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黒目団

「呪いの宝玉を持ち去った連中には心当たりがある。黒目団じゃ」

「黒目団!?」


 ————またかよ。その四文字を俺は必死に飲み込んだ。


(魔物以上に人間のが性質悪いじゃねえかよ、一体何組目だ!?)


 シンミ王国とペルエ市の街道を襲いナナナカジノ襲撃事件を起こした山賊、エスタの町のマフィア抗争、ああついこの前のカイコズとリョータイ市の間の山賊はモンスターによる偽装だったけどさ……って言うかクチカケ村だってサンタンセンだって首謀者は人間じゃねえかよ…………。


「何か申し述べたき事でもあるのか」

「どう聞いても山賊の名前なんですが」

「山賊か、もはや山賊かもしれんな」


 もはや山賊かもしれない――――じゃあ山賊じゃなかったって言うのか。


「魔物だって言うんですか」

「おいおい!」

「ウエダ殿はつい先ごろ魔物がその姿を変えていた山賊を討伐したばかりでして」

「ああ魔物か、そうかそういう事だな」

「何を言っておる、何を遠慮する事がある」


 俺が適当な事を言うと、トロベも王様も騎士団長代理様も声を上げ出した。


 まったく○○団だなんてそれこそ、珍走団のような不良集団か何かの名前じゃないか。


「黒目団とは、かつてこの国を治めていた者たちじゃ」


 ――――と思ったらこれかよ。


 ったく、黒目団って単語と、かつての統治者って言葉が全然結びつかない。


「ガーメの事は知っておろうな」

「ええ」


 俺が呆れ顔になると、王様は軽く手を振って俺に向けて手刀を浴びせるようなポーズを取った。


「ガーメとイーサ姫のいた頃、多くの王侯貴族が宮殿を追われた。彼らは領国に戻ったがそこでも禁断の魔術に苦しみ、大半の者が別の業病にかかってこの世を去り、また例え禁断の魔術が溶けたとしてもその反動のように精神を病んで暴政を行ったりお家騒動を起こしたりして、家を潰してしまった」


 禁断の魔術ってのは、どうやらこの城から出て行けば済むもんじゃなかったらしい。それぞれの領国に戻ってなお取り付き続け、体も心もむしばんだらしい。

 行く先が自分たちだったらとなると想像するだに恐ろしい話であり、あるいは国中がその魔法によって支配されていたかもしれない。


「でもイーサ姫はガーメによって焼き殺されたと聞きますけど」

「そうだな。その刑により我が王家はガーメを処刑し、それにより呪いは消失したはずだった。

 いや、表向きにはそういう事にしていた」

「表向きには?」

「そうなのだ、実はイーサ姫が死ぬ数刻前、ガーメの私室からイーサ姫がまがまがしい色に染まった宝玉を持ち出しているのを見た人間がいたのだ」



 まがまがしい色に染まった宝玉————それこそ、宝玉が禁断の魔術の媒介にされたって事の何よりの証じゃないだろうか。


「宝玉を通じて禁断の魔術を振りまいてたって事なんですか?」

「おいこら!」

「そなた何をいきり立っておる、この一大事に気が荒くなるのはわかるが」

「いやその、この者たちが不正を働かぬかと」


 騎士団長代理さんはやたらと俺達をにらみつける。セブンスは相変わらず頬を膨らませ、赤井たちもどういう意味でありますかと言いたげに眉を吊り上げていた。

 俺はと言うとそりゃそうだよな冒険者なんて盗賊の異称だよなってわかってるから何もしなかった。


「そこの者、何か言うことはないのか」

「いえ、あくまでも俺は第三者ですから。でもトロベと、ナベマサさんの事だけでも尊重してもらいたいとは思いますけど」

「ナベマサ、か……って言うかそんな事も知らないのか」

「はい」

「宝玉を通じて術を使うは今に始まった事でもなかろう、なあトロベ」

「ええ、相当な技量か魔力が必要ですが」


 素直に答えれば答えるだけ、顔が緩んだり渋くなったりする。世間知らずそのものの俺の言葉が、その場にいる他者にどんな気持ちを持たせたかはわからない。

 ただのアホなのか、それともアホのふりなのか、そしてこの存在をどう扱うべきか。いろんなことを王様や騎士団長代理さんは考えているはずだ。



「ああいかん話が飛んでしまったが、その侍女は間違いなくイーサ姫がガーメの私室から宝玉を持ち出したと言う」

「やはりうかつには言えなかったんですか」

「まあそうだな。あの頃の王宮でガーメに抗える者はもういなかったからな。本人は……いやこれは言っても詮無い事か」

「それで呪いが消えた後に」

「ああそうだ、ガーメの死んだその日から禁断の魔術による呪詛がなくなり、その際になってようやく報告して来たのだ。その上でガーメの部屋に立ち入って回収し、そして二度と過ちを起こさぬようにと、このキミカ王国の宮城に保管しておったのだが……ああ先も述べたように、魔力がいかなる物か解き明かす事も消し去る事もできなんだ……その上に資料も散逸してしもうてな」


 資料についてはガーメが焼いたんだろうか。あるいはイーサ姫が処分したのか。

 さもなくばまた別の存在がやったのかもしれないが、禁断の魔術に関する資料は王家の手元にすらないらしい。


「イーサ姫があるいは」

「かもしれんがな、ガーメはイーサ姫を殺してしまった。そうなると身分差を差し置いてもな」

「…………そうですね」

「いずれにせよ、その禁断の魔術の込められた宝玉は黒目団に持ち去られたと思われる。是非とも取り戻してもらいたい」

「ありがとうございます」

「国王様、それこそ!」

「確かにその方の言う通り冒険者に頼むのは面白くないかもしれぬ。だが黒目団はいくあガーメの責めがあったとは言え暴政を働いた者の末裔だ。山賊行為に当たる以上罪を悔いているとも思えぬ以上な」

「わかりました……」



 まったく、本当に油断も隙もない。ナベマサさんもさることながら、この王様も案外と口がきつい。

 一見持ち上げているように見えて、めちゃくちゃに落としている。

(お前らなんかその程度の勝ちしかないって事かよ……)

 かつての為政者だろうが何だろうが今現在はただの山賊であり、そんな連中などどこの馬の骨とも知れない冒険者たちにやらせておけばいい。

 もちろん禁断の魔術は問題だが、それさえなければと言う程度の存在としか見なしていないって事なのだろう。



「では早速出発を、それで黒目団の」

「気が逸っておるな、少し休んでからでも」

「いえ、行かせてください!一刻も早くなんとかしたいんです!」


 で、セブンスは相変わらずだ。王様にさえも真っ向から挑みかかり、自分の望む結末を引き出さんとする。


「わかりました王様、ですが」

「待てません!」

「何、トロベだけでは道中不安もあるだろう」

「確かに、私はあまりこの国の山野には詳しくなく、黒目団のアジトがどこにあるのかも……」

「一応黒目団のアジトの当ては付いておる、姫の墓の北西だ」

「わかりました。では早速!」


 すっかりやる気満々になっているセブンスに、王様だけでなく俺らも騎士団長代理様も苦笑いするしかない。本当に、セブンスみたいな人間が彼女だったら何も考えずに生きられていただろうな……。

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