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どこでもイヤミ

「せっかちは女に嫌われますわよ」

「私は女じゃないんですか!」


 さて、日が西に向かいつつある時分になって城を出て西の姫の墓へと向かう事となった俺達と、イミセ。


「こんな子が一緒だなんてさぞ嬉しいですよねウエダさん」

 ったく、なんでこんなイヤミ女と一緒じゃなきゃいけねえんだよ、他に誰かいなかったのか!


「モテるって事ならさ、赤井には三人も女友達がいてさ、市村はその赤井以上だぞ」

「へえ、その女友達の顔をぜひともご見分したい物ですわねトロベさん」

「これから見る事になるかもしれぬがな、手を出そうとするな」

「もう、いちいちお堅いんですから。そんなんだとこのセブンスさんってお人に取られちゃいますよ、ああこちらのオオカワさんって方やオユキって方にも」


 その上、なぜか赤井と市村を残して、俺と、セブンスと、大川と、トロベと、オユキと、イヤミ女とで。



「王宮はまだ俺達を信用しきれてないんですね」

「いえいえ、今度の偽山賊騒ぎで我が騎士団もかなり打撃を受けてしまいましてね、なかなか人手が足らないのですよ。それに連絡役は必要でしょう?それも清く正しいパラディンと僧侶ならば尚更かと」


 ずいぶんと口数が多い。連絡役とか言うけど、詰まる所人質じゃないか。王様が俺達をまだ信用しきれないと言うのはわからないではないが、それに対してたかが一騎士が何様のつもりなのだろうか。


「黒目団の本拠地はお姫様のお墓の北西だってうかがっておりますけど、それまでどれだけかかるんですか」

「強行軍すれば日が暮れた頃には着きます。そんな疲れ果てた状態で戦うのはよほどの勇気の持ち主しかおりませんけど」


 本当にむかつく物言いだ。確かにおっしゃる通り、結構大きな国一つ分を一日で強行軍で行こうなど無理だってのは間違いない。


「ではどの辺りで留まれって言うんですか」

「裏街道の側です。あの辺りの地は今も繁栄しております、王家の命令を無視するせいでね」

「裏街道?」

「平たく言えばトードー国から亡命しようとする人間たちの隠れ家です。ったくどうしてこの国の事が気に入らないんでしょうかね、まあこの国にやって来る殊勝な人もいますけれど。

 一応我が家は、その亡命者たちの討伐を担っております。まあ手かせ足かせ付きまくりですけど」


 キミカ王国とトードー国の間の歴史はもうだいたいわかっている。お互いに良い意味でどうでもいい関係のはずであり、亡命とか言うけど実際はただの移民なんじゃないだろうか。キミカ王国とトードー国の人口格差うんぬんとかはわからないけど、去る者は追わず来る者は拒まずでやってそうな以上わざわざ同行する必要があるとは思えない。ましてや討伐だなんて、大袈裟ってレベルじゃない。



「ナベマサさんは言ってましたよ、私の領国はこの国の東北の入り口だと。それで王家の領国は南東の大半で、西側は王家に付属する貴族の領地が多いと」


 キミカ王国の領国は横長なL字型であり、そのL字の空白を埋めるようにリョータイ市がある。合わせれば一つの長方形だ。

 王都はL字型の横棒の右端にあり、その少し上にナベマサさんの領国があり、横棒の左側や縦棒の方は王家に服属する諸侯の領国となっているそうだ。

(戦争って本当に面倒くせえよな……)

 そんな事になったのは、かつてのトードー国との戦争の際に置かれた砦である現王城を守り切ったと言う伝説があり、それゆえにいつ何時起こるかわからないトードー国との戦争に備える心構えがあるぞと両国民に見せつけるためらしい。ったく、普通はL字型の角に置くもんだろうがよ、首都ってのは……


「とりあえず、ウエダさんはずいぶんと可愛がられておいでなのですね」

「トロベのように口を引き締めていてくれるともう少し楽になるんですけどね。ああトロベ、お前だってこの国の人間だろ。先導頼むわ」

「私はずっとこの国暮らしで、冒険者としてこの国を出ていた人間よりは詳しいつもりですけれど」


 可愛がられてるって、一体誰にだって言うんだか。それの何が悪いって言うんだか。

 さっきから口ばっかり達者で行動が緩慢で、その上トロベの名前を出すと分かりやすく嫌そうな声を出しやがる。


「こっちはもう結構な期間トロベと一緒に過ごして来たんです。ちょっと前に顔を合わせたばっかの人よりずっと信用できます」

「聖者の善行と盗賊の善行に、何の違いがあると言うのか。ただ善行があるのみである」

「やった存在より行いによって判定せよって事ですね、赤井もそう言ってましたよ」

 

 その聖書の一節ならば、俺だって知っている。あのサンタンセンの五日間に赤井から何度か講義を受け、この世界の聖書について教えてくれた。


 神の啓示として記されたそれは俺らの世界でも通じそうな話がずらりと並んでおり、それこそ聖書として通じそうなほどだった。


「九割まで満たされた器に一滴の水を垂らすのと、空っぽの器に一滴の水を垂らすのは同じである。ただ九割の中の一滴と、空白の中の一滴と言うに過ぎない」

「意味わからないんだけどー」

「そうですか、魔物には聖書を読む習慣がないと。よろしければ一冊差し上げましょうか?」


 イミセはどこまでも意地悪く、オユキにまで詰め寄る。


「あーあ……」

「そう言えばあなたは聖書がお嫌いだと言うお話を聞きましたけど」

「どこで!」

「いつも聖書を大事になさっているあの黒髪の僧侶様と折り合いがよろしくないと」


 そして大川がでかいため息を吐くとこれだ。


 俺達がいい加減腹を立てて早足になろうとすると、同じペースになってついて来る。

 トロベを先頭に立たせようとすると、あからさまに蛇行して道を塞ぐ。


「トロベに不満があるならはっきり言って下さい!」

「何もありませんけど?どうしてそう思われたのです?」

「だから言ってるでしょ、道案内ならばトロベでも良いと」

「私は王様の命を受けたのです。まさか王様に対して叛心でもあると?」


 口で指摘するとすぐこれだ。ったく、実質五人きりだってのにここにいない王様の権威なんぞ振りかざして、みっともねえったらありゃしない。


「……………………」

「あらセブンスさん、何かご不満でも」

「不満しかありませんけど」

「いいですね、自分と恋人以外に背負う責任のない人は」

「要するにトロベの事が嫌いなんでしょ、そう言えばいいだけなのに」



 そんでセブンスにまでケンカを売って来たもんだから、ついカッとなってはっきりとぶつけてやった。


 九割まで満たされた器に一滴の水を垂らすのと、空っぽの器に一滴の水を垂らすのは同じ――――つまり結局はギャップによって騙されているだけであり、結局はトロベより自分の方が上だと言ってるに過ぎねえって言いたいだけって事じゃねえか。


「信仰を崩すぐらいならば山を崩せ。百年の信仰を崩すならば少なくとも百年をかけよ、そう女神様も申し上げておられます。言っておくが決して女神様は他の信仰を犯す事を望みませぬ、ただ自らの信仰を犯す者には容赦をするな……と」


 で、その返答がこれかい。詰まる所てめえは狂信者だってわけかよ、ああ腹立たしい!

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