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風を感じる

作者「ニコリって会社に桃太郎さんって人がいるんだよね」

上田裕一「世の中広いな……」

 あくまでもこっちを引き付けるかのように、白い浪人は無言で歩いて行く。


 いや、歩いていない。滑っている。足が揃っている。




「どうしても連れて行きたいようですね」

「この先には何が」

「ああお前さんたち、この先はやめた方がいい。かつて大きな屋敷があったけどな、お家騒動で数年前に潰れてな。今は無人の荒れ屋敷だよ」


 無人の荒れ屋敷。まったく、戦うにはいちいち絶好の場所だ。なんで潰れたのかはわからないが、いずれにせよここで細川は俺たちの事を待ってるんだろう。




 とにかく白い男に付いて行った俺たちは、その荒れ屋敷へとたどり着いた。




 いかにもな武家屋敷、そして誰も刈り取っていない事がバレバレの草むらに薄汚れた屋根と壁。


(一体どこから……)


 右側は屋敷。左側は塀。正面はかなり離れているがやはり塀。後ろはもちろん俺たちだが、同時に視界の悪い草むらでもある。


「え?」


 で、俺が気にする間もなく、先制攻撃が来た。




 ――――後ろから。




「セブンス!」

「だって一番安全だと!」




 あまりにも唐突なヘイト・マジックの攻撃に俺が呆然とする中、サムライたちがいきなり襲い掛かって来た。



「来た!」


 赤く光る俺に向かって、次々に白いサムライがやって来る。みな一様に、真っ白な着物と帯をして同じ長さの刀を持っている。



「行くぞ!」


 みんなに害を与えないためにいつものように俺は突っ込み、三方向からやって来るサムライたちを相手にする。



「やってやろうじゃねえか!」


 キミカ王国でもらった日本刀を抜き、飛びかかって来る連中に向かって振る。




 案の定、手ごたえはない。


(しかし幻術にもぼっちとは参ったね……)


 俺に向けられるニセモノの剣が、俺の体を捉える事はない。俺の刀が幻術製のサムライを捉える事はないように、いくら斬りかかっても俺の体を通過する事はない。



「しかしわかるのか?この情勢で本物が」

「本物がいない可能性があると」

「本物でもニセモノでも、こっちはじっくりと見るだけであります」



 俺だって、ぼっチート異能を頼りに引き付けている。とは言え引き付けているだけでは、いつものように仲間に後ろから斬りかかってもらう事もできない。


「突如ニセモノが本物になると言う事は、本物がニセモノに変わる事もある」

「それは!」

「とは言え、ちゃんと見分ける要素はある。見てみろウエダ殿の戦いを」


 赤井たちだけでなく、俺も見なければならない。


 幻影のサムライの刃は、いくらやっても手ごたえがない。もし本当の刃ならば、草むらが少しはきれいになっているはずだ。ところがまるで雑草がなくなる事もなく、風さえも吹く事はない。


(風か……)


 こんな戦い方ばかりして来たせいか、俺を撫でる風の感触にも慣れた。

 風がどこからも飛んで来ない。前後左右、四方八方を囲まれているのに。


 俺は風を読むことに集中した。レース中でもなかったぐらいに風を感じるべく、耳と頬に神経を集中させた。




「そこか!」




 そして、風のした方へと向けて俺は刀を振った。ようやく聞こえた金属音に一瞬背筋が寒くなり、すぐさまその風のした方向――――右斜め後ろに向けて態勢を変えた。


 ここぞとばかりに刀を振る。剣より重いが、それでも使いこなせないほどではない。


 確かな手ごたえを感じ、激しく振り回す。間違いなく、本物の音だった。


「細川!俺たちに力を貸してくれるな!」

 一説ぶちながら、俺は手ごたえに向かって振り続ける。



 だが急に、手ごたえがなくなった。


 そしてすぐ後ろからまた風が起こり、あわててそちらへと刀を振った。

 その間も俺を取り囲んだ幻影のサムライが刀を振りまくっていたが、風すらも起こす事は出来ていない。


「ええい!」


 火花がうす暗い屋敷を照らす。

 しかし二、三発しか出ない内にまた手ごたえがなくなり、風もなくなる。

「今度は右側か!」

 三度目の風は、右側からだ。俺はまた刀を合わせ、音を鳴り響かせる。


 そして今度は一太刀で手ごたえがなくなり、風も止んだ。



「まったく、本物はどこだ……」


 それでも集中力を切らすまいと必死になっていると、四度目の刃が真南から来た。もちろんぼっチート異能があるので当たらないが、不意を突かれた事には変わらない。


「くっ!」


 しかも今度は不意を突かれたせいかかなり押されている。このままではまずい。


「どうもあの刀おかしいであります!」

「何!」


 そこに赤井の声が鳴り響く。俺が刀を見ると、どうも曲がり方が変だ。


「刀は剣と違い片刃、刀背の側では斬れないであります」


 なるほど、よく見るとこの刀は鋭い方が外側になっている。


 殺す気はないと言う事か?


 まあ実際三田川でもあるまいし、細川に俺を殺す理由などないはずだが、それにしてもどうして……


「また風か!」


 いやそんな事よりとばかりに斬りかかろうとした途端、目の前の手ごたえがなくなり今度は北側から風が来た。


 今までで一番強い風が。




 俺はその風を刀と背中で受け、その上で二の太刀を放つ。


「えっ!?」


 そして二の太刀を放つと同時に、幻影たちが全て消えた。




「それなら、大丈夫、か……」



 そして白いサムライが急激に茶色くなり、そしてサムライでもなくなった。




「お前……」




 茶色いローブを頭からかぶった男————————サムライになりすましていた男は、この世界のそれと違う中指と人差し指のVサインを俺に向けて来た。




「細川……」

「お前たちなら、大丈夫のようだな」


 細川忠利は、自信満々の表情で俺たちに向かって右手を振って来た。

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