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エノ将軍の脅威

「魔王様に楯突くのであれば、死あるのみだ!」



 エノ将軍は槍で俺の頭を叩き割りに来た。さっきのコーク以上に強い風圧で、それこそ一発で体が持ってかれそうだ。


 幸い大振りなのでよけられたが、それからもかなりの速度で攻撃をかけて来る。


「リビングメイル、生きる鎧でありますか!」

「聖職者様なら浄化とか」

「一応やってはみますが、おそらくは無理でありましょう……」




 赤井はセブンスの言葉に応えて祈りの構えをとるが、あまり真剣には見えない。


 と言うかエノ将軍め、顔も見えねえのに笑ってるよ。


 鎧に限らず長らく使って来た者に魂が宿るってのは必然の事なのかもしれねえ。でも、こいつの鎧はあまりにもきれいすぎる、そう飾り物の甲冑みたいだ。返り血とかもなく、あまりにもまっさらだった。


 赤井はセブンスに袖を引かれながら呪文を唱えるが、エノ将軍はまったく気にする事なく俺に槍を振るいまくる。守るのがいっぱいいっぱいで、押し返す暇はない。チート異能があるからと言っても、そんな一撃喰らえば死と言う攻撃を目の前にしてチート異能があるしで済むわけでもない。さっきはうまく行ったけど、今度はどうなるかわかりゃしない。



「ダメでありますね、ぜんぜん浄化すべきそれがないであります」

「つまらない怨念ごときで我は動いていない、すべては魔王様の力なのだから」



 戦争で主を失った鎧とか、それとも殺した奴の返り血を浴びたとか、そんなもんが一切なさそうな代物には効かねえらしい。まあそうだろうなと思いながら俺は攻撃を必死にいなし続けるが、だんだんと剣が重くなってきた。


 その隙を突かれたのか、俺の剣の真ん中から槍を振り上げられた。握力のなくなっていた手から剣が跳ね上がり、セブンスの前に転がった。



「まずい!」

「さあどうする?逃げ回るか?」


 本当なら逃げたい。でもそうしたら次がどうなるかぐらいはわかる。



「うるさい、さっきのコークみたいにぶっ飛ばしてやる!」

「無謀だ!」



 他にする事はなかった。その腕の力だって弱っちまってるけど、他に何ができる訳でもねえ。いざとなったらチート異能にすがるのも……


「おいエノ将軍!」

「パラディンか……!なるぼど強気にもなる。しかしだ、その剣は届かないぞ?」

「やってみずにわかるものか!」

「その槍がどんなに速くとも、鋭くとも無駄であります!」



 ああ、悲壮ぶる余裕なんぞ俺にはなかった。コークとの戦いを俺に任せてくれた市村はまだ元気だった。いちいちカッコよく剣を構えている。俺のような田舎剣士じゃねえ、これもまた立派なチート異能だ。



 市村の剣が輝きを放ちながら、エノ将軍の左腕に向けて飛ぶ。


 その市村の真後ろではセブンスから離れた赤井が、何かの魔法を使おうとしている。



「隙だらけだぞ!」

「先刻承知!」




 市村の剣と、エノ将軍の槍が同時に相手の体を捉える。そしてほぼ同時に、赤井の魔法が市村の体に当たった。




「すごいですね……」

「肉を切らせて骨を断つか……本当にすげえコンビネーションだよな」


 おそらくあれは回復魔法だ。市村は自分が斬られることを承知であんな風に突っ込み、そして赤井に魔法をかけさせて傷をふさいでいたんだろう。体勢を立て直して剣を握った俺も、ぼっちにはできないコンビネーションに感心していた。




「効いてないであります!」

「パラディンの剣は確かに怖い……だがそれがそんな拙速で繰り出されてはな!」


 だが、市村の剣はエノ将軍に効かず、デカい音を鳴らしただけだった。



 あれほどのコンビネーションを拙速の一言であしらわれた市村の剣が、急に鈍くなった。

 おそらくはこのひと月、いやもうちょい長いか短いかはともかく多くの相手を斬って来た戦法が通じなくてあわててるんだろう。



「おいおっさん、何とか止めろ!」

「だいたい、だいたいだ!セブンスが」

「私のつたなき振る舞いによりまして彼女を口説けず、だから私は独り身なのでございます!」


 カスロに八つ当たりしても返って来たのはセブンスへの責任転嫁と、その数倍の誠意を込めたニツーさんの謝罪。見れば短剣を構え、最後までこの主人を守ろうとしている。




 俺らの戦いで村は荒れちまった。とは言え、まだ人的犠牲はないはずだ。




 ならば、もうやるしかない。


「よし、俺が相手だ!」


 勝算なんかない。でも負ける見込みもなかった。


(ぼっちにはぼっちの戦い方がある。そういう事だよ!)


 俺がもしぼっちならば、そのぼっちが俺の正の個性ならば!



 決してひるむ事はない!



「死んでもらう!」

「そうは行くかよ!市村!」

「わかった、あの時の戦いを頼む!」


 俺は市村を下がらせ、再び突っ込んだ。


 剣がどうとかはぶっちゃけ関係ない。それこそただのケンカのように、思いっきり暴れ回るまでだ。



「先ほどあそこまで追い詰められておいてまだあきらめないのか!」

「お前がとっとと逃げ帰るんならあきらめる!」

「その心意気はよし!だが!」



 俺の心を折らんとばかりに、市村の時以上にすさまじい速さで槍を突き出して来る。十本二十本ではなく、それこそ百本単位だ。



 速い、めちゃくちゃに速い。



 でも不思議な事に、俺の体は勝手に動く、動き回って全て避けちゃう。


 こっちの攻撃だってなかなか当たらないし、当たったとしても打撃は少ない。でも当たってはいる。







 何十発単位で攻撃をもらっているはずの俺は、無傷だった。

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