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癒しの風

「ハア、ハア……」



 さすがに息が上がって来た。冒険者の皆さんが負担してくれているとは言え、刀を持つ手が重くなっていく。


「氷の壁もかなりもろくなっています」

「これ以上は危ないか……」


 俺は氷の壁から離れ、川に向けて倒れるように刀を振った。



 氷の壁がガーゴイルを巻き込みながら倒れ、水しぶきが上がる。


「ああもう!死屍累々じゃねえか!」

「急ぎ回収するぞ!ああウエダとか言ったな、半分はお前の手柄って事にしといてやるからな!」



 冒険者たちが大八車にガーゴイルの死体や鎌を積み、ギルドへ向けて運んでいく。この世界にもそんな物があったのかと感心する暇もなく、また新手が来る。


 優しい冒険者の皆様ではあるが、それでも絶対的な手数が減った事には変わりない。



「これはやっぱり狙いは」

「間違いない、囮だ!と言うか仕掛けて来たんだ!」




 まったく、ナナナカジノ襲撃から始まってどうしてこう数で押される展開になるのか。まあ少数ので多数の敵を倒すのは物語の醍醐味とか言うけどな、実際になってみると面倒くさくてしょうがない。

(こんなチート異能がなければとか言う問題じゃねえよ……)

 そしてこの前の街道での戦いでは、俺たちは山へと追いやられ本道に襲い掛かって来たタイガーナイトたちの攻撃を凌ぎきれなかった。


「皆さんを信じましょう!」

「それしかないか!」



 結局それ以外何の言いようもない。放置すれば町が荒らされる危険がある以上、ガーゴイルたちを放置できるはずもない。



「城の方はどうなっている!」

「お城の方をかすめながらこっちに向かって来ています!」

「ヘイト・マジックの力と思いたいけどな!ったく本当に名前も良し悪しだな!」


 ガーゴイルたちがまったくやむ事なく向かって来る。


 ヘイト・マジックの力だとしてもあまりにもおかしい。真っ赤に光る俺を誘蛾灯だと間違えている訳でもないだろうが、こんな距離から狙ってくるほど俺は恨まれているのかと思ったが、俺はすでに名前を売っていた。

 ウエダユーイチと言う名前で三人もの「魔物幹部」を斬り、それ以外にもたくさんの魔物を斬って来た。

 こんな刀すら、俺の名前で手に入るようになった。



「ああくそ!邪魔するんじゃねえ!」


 とっくに止むはずの攻勢が、まだ止まない。百や二百どころか、三百はくだらない。


「おいあんた、どこまで恨まれてんだ」

「わからない……わかりません……!」

「三度ほど魔物軍団を退治したぐらいにはです!」

「なるほど、それは大したもんだよね」

「っておい!お前誰だ!」

「はい五十匹追加!」



 いきなり割り込んで来た声に言い返す暇もなく、その言葉通りに五十匹のガーゴイルが追加されてくる。


 ああもう、いい加減にしてくれ!!


「まだいるのかよ!」

「皆さん……!」

「ここは俺に任せろとも言い切れないよな……」


 俺は必死に刀を握りながら、たかって来る魔物を殺す。流れ作業のように命を奪い、刀を青く染める。



「誰か、荒れ屋敷まで行ってくれませんか!」

「どうしたんよ!」

「タダトシがいるはずです!」



 もういい加減にしてもらうために、俺は細川を使う事にした。

 あいつはおそらく、自分に与えられた役目を真っ正直にこなす事ができればかなり使える存在になるはずだ。あいつの能力を持ってすれば、こんな大勢の相手をするのはたやすいはずだ。


「強引にでも引っ張って来てください!」

「わかった!」


 もう少しだけ、もう少しだけでも頑張らなければならない!セブンスも今や自前の剣でガーゴイルを突き、そして冒険者の皆さんまで一緒になってくれている。


 何とかしなきゃいけない、何とかしなきゃ!


 回収してくれている人たちのためにも、セブンスのためにも!



 この国に世話になっていれば、そういう発想が出て来るのは自然なはずだろ!




「おいおい、いねえぞあのタダトシってのが!」

「そんな……まさかこれが見えてないのか!」

「いやさっき斡旋所に行ったんだけどさ、そこで城に向かって走ってく茶色い外套を着た奴を見たんだけど、それってあるいは……」


「ふざけんじゃねえよあの野郎……」



 本当に何にも見えてねえ。

 おそらく本命である城へと行ったんだろうが、仮にもリーダーであるはずの俺がどう思ってるのか考えもしないでよ……



「あとどれぐらいいるんだ!」

「二十、五ぐらい……」


 体力も気力もなくなってくる。まったく、まだ本命ですらねえのに、何をどうしてこうなるのかもうわかりゃしねえ!



「すごいですユーイチさん!もう四百は倒してます!」


 セブンスだけは真面目に励ましてくれるが、それでどうなる訳でもない。


 なぜあいつはどうしても俺の言う事を聞かない!?

 確かに俺はぼっちだった、誰とも親しくなかった。だが事ここに及んでまだそんな話をするのか!?



「誰だよ、なぜだよ……」




 なぜ俺はずっとぼっちなのか、どうして誰もいじめてさえ来なかったのか……!




「あれ?」




 そんな風に追い詰められていた俺の頭が、急に軽くなった。




「大丈夫!」




 緑色の風が吹き、気持ちが穏やかになる。



 ついでに腕も軽くなる。


「お前……!」


 そしてその先には、茶色いローブを羽織った奴がいた。

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