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イミセの裏切り

「この好機、絶対に逃さない……!」


 完全に目が据わり、殺意をむき出しにしている。


 先ほどまでの嫌味ったらしい面相はどこにもない。



「お前!」

「トロベ……あんたはどうしてそんなに顔が変わらないのよ!どんなに苦しんでも!」

「そんな事をして何になる!」




 すさまじい速さで槍を突き出し、トロベの命を奪おうとしている。


「おいコラバカ敵が見えてないのか黒目団の!」

「ふざけんじゃないわよ、どこまで頭がおめでたいの!」

「何だと!まさかお前!」

「ハッハッハッハ……アーッハッハッハ!!さあ行きなさい!狙いはこの女よ!」


 イミセの声と共に、黒目団がひとかたまりになって行く。どうやら辺士名も俺らの間からいなくなったようだが、いつどこに消えたのかまでは追い切れなかった。


 焦げ臭さと血の臭いが立ち込めながらも、イミセは笑っている。



「ヘントナヨシオ……本当にありがとうね!」

「報酬は弾んでくれるんだろうな」

「約束反故にしてどうする訳!?この貴族の娘であるイミセが!」


 辺士名、と言うか黒目団と組んでたのかよ!キミカ王国の貴族様が、盗賊団と手を組んでたのかよ!


「てめえ、一体何のつもりだ!」

「しかしさ、本当に有効だったのか、あれ?」

「期待して待っててとだけ言っておくわよ!」

「くっ……!」


 その間にも、トロベに向けて槍が振り回され続ける。


 俺の心もそろそろ限界らしく、もう勝手に辺士名の声がした方に向かって足が進んでしまっている。



「上田……無様だな、魔法も使えねえくせに」

「お前は使えるのかよ!」

「使えるとも、って言うか教わったんだよ、この騎士様に!」


 一枚の羊皮紙が、一瞬だけ宙に浮く。


「それは呪文の書!」

「悠長に解説するんじゃないわよこのいばりん坊!」

「ぐううううう……!」


 トロベに向けてまた槍が付き出される。素人目から見ても明らかにトロベが劣勢で、何とかして助けに行きたいがヘイト・マジックがそれを許さない。唸った所で状況が好転するでもなく、トロベが追い詰められて行くのみ。


「お前らよ、この書があればな、誰でも魔法を使えるんだよ!」

「真面目に物を言え!」

「いいや大真面目だぜ!まあ正確にはよ、魔力の込められた物体から魔力を取り出す事ができるって仕掛けだけどな!しかもさ、彼女ったらそのテストまでさせてくれたんだぜ!」

「お前まさか!」


 まさかと思ったらそのまさかだったと言わんばかりに右手の親指と人差し指、ではなく中指と人差し指でVサインを作って見せて来た。

「トロベ……!十年来の私の恨みつらみ……この場で晴らしてあげるから!!今から私に謝りなさい!」

 ふざけんじゃねえ……

「不意打ちとは卑怯極まる!そんな事をして勝って嬉しいのか!」

 ふざけんじゃねえ……

「嬉しくなければする訳がないでしょうがこの石頭!冒険者のくせにお行儀のよろしいお貴族様気取りで人を見下して!もういい、全軍、この女を裸にしなさい!」



「辺士名ぁぁぁぁ!!」


 全ての感情が辺士名への憎悪に染まって行く。増幅されているのか、それとも俺が弱っているのかはわからない。


 だが、それでも辺士名だけは斬らなければならない!


 あいつを斬らない限り一歩も前に進めない。あいつを何とかしなければ!



「そんな奴はほっとけ!狙いはあのトロベだ!」

「おうとも!あんな澄ました女を、何よりあのガーメにペコペコしている女を好き放題できるかと思うとなあ!」

「全力でやってやろうじゃねえかよ!」


 辺士名にたどり着けない!奔流がごとき人並みに押され、目の前の敵を斬ってやろうにも攻撃が当たらない!

「邪魔だぁ!!」

 精いっぱいの大声と共に薙ぎ払いにかかるが、攻撃が当たる事はない。いや当たった所で手ごたえが弱く、ひるむ事すらしない。


「何をムキになってるんだよ!しょせんお前は俺とは物が違うんだよ、おとなしく俺の下に付け!」

「つまらねえギャグやめろ!」

「ギャグじゃねえよ本気だよ、ったくお前こそこの俺をどんだけなめてるんだぁ?」

「勝手に禁断の魔術を使って、国さえも揺るがすようなもんを使った時点でお前はもう国家的な犯罪者だよ!」



 見えない事はわかっていても、吠えるしかない。吠えないとますます心が支配されて行く。

「氷の壁!」

 オユキが氷の壁を張って黒目団の連中を止めようとするが、聞こえて来るのは衝突ではなく破砕の音ばかり。急ごしらえのせいだろう知らないがったく!

「じゃ私も炎の壁!」

 米野崎も必死に抗う。だがどれだけの意味があるのか、後ろを向いていた俺にはわからない!


 とにかく辺士名をやっつけなければ、殺さなければ!殺さなければ……!!




「トロベ、おとなしく負けを認めなさい!」

「なぜだ……!」

「凡人の頂点は天才の底辺に勝る、ましてや同格の存在の頂点と底辺が衝突すればどうなるかは見えているでしょ!」

「させない!」


 大川!何をやっている、早く辺士名を!


「雑草なんかで、雑草なんかで!」

「うわっ!」

「オオカワ殿!」

「まったく、どうしてなのよ、どうしてみんなバカばっかりなの!!」

「ユーイチさん!!」

 おいセブンス一体何のつもり……!

「はあああああ!!」




 赤い……弾……って言うか大きくて、濃い…………。




「あっ……」


 命中と共に、殺意が消えて行く。


 心が急に静まって行く。

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