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辺士名義雄のチート異能

「DAPUMP?」

「いいや、へで始まる名字を探したらこうなっただけ」

「誰かと思えば、上田じゃねえかよ!この陰キャ野郎!」

「辺士名義雄!」


 辺士名義雄。


 一年五組のクラスメイト。

 サッカー部所属。

 一年生にしてレギュラーになっているなかなかのフィジカルエリート。ついでにかなりのイケメン。




 そんな奴がこんな廃城の前でギザギザの短剣を持って、口を歪ませている。




「お前こそ何やってるんだよ」

「このキミカ王国をな、元に戻すんだよ」



 ああ、こんな口上も三度目だ。


 どうして揃いも揃ってこうなっちまうかなあ!


「キミカ王国は、って言うか貴族様だろ、元に戻りたいのは。お前関係ないだろ」

「黒目団はな、あのスケベ魔導士によって全部を奪われた連中なんだよ、本来ならそいつをぶっ殺して全てを返してもらいたいけど、悔しい事にそのガーメって奴はもういねえ!もういねえんだよ!」


 辺士名の演説と共に、さびた武器や安物の甲冑を身にまとった連中が次々と出て来る。中には色あせた礼服を着たような奴もいるが、本当魔導士なのか僧侶なのか、あるいはただの執事なのか。訳が分からん。


「我々、黒目団は!愚かなる者たちにより奪われた国を取り戻し、正しくキミカ王国を導く事が目的である!その力、全てはあの輩に奪われた秩序を守るために!」

「ガーメの残滓を粉砕せよ!」

「柔弱なる者は王家より下がれ!」

「正義は我らにあり!」



 派手な演説をぶち上げているが、だから何だよって気分にしかなって来ない。実際問題、第三者でしかない俺らに聞かせて何をしようってんだろう。


「おい米野崎」

「黒目団はね、私がこっち方面に来るといつも絡んで来てたんだよ。三人ほど消し炭にしたらおとなしくなったけどさー」

「なんだヘタレじゃねかよ。数は何人ぐらいいるんだ」

「それがわかんないんだよね、確か一〇〇人とかって」

「それぐらいならいっぺんに焼けそうなもんだけど」

「師匠が余りむやみに手を出すなってさ、あんまり可哀想だし」


 俺と米野崎の口から出て来るのはこんな言葉ばかりだ。

 痛くねえツボを押されて痛がれだなんて安っぽいバラエティー番組じゃあるめえし。


「真面目に聞けよ」

「そのご高説とやらを俺らに聞かせて何をしたいんだ?その答えは何だよ?

 ああ降伏して俺らの仲間になれとか言うなよ、もう聞き飽きたから」

「まだ何も言ってねえだろこの頭でっかち野郎!体育会系のくせに!」


 話が通じる気配がない。ただ武器を持って詰め寄って来るだけで、俺の質問に答えようともしない。


「上田……前はいてもいなくてもどうでもいいと思ってたけどな、いざこうなってみるとお前ってすげえムカつくんだよ」

「何がだ」

「さっきも言ったように陸上部のエース気取りのくせにいつもああだこうだって理屈っぽくてよ、何の面白みもなくて毎日つまんなそうにしててよ!」

「つまんなそうで何が悪い?」

「なんでモテねえんだよ!お前みたいなハイポテンシャルなのがモテずにあのデブオタがモテるだなんておかしくねえと思わねえのか!?」



 言うまでもないが、俺は辺士名とは親しくない。


 辺士名は遠藤や剣崎と一緒につるんでいるって言うか、運動部の位が上の連中とだけ話していて、同じサッカー部でも二軍の田口には冷たいと言うかパシリ扱い。


「俺は必死こいてサッカーやってんのにさ、お前はぬくぬくと走りやがって」

「陸上部が楽な訳ねえだろ!」

「いいやお前はいつも楽そうにしてた。当て付けのようにグラウンドを走り回って、そんで速美のようないい女にちやほやされていい気になってた」

「河野はただの同級生だろ」

「ざけんじゃねえよこの野郎!」


 そのスクールカースト上位者のはずの存在が言いたい事ばかり言いつつ斬りかかって来る。

 内側に切れ込みの付いた短剣、鋭いと言うよりも丈夫そうも輝きまくる短剣を、俺はぼっチート異能に頼るまでもなくかわす。


 二発、三発と振って来るが、正直遅い。



「お前さ、素人か?」



 これが答えだった。おそらくは同じだけの時間を過ごしているはずなのに、全然武器の練度が違う。

 武器なんてもんは小さければ小さいほど速度が重要だってのはトロベに聞くまでもなくわかっていたが、辺士名の動きは大振りの上に遅い。


 さっき俺の剣をへし折ったのは、受けるぐらいならばできるって程度の話なんだろう。実際俺もエクセルとの初めての戦いの時は剣を受けるので精一杯だったと言うか、受け止められる事は出来ていた。


「確かに素人だな。その得物もあるいは」

「ああそうだよ、俺が有意義に使ってやってるんだよ!」


 かつてこの地を治めていたお貴族様の、じゃねえのは間違いねえだろう。そんならもっとさび付いてるような年季が入っててしかるべきはずだ。

 そんなある意味黒目団らしい短剣をじっと眺め、その上で再び足を進めてやる。黒目団の連中は笑っているが知った事かい。


「ほいよ」

「ひっ」


 折れた剣を投げ付けてやると、簡単に甲高い声を出しやがった。


「おい、ツッコミ待ちか」

「辺士名、理由もないのにこんなことすると思うか?」

「理由?そうだな、金か?」

「否定はしねえよ」


 実際問題、黒目団を倒せば報酬は入るだろう。それと同時に呪いの事も知る事になるだろうし、さらにこの世界を知る事もできる。


 そのための踏み台になれとかは思わないにせよ、それでも俺は辺士名と対峙する事に大した迷いもなかった。



「やっぱり正解だったな」



 そして辺士名は、また笑った。


 俺より少しだけ背が高いせいでもないだろうが、ずいぶんと上から目線だ。




「何だよ正解って」

「俺はな、お前のようないい子ぶりっ子が嫌いだった。顔も成績もいいくせにいい子いい子して先生にもウケようとするだなんてさ。ああそれからあのデブキモオタとすかしたリア充野郎もいるようだったからな!本当にこんなうれしい事はねえぜ!」


 本当に楽しそうだ。考えてみりゃ俺と同じようにモテてない辺士名にしてみりゃ、赤井や市村のような人間はそれこそ目障り極まりなかっただろうからな。


 上を向きながら大笑いしてやがる。文字通り天に向かって唾するような調子で、まあずいぶんと幸せそうだ。







「飯がまずいだろ?」

「は?」

「あれ俺がやったんだよな、まあ正確には俺が手を下しただけなんだけど」


 こいつが魔術師にはとても見えない。じゃあ誰が、誰が教えたと言うのか。


 って言うかそんな魔法があるのか!

 あわててトロベの方を向くが、トロベは首を横に振っただけだ。


「王国の田舎騎士様にはわからねえよなあ、この魔術は?」

「何が田舎騎士ですか!」

「おいおい、そんなにいきり立つなっつーの、本当の事を言われたからってさ。ああそこの色白姉ちゃんもさ、水晶玉でも見れば気も落ち着くって!」

「まさか!」


 まさかとトロベが叫ぶと同時に俺の腹の虫が鳴き出し、そして礼服を着た奴がクスクス笑いながら懐から水晶玉を出して来た。


 両手のひらに乗っかる程度の大きさで、やけに透き通っているように見えて傷があるせいかどこか光が屈折している。男の胸元が見えない。




「なんだこの傷は」

「傷じゃねえよ、これこそこの水晶の過去を語る証だよ!」

「やはりそれこそ!」


「そうだよ、この水晶には禁断の魔術が込められてたんだよ!ハッハッハッハ……アッハッハッハ……!!」







 禁断の魔術って、そんなんだったのかよ……


 まあ、正直かなり深刻なんだけど……


「ってどうしてそんな大事なもんを押さえなかったんだ!」

「バカでぇ!」


 俺が禁断の魔術が込められていたって言う水晶が廃城と化した城に眠っていたとでもいうのかって当然の疑問をわめくと、辺士名はまた笑った。


「あのな、お前こんな大事なもんを放置する奴はいねえよ!この受験秀才!」


 言いたい事ばっかり言いながら水晶玉を後ろの男に渡し、そして辺士名は消えた。




 はっきりと視界から消えて、後ろの連中が素通しになった。

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