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追跡・細川忠利

「しかしこうして馬に乗っていると本当に速いですね」

「馬車もあるが、今は一刻を争うゆえ」


 俺たちは四頭の馬におおむね二人ずつ乗りながら、馬を疲れさせないほどのペースで進ませている。

 目標は西。若君様が連れ去られた西側だ。



 って言うか馬の足跡のデカい事デカい事……俺らとはえらい違いだぜ。



「しかし経験などないのにそなたら」

「一応貴族のたしなみと言うのがございましてな」

「俺はなぜか乗馬の力まで女神様から受け取っておりまして」

「もしや上田君も」

「いや俺はできないはずなんだが」


 市村は赤井と共に、貴族の家のたしなみとして馬術の心得のあったトロベはオユキと共に、そして馬術の心得なんぞない俺はセブンスと共に。


 不思議なほどに馬って奴は俺になついてくれている。初心者そのものである俺に合わせるかのように自然に足を動かし、極めて従順に前に付いて行っている。


「さすがユーイチさん!何でもできるんですね!」

「話聞いてる?」

「実はその、その馬は少し魔法がかかっておってな、初心者でも乗りこなせるようになっている」

「…………」


 以前説明したはずなのに、セブンスはすっかり忘れて落ち込んでいる。こういう所が可愛いのかもしれない。

(河野だったら乗りこなしそうだよな、あんなチート異能なくとも)

 河野は昔から何でもできる。いろいろできすぎて、一体何ができないのかわからない。確かにテストで100点は取れないけど、それでもいつも俺より一歩前を行っていた。


 国語

 三田川恵梨香 100点

 赤井勇人 100点

 河野速美 83点

 上田裕一 80点


 これは中間テストの点数だが、だいたいいつもこんなだ。他にも何から何まで河野は俺の一歩前を行き、やっと勝てるようになったのがかけっこだった。

 そのかけっこを極めようと思って俺は精を出し、箱根駅伝と言う夢を得た。


 もちろんその事は感謝しているけど、正直河野と結婚するようなシーンはどうも思い浮かばない。


「ちょっと!」

「いや、なんでもない……」



 他の女の事を考えていた事がばれたか背中をはたかれたが、それ以外はおおむね順調に馬を進めていた。



「しかし三人乗りなど」

「大丈夫だ、これは私の愛馬だ、誰よりも強くたくましい。オオカワ殿もマエダ殿も安心していただきたい」


 心配なのは、三人乗りになっているセイシンさんの馬と、前田だ。


 馬上の人となってからずっと思い詰めたような顔をして、一刻も早く目的地に着きたがっている。

(ったく、あの男は前田にすら心配をかけて平気なのかよ…………)



 出立前、一頭の馬がなくなっていると言う小姓さんからの報告があった。どうやら細川の奴が半ば強引に奪って駆け出し、俺ら以上の速度で若君様を追って行ったらしい。


「いずれは合流できるでしょう。あんな速度で走らせていては馬が参ってしまいます」

「拙者もそう思う。されどだとしても真相はそれほど楽観的でもない。

 ホソカワと言う存在、正直優秀な兵卒ではあっても一軍の将足りえる器ではない」

「そうですか……」

「前田、あなたは細川君の大将になるべきよ。そうしないと元の世界に戻っても細川君は絶対同じミスを犯すわ!」


 細川が大将になったら兵たちを差し置いて、一騎で駆け出して敵を全滅させようとしそうだ。そんなんなったらそれはもう戦争じゃなくただのケンカで、まともに戦っている奴にかならず一網打尽にされる。

 まさしく細川ってのはとんだ暴れ馬であり、それを制御できる乗り手がいるのかどうかわからない。制御できればその力はすさまじいはずなんだが…………。


「しかしさ、どうやって探す訳?」

「この足跡を見ていただきたい」

「ずいぶんとはっきりと刻まれているでありますな」

「おそらくはホソカワ殿が付けたそれ……まあいずれ途切れるであろうがそれまでは前進して構わぬだろう」



 ずいぶんとはっきりと残った馬の足跡だ。昼飯の握り飯をおよそ五十日ぶりに喰ってノスタルジーに浸っている間にも、足跡は強く主張してやがる。

 こんなに派手に付けて一体何をする気なんだろうかホソカワは……ああ元からそんな事考えてねえな、ただ単に前しか見えてなかっただけか。


「とは言え……」

「ここまで途切れないのは不自然ではありませんか」

「うむ、まったく途切れがない。制止する事もなければ速度を落とす事もない。恐ろしく正確な速度だ」



 そして、あまりにもきれいすぎる。


 速すぎて潰して別の馬に乗り換えたにしてもどこかで空白が生じる物だが、それがまったくない。

 街道から外れる事もなく、一直線に続いている。



「もしや他にも魔法のかかった馬があり」

「それはない、だが何者かが後からかける事は可能だ。ホソカワ殿にそんな力は」

「ないはずです」


 俺たちは俺たちの速度でしか急げない。その事が何とももどかしく、城下町を離れてから続く豊かな自然が恨めしくなってくる。

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