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主従関係

「やれやれ……」


 泣きじゃくった細川をなだめるのに数十分かかった俺たちは、ようやく涙を涸らした細川の背をなでながら斡旋所へと戻る事にした。


「それでどうするんですこの人」

「細川、悪いけど俺がリーダーだ。俺の言う事を聞け。俺のが嫌なら市村のを聞け」

「ああ……」


 まったく、あれほど泣き腫らしたせいか細川の目は真っ赤だ。

 いい年をした男が情けないとか言う気はないが、それがもしまだ血の気が残っているからとか言う理由だったら、今度こそ情けないと言わざるを得ない。

(俺だってどんな使い方をしたらいいのかわからないけどな、あんな力任せの使い方をしてたらダメに決まってるだろ……)


 自分が何とかしなきゃいけない。


 まったく正しい考え方だ。


 だが所詮俺たちはチート異能と言う名の手札一枚でこんな場所に落とされた存在だ。何ができるのかわからないけど、身の程ってもんがあるだろう。三田川のような無茶苦茶なやつもいるかもしれねえけど、そんなのに期待するなど図々しいにもほどがある。


「で、お前一体何人にケンカを売って来た?」

「五人だ」

「本当にか」

「本当にだ!この方法で勝てないと知れば必ずや」


 で、自分たちと同じような存在を探し、そして目的を達成するために勝負を挑んでいたらしい。


「こんな事ひと月半もやってたのかよ!」

「違う、半月ほどだ」

「半月と申しますと」

「それまではずっとリョータイ市にいた。そこで自分の能力を自分なりに研究し、冒険者として戦果を挙げた。そこで三田川により平林が襲われたと言う話をひそかに聞いてな」


 ゴロックさんが南の国で起きた事件を肴に話しているのを聞いて動いたらしい。

 街道ではなく西の抜け道を通り、トードー国にやって来た行動力は認める。


「いちいち間が悪いであります。それに最初からあなた一人で」

「ああそうだ」


 しかし赤井の言う通り、本当に間が悪い。もう少しだけでも長くいれば、俺たちとも合流できただろうに。辺士名ともあまりいい形ではないだろうが出会えただろうに、

 しかも一人ぼっちでひと月以上いたらしい。そういう話自体は少なくないようだが、同じ事になっていた遠藤や剣崎、辺士名たちの事を思うといたたまれない。俺や大川のように優しい人間と出会うだなんてそれこそ奇跡みたいなもんなのかもしれない。

(弱い訳じゃないんだろうがな……)

 遠藤のように悪い奴にそそのかされたり、剣崎のように力に溺れたり、辺士名のように潰れたりはしていない。だがその強さが強情に化け、責任感が暴走のエネルギーになっちまってる感じだ。




「うう!」

「俺らの言う事を絶対に聞け!これは命令だ!」


 俺は細川の腹に肘打ちを食わせた。ダジャレでもないが細くない細川がうずくまり、腹を押さえている。


「お前はな、俺に負けたんだよ!その事をわきまえろ!」

「まったく、こんなにあっけなく不意を突かれるとは……」

「クラスメイトに上下関係なんかねえよ、成績やその他で差が付く事はあってもな!でもここに来ちまった以上、出血多量上等の世界にいる以上な、どうしても上下関係は露骨に出ちまうんだよ!って言うか今回は俺がはっきりと出すよ!」

「ああ……」


 ぼっち野郎の俺らしくもない、強引なリーダー宣言。市村にはとてもできねえような真似をして、細川を打ちのめしてやる。


 それでも細川は敗北の悔しさを噛み締めながら体を引きずり、まったく血の気の引いていない目をしている。敵さえ現れればすぐさま噛み付きと言うか食い尽くしに行きそうだ。首に縄でも付けてやりたい。



「しかしそれにしても、若君様を洗脳しているのはどこの誰なんだろうな」

「洗脳?」

「若君様はお殿様に反発し、すっかり孤立している。お殿様もセイシンさんたち重臣の皆さんも若君様であるテイキチの事を真摯に考えているんだろうけどな、それに耐えかねているんだろうな」

「そんな中で甘言を耳に放り込む者がいれば付いて行くのは当たり前だ。今のテイキチは何よりもその手の感情に飢えているからな」



 コーコ様と言う名のお殿様は、俺らなんかに直接会う程度には懐が深い。それ以上に町の人たちに慕われていて、この主君に仕えたいと思わせるほどには人気があるらしい。

 もちろん問題がない訳でもないが、そこまでするのにはかなりの努力が要るはずだ。それを受け継がなきゃいけないとなるとそれこそとんでもない難業である。


「お殿様がお気楽だなどと死んでも言えないでありますな」

「コーコ様だって同じような経験をなさったのかもしれませんね……」

「でも親にできたから子にもできるってのはちょっと無茶な気もするけど」

「封建社会と言うのはかような物。血筋が何よりも重く、好む好まざるにかかわらず王位を押し付けられ、またどんなに力があろうとも血統なき者は王とはなれぬのであります」


 まれになったとすれば王様からよほど気に入られて姫様でも嫁がされてと言うケースだろうが、それでも普通は直子優先でありそんな存在は王族にはなれても王様にはなれない。

 だからこそ王様はあのテイキチを目一杯鍛えようとしているんだろうがな……まったく正しいんだよ、うん、正しいんだよ……。







「魔物だ!」

「何、まも……」


 俺が正しい教育ってのを考えてる中飛んで来た魔物だの声と共に俺はもう一度細川に肘打ちをくらわし、町へと駆け出した。

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