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辺士名義雄の異世界転移

ここで少し外伝です。

「実にきれいなシロモノですね!」

「だろ?って言うかさ、ちょっと前まであんなにグロかったのにさ、ほんのちょっと力を入れたらこんなになるんだからな!」


 ああ、うまい、うまい。


 どうしてこんなにうまいんだろうか!


「この宝玉を売り飛ばせば金貨一〇〇〇枚はくだらないでしょうね!

「本当だな、だからお前ら、大事に扱うんだぞ!」


 ほんの少し前まで、こんな風に呼びかけても誰も応じてくれなかった。俺はこんなに強いはずなのに、数多の戦果を挙げて来たのに。

(甘い甘いとか言いながら、なんなんだあの言い草は。この国は俺が手に入れて、あの俺を認めなかった連中をぶった切ってやる)


 俺があの甘ったるい連中から逃れてもう二〇日あまり、案の定まともな追っ手なんか来やしない。


「にしてもここがあんたの昔の城だったとはな」

「昔はもっと繁栄していたんですがねえ!」


 雑草が生えまくっている石造りの建物。全盛期は使用人も含めりゃ三ケタの人間が暮らしてたっつー中に、黒目団の仲間たちは集って暮らしている。


 しかしそれこそ自足自給、農民のような暮らしをしてる奴もいる。って言うかまともな住民もほとんど逃げちまって、残ってるのは他に行き場のないやつと俺らの力におびえてるだけのやつら。そういう連中は万が一の時には絶対に味方しない。かと言って取り込もうにもな……。


「お方様にはたっぷりいいもんを食わせねえとなあ。頼むぜ本当」

「わかってますって!」




 で、結局侯爵様の孫だっていうお嬢さんを担ぎ出すしかなくなっちまった。


 ご上品なドレスを着せて、そのお部屋だけでも必死こいて整えてその上にいっぱい飯を食わせて……

(ったく、こんなのを立てなきゃ人も集まらねえだなんて、面倒くさい事この上ねえや!)


 まあこの地の本来の「ご当主」様がいなくなっちまってからはや数ヶ月、それこそこんな少女しか残ってねえってのは末期状態って何よりの証だよな。


 いずれはこの傀儡王女様も有名無実化して、この国を手に入れる。



 ————この俺、辺士名義雄は今一番満ち足りた生活をしていた。




 ※※※※※※※※※




 高校一年生にして部員三十人越えのサッカー部で一軍入りしたこの俺だったが、はっきり言って全然誇れなかった。


「おい一年レギュラー、ボール片付けとけよ」

「でも」

「でもも何もあるかよ、同じクラスのハーフ君はちゃんとやってるのにさ、レギュラーだからって威張るんじゃねえよ!」


 ひがみ根性に満ち溢れたこの言い草。ムーシの事を言ってるんだろうけど、あいつは二軍にすらなれなかったザコじゃねえか。

 いつも暗くってじっとしてるばかりで、ハーフとか言うけど英語もフランス語もぜんぜんダメ。顔と髪の毛が普通だったら文字通りのモブキャラだ。


(ああムカつく!)


 この学校のサッカー部は学年によりところてん式じゃねえ。実力絶対主義で一年だろうが何だろうがすぐレギュラーになれる。

 その上施設だって砂ぼこりが舞うような野球場と違って芝生付きだ。かなりサッカーに力を入れていて、実際ここからプロのJリーガーを輩出した事もあるってぐらいの学校だった。


 そのために俺は必死こいて入って来て一年でレギュラーになったのに、なんでこんな能無しで年上だけって奴らにこき使われなきゃならねえんだ。


「レギュラーだろうとなんだろうとな、一年は一年なんだよ!」

「それ誰が言ったんだよ」

「言ったんだよ、じゃねえだろ、言ったんですだろ!」


 少しでも口答えするとすぐこれだ。手こそ出ねえがつばは飛び、そのたびに部室が汚れる。こうなると実力主義ってのも顧問の先生だけが吠えてるお題目にしか聞こえなくなってくる。


「おいちゃんと辺士名にパスを出せ!」

「練習しまーす」

 明らかに絶好のパスが来てるのにそんな棒読みと共にわざとらしくあり得ない方角に蹴りやがったり、ドリブルしていると明らかにファールどころかイエローカードもんのチャージが来たりするし。こんなんでどう試合に勝てっつーんだよ!


 ああ、部活も気が重けりゃ、授業も気が重い。ついでに、家に帰ってからも気が重い。


 はっきり言って、俺の学業成績は良くない。だいたい、俺の偏差値は50ぐらいしかなかった。

 だけど今通ってる学校のそれは、確か54。身の丈を越えてる。


 だってのに親父もおふくろもここはサッカーの名門だから絶対に入れってうるさくってうるさくって、冗談抜きで転校さしてくれって思ってるほどだ。



 で、その上俺はモテない。同じクラスに市村って自覚なきモテ男やデブオタクのくせに三股できそうな赤井ってのがいるのもあるが、名門サッカー部のレギュラーなんてモテてしかるべきだろ?だってのに俺に声をかける女はほとんどいない。

「もっと頑張ってればおのずとついて来るだろ」

 とか父ちゃんも母ちゃんも抜かすけどよ、正直こんな環境で頑張れるかっつーの。

 その上さっきも言ったように入学する時点で学問の程度はギリギリだったのに、その上に追っつくためにも必死こいて勉強しなきゃならねえと来た。


 ったく昔っからサッカーサッカー、嫌いじゃないけどもういい加減飽き飽きだ。

(ったく、あん時虐待されてるって言うべきだったかな……)

 その上にサッカーしかして来なかったせいで小学校の時にテレビゲームのキャラを知らなくて大恥をかいた事もある。わざとじゃないかってぐらい遠ざけられ続けて来たせいでそんなアホな奴になっちまったんだぞって言っとけば、あるいはもう少しましな高校生活を送れてたかもしれねえ。




 ああ、人様がうらやましい。どっかへ消えちまいたい。



 そんな事を考えてた俺は、果たしてその通り透明になれるようになった。


 この力のおかげでうまく行くと思ったのによ、最初に来たギルドってとこの連中は俺の戦果を素直に認めねえ、まるであのサッカー部の連中のようにバカばっかりだった。


 だから俺はこの身を投げ出し、この国を奪ってやる事にしたわけだ、俺の力を絶対に認めない……な。

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