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謎の白いサムライ

作者「今回、クラスの名前が全員出ます」

上田「登場するとは言ってないけどな」

 さてそういう訳で若殿様を支配する何者かの存在を探る事になった訳だが、正直名前も顔も売れてしまっている俺たちが若殿様にへばりつくのは難しい。

「難しいな」

 もちろん殿様の許可はもらっているが、おそらく声の主は俺たちの事を既に把握している。じっと潜むか、それともそそのかしているかのどちらかだろう。



「今の彼の必要なのは、自分の言う事を受け止めてくれる存在であります」

「受け止めるだけならば私でもできよう」

「そうなんだよねー」

「平林はそのつもりだったのかもしれないが、まだ足りなかったのかもしれない。それこそ靴を舐めろと言われればすぐなめるようなな」



 コーコ様もセイシンさんも他の皆さんも、テイキチの事を真剣に思っている。

 だが絶対的な権力者であるコーコ様が次の殿様であるテイキチを立派な存在にしようと可愛い子には旅をさせよの精神でやっているため、誰も決定的に甘やかす事ができない。

「ヒラバヤシ様は若殿様にとても優しく接しておりました」

「どんなに若殿様がかんしゃくを起こしてもきちんと受け止め、決して激高する事なく冷静に返しておりました」

 ――――ヒラバヤシリンコは極めて優しく、その上で力を見せてじゃれる若殿様を受け止めていた。そのやり方は殿様もお気に入りだったようで、平林はかなりいい暮らしをしていたようだった。


 たぶんだけど若殿様が求めていたのは自分に何から何まで付き従う子分であり、ご立派な教育者様ではなかったんだろう。と言っても、それをやった結果についてはあんまり考えたくもない。




「だとすれば」

「まずはセイシンさんが言っていた他の仲間を探そう。あと五人のうちの誰かである事は間違いないだろうからな」


 もちろん平林は気になる。その上で、この国に来ているらしい俺たちの仲間を探さなければならない。


「赤井」

「えっと、藤井佳子・細川忠利・前田松枝・ムーシ田口・持山武夫……であります」

「彼らも特別な力を」

「持っていると思いたいがな」


 そうであってもらいたい、と言うか持ってなければ困る。仲間になるにしても、敵対するにしても。


「俺ははっきり言って友人なんかいなかった。でもだからこそもう一人も失いたくないと思っている。辺士名や遠藤、剣崎だってやり直せるはずだ。もちろん三田川もな」

「そのためには特別な力は必要不可欠であると」


 ずいぶんと大きく出てるかもしれないけど、それでも河野だって言ってた。困ってる人間を見捨てるだなんてまともな存在のする事じゃないと。困っていないのかもしれないけど、まあその時はその時って事で。




 さてそんな訳で俺たちは冒険者ギルド(この国では冒険者斡旋所と呼ばれ、ランクも数字で○番目となっているらしい)の手前までやって来た。


 実に和風なそれらしく、畳敷きにちゃぶ台、座布団が並んでいる。席も座椅子はなく、紹介人ことギルドマスターも黒の羽織袴を着た上で髷を結い刀を差している。


「しかしのれんまであるとは…………」

「のれん?」

「商家に置ける看板のような物であります。商人がその才と功績を認められた暁にはのれん分けとした新たな店を出す事になるのであります」




 まあそういう訳でのれんをくぐって入ろうとした途端に、視界の端っこに一人のサムライが映った。

 いきなり刀を抜き、無言で斬りかかって来ようとしていた。


「セブンス、ヘイト・マジックを!」

「えっ、あっはい!」


 セブンスにヘイト・マジックをかけさせ、ほんのり赤くなった体をそのサムライへと突っ込ませる。

「ちょっと何を!」

 オユキの足を踏んでしまったことについては後で謝る事にして、とりあえず盾になるつもりで俺も刀を抜いた。


「上田君!」

「赤井、お前見たか」

「それは、確かに見ているでありますが……」


 真っ白な着物を着たサムライが、銀色の刃を握りしめてこちらをにらんでいる。

 ついでに肌もどこか白く、まるで生身のそれには思えない。


「除霊魔法!」

「ダメだ……まったくうめく様子がない……」


 幽霊の魔物かと思った赤井が僧侶らしい攻撃魔法を用いるが、まったく手ごたえがない。どうやら有効な時は苦しむそぶりを見せるらしいが、それすらも効かないのか。



「何をしている!」

「何だこの怪しい真っ白なサムライは!」


 そんな風に街中で戦闘態勢を取ってた訳だから当然ながら見回りのサムライたちが出て来た訳だが、すぐさまその怪しいサムライの存在を認めたか冷静になってくれた。


 何一つ言おうとせず、じっと刀を構えている。かかって来いとさえ言おうとしないで、じっとこちらが手を出すのを待っている。

 ギルドの入り口に立ちはだかるでもなく、じっと立ち続ける。どうにも気味が悪い。


「そなた、一体何のつもりだ、答えよ!」

「…………」


 サムライさんたちの誰何の声にもまるで反応しない。これじゃサムライと言うよりロボット、戦闘兵器の類じゃないか。


「それでこの者たちは」

「俺はウエダユーイチと言います」

「そなた、セイシン様が招いた存在でありあのヒラバヤシの友人だ、知らんのか」

「彼女可愛かったよな、どうしてあのミタガワってのは」

「そんな事を言っている場合か!」

「でもミタガワはこの国に魔物を送り込み、そのどさくさ紛れに城に入り込んで無理矢理ヒラバヤシを放り出させようと!まったく、この国でヒラバヤシを嫌っている人間なんかどこにもいないはずなのに!」


 で、戦闘態勢を取ったまんまお互い何を話してるんだろう。とりあえずセイシンさんのおかげで俺らの立場は保証されている感じだが、それでも正直軽すぎる気はしないでもない。

 って言うか平林ってすごい人気だな。まあ真面目で謙虚で優しくてその上に強そうとなればモテない方がおかしいが、それでも嫌いな奴はいる。世の中本当にままならない。


「ってそんな事より!」

「後ろから襲い掛かるは士道に反するが、乱暴狼藉を働かんとするならばやむなし!




 まあとにかく俺とサムライの皆さんがほぼ同時に斬りかかった。




「あ?」


 だが手ごたえがない。


 聞こえたのは、刀が合わさった音だけ。



 俺と、サムライさんの。




 そして、謎の色白のサムライは消えていた。




「今の剣士はいったい…………?」




 俺たちはお互いに頭を下げ合いながら首を横に振り、白いサムライの姿を求めた。


 だが、ギルドに入った様子もなければどこへ逃げたのかもわからない。ちょうど南側にいた俺たち、北東側を囲んでいたサムライさんたち。


 いったい何者なんだろうか。

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