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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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魔導士ガーメ

「ヨネノザキってのもお前さんの仲間かい」

「そうです」

「ったく、情報が入らねえのは実に厄介だからな」

「知ってたら尚更暴走したと思いますけどね」


 スマホを指で軽くなぞるだけで世界中の情報をつかめるような世界じゃない。それこそ情報はお宝そのものであり、それを求めて様々な人間が駆けずり回っている。

 まあそれは俺たちの世界でも変わらないけど、変わってるのはその情報を得られるのが基本特権階級かそれに近い身分のお方、さもなくばそれを専門に集める人間だけって事だ。


 もちろん冒険者にも情報は欠かせないが、それが知っていい情報か否かでだいぶ違って来る。



「仲間をかばいたい気持ちはわかりますけどねー」

「タト、口を慎め」

「はい……」



 街道の安全が確保されたって事でカイコズの宿も一挙に人口密度が低下し、多くの冒険者たちは報酬を受け取ってサンタンセンやリョータイ市へと向かう。

 中にはとどまって街道整備したり負傷により赤井たちから治療を受けたりしている冒険者もいたけど、それでもすし詰め状態からは脱却されている。



 今ここには俺たちとハチムラさんとタトさん、それと八村慎太郎、あとは酒をあおっている一人の男性しかいない。


 セブンスはまだ、テーブルにもたれかかって寝ている。セブンスの方を懺悔するかのように見つめる八村慎太郎の視線が正直つらい。


「でも八村、お前なぜ隠したんだ。俺らは一応仲間のはずだぞ」

「俺は知っているんだよ、その魔導士の実力って奴を」

「魔導士?」


「ああもしかして、ガーメの事じゃないかねぇ」



 ガーメとか言う名前を吐き出しながら、酒をあおっていた男性ことアルイさんが寄って来た。


 俺らが首をかしげる中、トロベの目が吊り上がっている。



「おいトロベ」

「ガーメだと!ガーメと言えば!」

「ガーメと言えば何だよ」

「ガーメって言えば、およそ五〇年前にキミカ王国の国王の一族を焼き殺した男だよ」


 そしてトロベの口から答えが出る前に、ハチムラさんが答えをぶちまけてくれた。


 国王の一族と言えば、それこそ国の中核じゃないか。


 ましてやキミカ王国と言うトロベの故郷、今でもきちんとある国の。


「五十年前と言いますと」

「今の国王の先々代の一族だ。ああここからは私に任せてもらえないかお二方」


 トロベがアルイさんとハチムラさんの話を引き取るように右手を上げる。



「ガーメは先々代様の妹と良き仲であった魔導士でな、そのまま行けば宮廷魔術師として栄華を極める予定だった」

「宮廷魔術師ってそんなにえらいの?」

「ああ、偉い存在だ。王家の護衛は無論、王家の人間に魔法を教える役目もある。魔法は刀槍と並ぶ護身具であり、同時に兵器でもある」

「それこそ相当な理性と忠義が必要だと思われるでありますが」

「そうだ。だが同時に能力もなければならない。だからこそ王家は必死になって優秀な人材を求めている」


 シンミ王国に一時世話になっていたせいか、赤井はナチュラルに話に入って来る。


 確かに強大な魔術師ってのは強大な軍事兵器と変わらない。その軍事兵器をそばに置く訳だから、いくら対策を取っていたとしても王家への忠義心がなければまずいし、理性がなければあまりにも度を越えた力を与えてしまう事にもなる。かと言って単純に弱いのも問題だ。


「ガーメは元々譜代の家臣の一族だった。だが側室の子の四男で元から出世の見込みは薄く、兄たちの部下となるしかなかった。だがある時、彼は禁断の秘法を見つけてしまった」

「禁断の秘法?」

「それによりガーメはひとりの姫をたぶらかし、その寵愛を得るようになった。それからガーメはその姫の後押しを受け、どんどん魔力と地位を高めた」

「禁断の秘法って、誘惑魔法かなんか?」

「それは知らぬ。ただトードー国では非常に恐れられていると言うらしいが、それ以上の事は誰もわからぬ」


 禁断の秘法により、お姫様と近づいた。そのお姫様のバックアップを得て四男坊と言う不遇だろう立場から成り上がって行く。確かに、生まれた時からだいたいどうなるのかがわかりきっちまっているのがお貴族様の世界であり、それをぶち壊したいとか考える奴がいるのは全く不思議じゃない。

 もちろん、その世界が心地いいと思ってるやつは壊そうとしないだろうけど。


「嫉妬や憎悪を向けられなかったのか?」

「もちろん向けられた。だがその度に不思議な呪詛が働き、その度に追い落とそうとした存在から宮廷を去ったり素直に服従したりしたらしい。現在でもその一族が残っているのかどうか分からぬ」

「まさか殺されたとか」

「それはないようだが、それでも多くの人間が下野を余儀なくされ、サンタンセンやシギョナツ、あるいはエスタやトードー国などに移り住んだと言われる」


 ガーメに突っかかるのは相当な位の持ち主のはずだ。それが国を捨てるってんだから呪いの力がいかほどの物なのかよくわかるお話である。



「そんな寵愛を受けた存在を国王陛下自ら止めようとした時、事件は起きた」

「事件」

「そう、姫を焼いたのだ」




 人間を焼く!ったく、ここまでゾッとするような言い方があるだろうか。

 さんざん刃物で命を奪いまくって来ておいて今更極まるが、オユキの氷魔法でタイガーナイトの頭を壊しまくった時でさえも心臓がつかまれた気分になったのに、炎で焼かれたとなるともうどうなるか。



「山麓に連れ込み、炎魔法で姫様を直に焼き、悲鳴も上げさせないまま、逃げさせもしないで焼き殺したと言う。今でもその山には墓が作られ、毎年一度は墓参りに行く貴族もいる」

「……でもちょっと待って」

「言いたい事はわかるオユキ殿、しかし」

「ああ、そこまでやったはずなのになぜ死刑にできないのか、か」

「アルイさん」

「まあその後のガーメの処分は時の国王様が直に請け負い、自ら死刑にしたって事になってる。そのガーメの首を見せ、大罪人としてさらしたって事になってるが」

「……二日で消えたのだ」


 戦国時代そのものと言うべき打ち首・さらし首って処分。


 それだけの事をされるような罪を犯した人間の首が、どうしてすぐなくなるのだろうか。そんなのを想像するだけでもおぞましいのに、ましてやその首がなくなったとなるとなお恐ろしい。



「それで」

「その後の事はもうわからない。ガーメにより没落した家の人間が勝手に盗み取って憂さ晴らしにしたとか、あるいはその首は偽物で何者かにかくまわれているとか、殺しても死ねないので幽閉されているとか、あるいはとっくに死んでいるけど霊になっているとか……」

「それほどの存在なのでありますか……」

「わかってくれよ、なあ……」



 八村は深く頭を下げる。


 それほどとんでもない存在にケンカを売るのは確かに無謀だろう。米野崎がどうなっているのか、心配するのは当たり前でしかない。


「さらには、魔王が拾い上げたって噂もある」

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