エノ将軍、現る!
第一章のラスボス登場!?
「あ、ああああ……!」
デーンがうめき声を上げる中、俺はコークから剣を抜いた。コークの血、緑色の血が胸からあふれ出して石畳の上を流れ、地に染み込んでいく。
「本来なら、王室とかの使い魔。そうでないとしても戦場で兵士にするために用いられてるらしいな!それをこんな事に使うだなんてお前はアホか!?」
「俺は、俺の力で、俺らの力で……!」
「何が俺の力だっつーの、この村どうしてくれるんだ!」
石畳は剥がれまくり、屋台は木片の山と化してる。そしてセブンス目当てに荒らされまくった家の壁がはがれている、まるで台風の後みてえだ。
屋台に何も物資や道具が置かれてなかったのは不幸中の幸いとは言え、これを立て直すの一日二日じゃできねえぞ……。無論けが人もたくさんいるしよ……。
「ユーイチ様!」
そんな悪の権化のデーンに詰め寄る俺に向けて、突っ込んで来る別の男がいた。
その害意のないタックルを俺は回避できずそのまま倒れ込ま、ないでその男が倒れ込んだ。
いや、倒れ込んだっつーか土下座だこれ……。
「ユーイチ様!そして皆様、これはわたくしの責任でございますから!監督不行き届きでございますゆえ!どうかこの私の首を取りデーン様をお許しくだされ!」
「ニツー……お前何だその格好は?」
その土下座の主ことニツーさんの顔と来たら、正直見てられねえレベルで痛々しい。何かに巻き込まれたのか服はボロボロで顔面は蒼白、その上に言ってる事の中身はマジモンの命乞い。
だってのにこの息子はまるでその頭を踏みつけたそうにしてるじゃねえか、何だこのふてくされたガキは。
「親父に黙って持ち出したんだろ?」
「親父が使えと」
「言っておりません、わたくしがそそのかしたのです!村長様は仕事が忙しい故私がどうしてもどうしてもと無理強いしまして!」
これをもしみっともねえとか言うような奴がいたら、俺はそいつを尊敬しない。その程度にはニツー、いやニツーさんはきれいだった。
「んだと、この噓つき執事、てめえなんかクビだ、クビクビ!」
「クビですか、そうですか私の首をいますぐ差し出しますゆえどうか」
俺が何かする前に、市村がニツーさんを引きずってデーンと引き離した。燕尾服っぽいのを着ているニツーさんは細身に見えるけど結構の体重があるはずだってのに、市村もずいぶんと力持ちだね。
とりあえず目の前の命の危機がなくなったもんだから、俺は安心してデーンに詰め寄る。コークを殺したばかりの剣でこいつをぶっ飛ばしてやりたいと思うほどには気分が悪かった俺は、緑色の血が付いた剣をデーンに突き付けてやった。
「お前がさ、お前がセブンスを」
「いつからセブンスはお前のもんになった!」
「すべてお前のせいだ、お前のな!」
「何がお前のせいだよ……!おい、俺の目を見ろ!」
「お前のせいだ!」
緑色の血が、デーンの足元に飛んでいる。ずいぶんとたくさん飛んでいる。
自分が呼び出した奴の血を踏んづけて何とも思わねえのかこいつは!んなでけえ声出せるぐらいなら俺の声を聞け!
「上田君、それは緑色の血ではないであります!顔をよく見るであります!」
っておいこいつ、白目むいて立ったまま気絶してるじゃねえか、っつー事はこれって緑色の血じゃなくて……あー、情けねえ…………
「ニツーさん、こいつどっかに持ってって着替えさせてください。もう俺見てられなくって」
「ああデーン様、デーン様おいたわしや……」
「俺に言わせればあんたとあのコークのが数十倍おいたわしやだけどな……」
「と言うかあなたはなぜこんな事を認めたのであります」
赤井がデーンにぶつけるように十枚の銀貨を投げ付けた。銀貨が石畳に当たり、跳ねて転がる。汚い水たまりをよけて右足に当たり、そのままこのおもらし坊やの肉体に当たり、なぎ倒した。
「ああデーン、デーン……しかしセブンスよ、わしの、いや息子の嫁になればもっと楽に過ごせたのに……なぜだ?なぜだ?なぜだ?」
「私はあの食堂の仕事が気に入ってましたし、それにユーイチさんに出会ってからはユーイチさんと共に生きたいと思ったからです!」
「俺のようなヒモ男抱えててもまともに過ごせたんだ、それが全てだろ?」
坊やの肉体で隠れていたデブオヤジのカスロは、心底不思議そうにしてた。俺の稼ぎなんて守り人になるまでの数日間ほとんどゼロだったんだよ?そんな奴と同居できる時点でセブンスは生活に困ってなかった。そういう事だな。
「だいたい、だいたい貴様が……」
「あんたも同じ事言うんだな。親子そろって……」
って何だおい、カスロ村長の口が開いてない?じゃあ誰がしゃべってんだ?そう言えばさっきからもう一人余計な奴が混ざってるような……。
「ようやく気付いたか……先ほどからずいぶんと干渉していたつもりだったがな……」
「誰だよ!出て来い!」
「ここだ」
声が終わるやコークの死体がいきなり消え、その代わりのように紺色の鎧が現れた。何だよおい、こいつもまた魔物だってのか……!
「大した腕前よ……ここまで闇に飲まれていた男たちのコークを倒すとはな……」
鎧から、これまで以上に太くてでかい声が出て来る。村中に聞こえるほどの大声で、この村の住民全員に聞かせようとしてるみたいに。もちろん間近にいる俺らにはより大きく聞こえ、セブンスは思わず耳をふさいでいた。
俺も体の震えが止まらなかった。
「我は魔王軍兵隊長、エノ将軍……!」
「どうやってここに来たんだよ!」
「あれほどまでに闇に染まったコークの出所を追っていたらここに付いたとはな……」
「さっきからコークの声に合わせてたのはお前か!」
「その通り、少し遊んでいた所だ……まあ、戦うにはこうするしかないがな」
魔王軍兵隊長を名乗るその鎧の魔物は、あのコークが出た時からずっと俺らの側にいてああだこうだつぶやいていたらしい。時々誰か変な事を言うと思ったらんな事かよ!
「さて時にユーイチとか言ったな、魔王様に従う気はないか」
「やだね」
あまりにもそっけない即答、コミュ障とかぼっちとか言われても仕方ねえけど、俺は単純にあんな凶暴なコークに魅かれるとか言うやつと仲良くしたくなかった。ぼっちだって友人や仲間を選ぶ権利ぐらいはあるはずだ、俺はもうデーンと仲良くしたくない。
確かにまだ、こうして出て来るぐらいならば笑い事でしかないけどな、それでも俺は断る。
「なあセブンス」
「私は魔王などに従いません!」
「そうか、実に残念だ……」
そこまで言うとエノ将軍は何もない空間から全部金属でできた槍を取り出し、俺らに向かって身構えた。
「魔王様に楯突くのであれば、死あるのみだ!」