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わがまま若様と俺達の負い目

「おいお前ら何なんだ?」


 そりゃこっちのセリフだってんだよと言いたくなりそうな口調の上にやけに甲高い声で叫んで来たもんだからそっちを見ると、ひとりの子どもがいた。



「もしや若殿様ではありませんか?」

「なんだ坊主分かってるのか、俺の家来にしてやってもいいぞ」


 腰に手を当てて鼻息を出し、精いっぱい威張っている。サムライの国の王子様らしく上物そうな羽織袴を着て髷も結っているが、いかんせん髪の量も迫力も足りない。


「ちょっとテイキチ様、客人に向かって何を」

「つまんないんだよ、どいつもこいつも城がどうの民がどうの法がどうのって!」

「テイキチ様はいずれこのトードー国を背負って立つ事になるお方、何よりもお殿様の統治を一番間近で見て来られたお方!」

「何だよセイシンまで!せっかく新しい奴らが来たから遊べるかと思ったのに!」



 その上に言動がこれと来た。完全にわがままな子どもじゃねえかよ。ほぼ同じ年でもモモミの方がよっぽどしっかりしていた。正直ハンドレ商会かハチムラ商会にでも預けて鍛えてやりたいぐらいだ。


「父上も含めどいつもこいつもあれやれこれやれ、俺は強くなりたいんだよ!」

「サムライとはただ武勇のみを誇るにあらず、心を鍛えてこそ一人前のサムライでございます。ましてやテイキチ様の場合」


 声の速度も大きさもまったく違う二人。どう考えても年長者のセイシンさんの方が格上であり、わがままな坊やをあやしているようにしか見えない。しょうがないと言えばしょうがないんだろうけど正直心配だとか思っていると、いきなりその坊やがセブンスの左手をつかんで来た。


「おいちょっとそこの金髪の村娘、俺の遊び相手になれ!」

「何ですかいきなり!」

「俺の側室にしてやってもいいぞ!父上だって二人いるんだからな!俺だっていずれ」

「私はユーイチさん以外のお嫁さんにはなりません!」


 当然の如くセブンスが拒否すると、かんしゃくを起こしたように腰の刀を抜いて来た。


 こんな場所で刀なんか抜いたら国際問題だってのに、まったくどこまで!



「やめてください!」

「なんだあ、お前がユーイチか?」

「その通りですが!」


 俺がセブンスの前に立ち両手を広げてやると、なおさら憎々しい顔になって斬りかかって来た。

「案外速いな」

 一応稽古を付けられてきたせいか、俺よりも正直速い。構えもそれなりにしっかりしていて参考になるかもとか思ってしまったが、刀の使い方がまずすぎる。


「刀は気に入らない奴をぶん殴るための道具じゃないんですがっ!」

「お前もあいつみたいにごちゃごちゃごちゃごちゃと!その威張りくさった性根を叩き直してやる!」

「あいつとは」

「教えてやる訳ねえよ!って言うか避けてばかりいねえでやって来いよ!っておい、よそ見するな!」




 よそ見をしても、と言うかセブンスたちを見ても平気なのが俺のぼっチート異能だった。


 全員、ものの見事に生暖かい目をしてやがる。文字通りの暴れると言うかじゃれてるだけの子どもであり、まったく怖がるに値しないって所なんだろう。




「どうしてだよ、どうして当たらないんだよ!」

「だから言ってるでしょ、刀は気に入らない奴をぶん殴るためじゃなく」

「うるしゃーい!もう許さない、絶対に……」


 で、結局テイキチはいつの間にか後ろに回っていたセイシンさんに後ろから手刀を喰らって簡単に倒れた。


「セイシンさんすごいですね」

「どこがだよ、勝てなかったくせに……」

「どう考えても若様の完敗です、わかりましたらまず謝意を」

「ふざけんな、犬女も守れなかったくせに……」


 セイシンさんはテイキチの帯を強く握りしめながら、脇道へと抱え込んで侍女っぽい人に渡していた。本当、いちいち格が違う。




「お詫びを申し上げねばなりますまい」

「セイシン殿は無関係でありましょう」

「トロベ殿と申されたか、貴殿の前でみっともない真似を」

「私を見て激高したのかもしれませぬ。我が国のラン王子様も気性の激しいお方でな」

「えー?」

「オユキ、気性が激しくなければあのように研究に専念は出来はせぬ。穏やかに見えても真理の探究のためには妥協をせぬのがラン王子様なのだ」


 確かにあの王子様は立派だったけど、その結果イミセの一族をはじめ多くの追悼派貴族が失脚とまでは行かないにせよ権勢を失ったも事実だった。俺達が王宮やトロベの家にいる間にも様々な処置が行われ、現在進行形でさらに入れ替わりが進んでいるかもしれない。



「しかし犬女って」



 この国にはすでにその手の類の存在がいる事は確認済みだが、それでも守れなかったとなると話は違って来る。誘拐事件の事か、それとも殺されたのか。




「実は二十日ほど前……」




 セイシンさんは平静を装いながらも肩を落とし、その上で憤慨するかのように足を踏み鳴らしている。


「一人の魔導士が現れ、一人の狼少女を出せと迫って来たのだ」

「それって!」

「彼女の力はすさまじく、我々をしてどうにもならず要求を呑むしかなかった……」

「要求とは」

「南の町へと送れと言う事だ、あそこは言うまでもなく多くの娘たちが」




 人買い同然の真似をしろと迫るだなど、まったくどこまでも人道をわきまえていない。こんなふざけた要求を、こんな強そうな人をも圧倒するような力で成し遂げようとするだなんて。




 だが、もしその狼少女が平林倫子だとしたら、そんな事をしかねない存在に俺は心当たりがある。




「…………まさかとは…………思いますが…………」

「どうしたのだ」

「その女、ミタガワとか名乗っていませんでしたか……」



 セイシンさんが首を前に倒すと共に、俺達も同じ動きをした。




 まったく、あの女は何で平林をそんなに恨んでるんだ?


 それこそ何かを見ればすぐさま喧嘩を売るような存在だったけど、特に赤井と平林には当たりがひどかった。

 しかも平林には赤井と違い何にも理由を言わない。強いて言えば「ぐうたら」「怠け者」「サボり屋」だが、そんなのはみんな言われていた。




 そう、あの女には俺たち全員サボり屋に見えるんだろうな……なぜか知らねえけど。

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