「んな訳があるか!」

「でもあれは間違いなく若君様の顔だった!」


 もちろんテイキチの事も忘れてはいなかったがと思い直した俺たちに、いきなり若君様と言う避難民らしき声が飛んで来た。




「若君様が何だと!」



「毛むくじゃらの怪物が、若君様そっくりの顔をしてたんです!!」


「なん……だ、と…………!」




 セイシンさんが、まったく動かなくなった。




 って何?あのテイキチが怪物に?


 この世界に慣れたはずの俺や、赤井すら開いた口が塞がらない顔になっていた。

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