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俺が得たのは

「どれだけの物をこの戦いで得たのでありましょうか」

「また少し、この世界に馴染んだって事だけよ」


 あれから五日。


 黒目団討伐の功績その他により俺とセブンスと大川は2ランク、オユキと赤井と市村は1ランク上昇した。これにより




 ウエダユーイチ Tランク→Rランク

 アカイハヤト Tランク→Sランク

 イチムラマサキ Tランク→Sランク

 オオカワヒロミ Wランク→Uランク

 セブンス Uランク→Sランク

 オユキ Uランク→Vランク




 となった。


 でも大川の言う通り、こんな風にランクが上がった事で何の意味があるんだろうか。冒険者ランクってのが人殺しの成果の証であり、指名手配に類するそれでしかない事をも俺はもう知っている。

 ランク上昇に当たりリョータイ市のギルドに行った際にはUランク冒険者のゴロックさんからまた大量に食事をおごってもらえたが、その時の食事はあまりおいしくなかった。


「オオカワ殿、貴殿はどうしても駄目なのか」

「わかってるんだけどね、感覚として……」

「イトウさんやゴロックさんのように下働き的な仕事ばかりやって上がったランクならばいくらでも誇れるんですけどね」

「米野崎の事か」

「うん……ああいう風にね」


 大川はずっと思い悩んでいる。あれほどまでに赤井に対し気持ちを吐き出したのに、まだ割り切れないらしい。

 米野崎は、少なくともこの世界を楽しんでいる。あの戦いでおよそ三十人の黒目団員を焼き殺し、その上で冒険者ランクもTランクになっている。


「イミセも、あれはあれで楽しんでいたのだろう。私にどうやって打ち勝つか、それだけで彼女は快楽に浸れていた。感心しない話だと言われればそれまでだが、あくまでも彼女はそうやって心を落ち着けていたのだ」

「例えが悪い気もするけどね」

「先刻承知ではある。だが他者の美食を落とすには他の百万の美食をもって挑むべしと言う一節も聖書にある。甚だ遺憾かもしれぬが、戦は立派な生業であり戦人を賤業とするような文化はこの世界にない」

「私たちの世界にも坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと言う言葉があるわ。だけど私はどうしても赤井や米野崎の好きな物に共感できない。行きつく先が三田川とか、あんな母親だったとしてもね……」

 

 蓼食う虫も好き好きでもないが、確かにあの時のセーラー服姿のイミセは本当に悔しそうだった。国家転覆レベルの事件を犯しちまったことによりお家の行く先はおそらく真っ暗、しかもそれを自分ひとりに押し付けられてもまったく文句を言えない事態になっている。一生かけてもトロベには追い付けそうにない。トロベへの恨みつらみをもって生きて来た人間にとっては、まるっきり生きる目標を失ってしまったと言う事に他ならない。


「でもさ、オオカワにそこまで言わせる母親ってさ、どんな人なのー」

「私たちの世界の無差別殺人犯の母親の事よ、自分が正しいと思った物以外全部を排除した結果、町で暴れ回って無辜の市民を何人も殺す人間になっちゃって」

「妄信者は不信者よりも悪なりとも言う言葉も聖書にある。ただこれは比較的新しく追加されたらしいがな」


 トロベは大川に優しい。同じ武人と言う扱いをし、なんとかして自分なりに元気づけようとしている。トロベはあくまでも人殺しに慣れて欲しい訳じゃなく、それもまた必要な手段であるって事を理解させたいだけなんだろう。

 と言うか妄信者こそがあんな禁断の魔術を作り、国家の分裂と縮小を招き、五十年前の事件と今回の事件を生み出した。


「Rランクともなれば冒険者としては一流の証だ。それこそその名前を買いに来る人間も出る」

「名前を買うって」

「その得物を見ればわかるだろう」



 そして今回の事件の報酬として、キミカ王家から俺は折れた剣の代わりに一本の長い刀をもらった、と言うか買った。




「この剣、いや刀はシンタロー殿が誂えてくれた物だ。トードー国さんの刀であり、なまなかな刃物では太刀打ちできぬ代物だ」


 その八村はまたひどく落ち込んでた。

 米野崎がガーメによって殺害または拉致監禁されたとすっかり思い込んでいたらしく、真相を聞かされてまた自分の不勉強と早とちりを恥じてしまったらしくここ二、三日米野崎にペコペコしていた。


「仲間を守るために必死だったのだろう、責めるほどの事はない」

「優しいのだなイチムラ殿は、でもシンタロー殿は少し気が弱かったというのは否めない」

「……ああ」

「それでどうだ、少し重くはないか」

「今までのに比べれば」


 攻めるは守るなりとか言うが、あえて積極的になってこそ身を守る事ができるって言うのか。とにかくいずれにせよ、この刀で俺はみんなを守らねばならない。それだけは確かなお話だ。


 長さのせいか形のせいか知らないが、同じ刃物でも勝手が全然違う。剣と同じように振っていたら体があらぬ方に持って行かれまくる。それでも切れ味そのものはけた違いであり、そういう意味ではうかつに扱えない。


「大川、俺は絶対に負けないから」

「本当に強いのね上田って、尊敬するわ」


 だがこれは、間違いなく俺の名前で手に入れた物だ。これで俺はみんなを救う。救わねばならない。

 大川も、赤井も、市村も、もちろんセブンスたちも。


 いや、遠藤や剣崎、三田川までも。







 俺達は新たな決意を込めてトードー国を目指す事とした。

作者「明後日からは第九章でござる」

朝倉四葩「それで明日は外伝でしょう」

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