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禁断の魔術の宝玉

「まだ生きている可能性があるのだよ」


 禁断の魔術がまだ生きている。なんとも物騒極まる話だ。


「ソースは」

「これだよ」




「かつて王家を揺るがし、世界中を揺るがす危険性を秘めた禁断の魔術。使い手の死亡により文字通り滅んだはずのその禁断の魔術が、一個の宝玉の中に封じ込められている。

 その宝玉を破壊するのはあまりにも危険である事はすでにわかっている。魔術を下手すれば全世界に伝染させかねないからだ。

 さような訳で手を付けずにいたのだが、一向に魔力が減少して行く傾向は見られない。幸い増大して行く事もないようだが、あるいはこの宝玉から無理矢理にでも魔力をはじき出して損害を受けるよりないのかもしれない」




「王宮の中で穏健派の学者から入手した物でね」

「信用できるのですか」

「今や学者さえも二派閥に別れているご時世でね、この禁断の宝玉もまた両派の軍事兵器になりかねないんだよ」

「やですね本当」


 お宝を巡って殺し合いをするだなんて、それこそ山賊の内輪揉めと変わらないじゃないか。しかもそのお宝が単純な金銀財宝じゃなくこの世を不幸にしかねない呪いだと来たもんだ、ったく迷惑って次元じゃない。


「もちろん宝玉はちゃんとしまわれているのですよね」

「無論だと言いたいが、私もどこにあるのか理解していない。下手に使えばそれこそ国家転覆も可能な代物だからな、全力を尽くして情報を集めている」

「国王様が何とかすればよいと思いますけど」

「国王様は実に心優しく寛容であるが、その分だけ権力は弱い。禁断の宝玉の事を持ち出してもおそらく応えてくれる貴族は少ないだろう、って言うか文字通り内戦になるかもしれない」

「おいおいおいおい!」


 そんで宝石の所在はわからず、国王様すら動くに動けないと来ている。

 何だこの国、平和そうに見えて八方ふさがりムードじゃねえか!



「そんな国に最近やって来たのが、キミたちだ」

「なるほど、俺、いや僕たちに期待していると」

「それもあるけどね。ひとりの黒髪の少女だよ」

「黒髪の少女と言いますと」

「ヨネノザキって名乗ってた、炎魔導士だよ」



 ヨネノザキこと、米野崎克美。彼女は赤井の彼女のひとりだ。


 言うまでもなくオタクであり、いわゆる異世界転生・転移系のジャンルを好む少女だった。

 三田川からは「現世に希望のない女」とか言われてたけど、その「現世に希望のない女」にケンカを売るためにライトノベルを何冊と買って読んでいた三田川も正直どっこいどっこいだ。


「ヨネノザキがどういう存在であったか教えていただきたいのでありますが」

「彼女がここに来たのは半月前だったよ。リョータイ市の宿にいた冒険者だったけど、あのガーメ討伐の依頼を見て来たとか言ってさ、あの優しいと評判のゴロックが必死に止めようとしてさ」

「そりゃ止めるでしょ」

「それでその時町に来ていた騎士がな、自分が腕前を見てやるとか言って決闘を申し込んだんだよ」

「まさかと思うけど手袋でも投げつけたとか」

「何で知ってるんだい」


 全く適当に言っただけなのに首を縦に振られた。まったく実に古めかしい決闘の申し込み方であり、と言うかなぜ庶民様のはずの米野崎にそこまで喰ってかかろうとしたのだろうか。


「あるいはお前にそんな作法など分からないだろうと言ってやりたかったのかもしれないけどさ、けどさ……」

「何がおかしいのです?」

「そりゃさ、立ち会って五秒で剣に火を点けられて持てなくなってしまってはな。しかも彼はかなりの腕利きでな、冒険者であればJランクはくだらないとか自他共に認めていた。ああちなみにヨネノザキはWランクだよ」

「フフッ」



 なるほど、あらゆる意味でまったくひどいお話だ。


 まず米野崎はこの手の世界に慣れきっているためにそういう貴族的な作法もわかっている。その時点でお貴族様のマウント取りは成立しない。

 その上にUランクのゴロックさんが幅を利かせる中でJランク相当と言われ、その結果がWランクの前に一蹴とあってはセブンスが笑うのもごもっともだ。


「君も案外人の悪そうな顔をしているね」

「いえいえ。それで貴族の皆様は」

「相変わらずだよ。貴族の態度ってのは。

 ああそう言えばこの前、うちの弟のイツミがえらく迷惑をかけたみたいだけど、私を責めるかい?」

「まさか」


 イツミについての印象は、よくも悪くも勘違い男でしかない。赤井やオユキはシスコンだの暴走だの好き勝手言っていたが、実際問題そこまで言うほどでもない。第六子だろうが第八子だろうが妹は妹であり、それを守ろうとしたのは何も間違っていない。

 今はどこにいるのかわからないが、別段どうとも思わない。


「ちょうど彼女が城に入る間際からさ、盗賊団が現れたんだよ」

「ああ魔物が偽装していた」

「違う、盗賊団だ。彼らはこの国の西の端にある山村を住みかとし、たまにリョータイ市そばまで出て来ては盗賊行為を働く」



 討伐すればいいのにとは言えない。そんなリョータイ市にまで迷惑をかけるような奴を、本来であれば放っておくわけもない。権力ってのにも、限界があるんだろう。


「その盗賊団だけどね、黒目団と名乗っている」

「黒目団?」

「首領も含めかなりの者が黒目黒髪だ。中でも首領は非常に逃げ足が速くてな、何度やってもいつのまにか逃げ切られてしまう。

 信じがたい話だけどね、盗賊の一人が宝物を宙に浮かせながら持ち去ったと言う話まである」


 それもまたチート異能かもしんない。でも、もうちょい他の使い方はなかったのかと言いたくもなる。

 大事な大事なよそ様の宝物を盗んで何をする気だよ、ったく誰だか知らないけど腹が立つ!


「しかしそれまでならば首領はともかく何人は捕まりそうですけど」

「そのはずなのだがな、どうも彼らの所在はつかめんのだ。いくら追いかけてもいつのまにかいなくなってしまう事が多い」



 まったく、どうして盗賊ってなくならないんだろう。あっちこっちに現れて、庶民様の門を奪って行きやがる。


「その盗賊団の首領と米野崎が」

「ああその通りだ、その理屈で貴族たちは彼女を認めなかった。まったく、そんなもんで優劣なんぞ決まる訳はないのにね」


 優秀なお貴族様がいれば、ダメなお貴族様もいる。お姫様とかを棚上げしたとしても、やっぱりそういう連中には何かしてやりたい。



「それでだけどね、明日か明後日にでも王様と会う気はないかな」

「へ?」

「さっきも言ったように王様は実に寛容なお方でね」

「あまりにも簡単すぎるであります!」

「国王様に会えるかどうかはともかく、四男のラン王子様には会えると思うよ。あのお方は散逸しがちな書をまとめ、編集してまとめる事に大変な意欲と才能を持っておいででね。ガーメについて今調べてるらしいんだよ」

「そうなんですか」




 ったく、俺達はどこまで大きくなる、って言うか肥大してくんだろう。


 今度は国王様に接見だって、まったくこんな高校生どこにもいねえだろうなマジで。




「私も……ですか?」

「まあそうなるだろうね、うまく行けばだけど」


 困惑するトロベをよそにナベマサさんは用件は終わりましたのでと言わんばかりに立ちあがり、そしてメイドさんを呼び付けた。



「父上から言われているからな、本日はこちらでお休みください」

「そんな!」

「そんなも何も、私が決めたんだから。トロベ、お前も久しぶりにここで寝ろ」

「………………」


 思ったよりずっと奔放で、かなり人格者で、それでいてさらにしたたか。

 そんな次代投手様のお導きにより、俺らはかなり豪華な寝室に通された。



「何これすごいふかふか!」

「ふかふかすぎる気もするがな」

「鎧脱ぎましょうよ」

「あわてて脱ぐとよろよろ行っちゃうよ」


 俺達と別の部屋に入った女性陣が仲良く笑う中、俺達は淡々と明日の事を考えていた。


 米野崎の実力の程度、ガーメの噂の真偽、そして盗賊団。

「考えたくないけど」

「盗賊団の首領は……」


 また、クラスメイトなのかもしれない。四度、クラスメイトと戦わなければいけないだなんて、好き嫌い以前にまったく驚くしかない。


「その時は絶対に捕らえて見せるさ」

「でもそれでは」

「だから赤井、市村、助命嘆願に付き合ってくれよ」


 殺したくはない、だが過去三回はすべて逃げられている。今度こそ、捕まえたい。


 二人は俺の言葉に付き合うことを約束しながら、ゆっくりと体の力を抜いた。










 ————————そして俺らは誰一人気付かなかった。この邸宅をずっと見張っていた人間がいた事を。

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