セブンスが危ない!
「急がねばならない!」
「とは言え、どうするかが問題だ」
「問題も何もすべて倒せばいいんでしょ!」
あわてて走り出したはいいが、一歩踏み出すたびに俺の中の迷いが膨らんで行く。
(あの偽スキャビィを含め、タイガーナイトたちは戦争のプロだ。そのプロたちが何を望んでいる?俺にはわからん!)
山賊のつもりなら物資を奪いに行くだろう。確か布や金ではなくお酒が積まれていた記憶があったが、それだって十分なお宝である。
だがタイガーナイトとしてならば、冒険者たちを狩りに行くはずだ。冒険者と言う名の自分たちの邪魔をする存在、この街道筋を封鎖するだけでなくいつ何時どこでどうやって魔王軍の敵となるかわからない存在を刈り取っておくのは正しい判断のはずだ。
タイガーナイトだってコボルドのように無限に湧き出る訳じゃない。あるいはコボルドなどの魔物を引き連れて一気呵成の攻撃をかけるかもしれないが、とは言えあまりにもあからさまにタイガーナイトたることを示せばどうなるか。一時しのぎはできるとしても、それこそキミカ王国が本腰になって潰しに来るかもしれない。
魔王がどの程度まで本気なのか、スキャビィの行動をつかんでいるのかは知らないがわざわざ泥沼の死闘をする必要もなさそうなもんなんだが。
「モルマさんって強いんですよね!」
「ボクが保証するよ!」
大川の言うように全滅できればいいが、キアリアさんの力をもってしてもかなりてこずった。
街道筋に向かった皆さんの中にモルマさんがいるとは言え、Uランクに過ぎない俺がかなり上位に入っていた時点で正直怪しい。
「案の定とは言えよ!」
街道に戻ると、大乱戦が始まっていた。
さっきより倍近い数の山賊、いやタイガーナイトたちが正確な行動で冒険者さんたちを追い詰めている。
「ああもう!」
何せスピードも速ければ装甲も厚い、そんな存在を相手にするのは実に面倒くさい。俺だってそんな声を上げたくもなる。
「敵の狙いは!」
「数を減らそうとしているようであります!」
「守らなきゃいけねえ!」
冒険者の皆さんにたかるタイガーナイトたちの大軍、と言うか既に負傷者がかなり出ている。このままだと死者が出るかもしれねえ。
「セブンス!」
市村が先頭となって突っ込んで行く中、俺はどうしてもその名前を呼んじまう。
ヘイト・マジックがあれば、何もかもうまく行くのに。と言うかセブンスもあんな見知らぬ人たちに囲まれていて平気なんだろうか。そんな事が頭によぎるたびに、俺は剣を振ってごまかして来た。
「この!」
今もまた、山賊姿のタイガーナイトに向かって斬りかかる。
一撃で倒れたはずの山賊はその姿を現し、今度はタイガーナイトの姿になって俺に得物を叩き付けに来る。
何をやってるんだ俺、それこそあんなにも真剣に俺らを思い、セブンスを真剣に心配していた八村慎太郎を足蹴にするも同然の行いじゃないか。あの涙は本物だった。競技会でも何度も見た涙だった。だからこそ俺はセブンスとあえて離れた。
「落ち着けよ俺!」
「ウエダ殿!あわてるな!」
「ありがとうトロベ、でもまだ数は多い!オユキ!」
ヘイト・マジックが使えなかろうと、セブンスは一匹の狼を狩った剣士だし、それに情報探知の魔法だって持っている。Wランク冒険者相応の活躍はしてくれるはずだ。
だってのに落ち着けよと叫びながら、俺はどうしても落ち着きなく剣を振ってしまう。そんなだから、力こそないけどスピードに優れたタイガーナイトの前になかなか攻撃は当たらない。
トロベの横槍のおかげで一体倒せたが、それでも数が多すぎる。
「やってやれない事はないけどねー」
「やれ!」
オユキを焚き付け、氷の剣を投げ付けさせる。
山賊からタイガーナイトに変わる間もなく倒れた奴が出始め、青い血を流しながら消えて行く。
「こいつら魔物だったのかよ!」
「なんだお前らかなり強いな!」
「悪いけどおこぼれはもらうからよ!」
正体を見極めたのかオユキの活躍に釣られたのかはわからないが、冒険者の皆さんも元気になって行く。包囲されていたはずの皆さんが一挙に動き出した。
「決まった、モルマさんのパンチ!」
「俺だってやってやろうかね!」
「アルイさんに負けるなよ!」
モルマさんの拳がタイガーナイトの腹を捉え、アルイさんの魔法が別のタイガーナイトの腹を切り裂く。本来ならば怖いはずの青い血も今は戦意高揚の材料であり、勇んで血を浴びたがる。
「気をつけてください、タイガーナイトは戦争のプロです!」
それでも俺はこう言わざるを得なかった。あれが影武者って事はスキャビィ本人もおそらく同レベルがそれ以上、ましてや戦略については間違いなく俺らより上。
狙いがあるはずだ、狙いが……
「キャーッ!!」
この甲高い悲鳴は!
「あっ!」
セブンスが大柄なタイガーナイトに踏みつけられている!




