スキャビィの最期!?
作者:箱根駅伝は最高のエンタメです!!
「こんなにそろって何のつもりだか」
「とぼけるのも大概にしようか」
もし俺が親になったら、こんな駄々っ子の面倒も見なければならないんだろうか。体罰はダメだとか言うけれど、そんなやり方でこんなのをしつけられる自信は俺にはない。
「お前らよ!」
「おっと、こっちから目をそらしちゃあダメだよ」
「ぐっ!」
その一方で赤井たちにスルーされたスキャビィが吠えるが、敵はそれを見逃す相手じゃない。すぐさま隙を突き、正確な一撃を加える。
「俺はこれまでたくさんの敵を見て来たし、たくさんの動物とも触れあって来た」
「それが何だって言うんだか」
「お前はその動物たちより性質が悪いよ、ずっと」
不思議なことに俺は、動物にもなつかれなかった。決して噛みつかれたり爪を立てられたりはしなかったが、いないもの扱いとして無視される。
たまに寄って来て甘えるような真似もするけど、どこか噓くさい甘え方だった。いや甘えると言うより、すがりつくような感じ。何もしていないのに力の差を思い知ったかのようにひれ伏し、あるいは命乞いでもしそうなほどにしがみ付いて来る。
(まさか子どもにもなつかれないとかないよな、ああその前に妻ができないな……)
ただそれは、あくまでも生存本能でしかない。なぜ俺を恐れるのかはわからないが、それでもいざとなればそれぐらいの事は平気でやるのが生物の原理であるはずだ。
俺はダメ親父かもしれない。DV男かもしれない。だとしても、やらなければならない事はある。
「グベキ、おとなしくお縄を頂戴しろ。モルマさんの手によって裁いてもらう」
しかしさんざん罵倒して来たくせに、いざとなるとこれしか言えない。
この場においてなお「殺す」と言い切れないのはなぜなのか、俺はそれほどおぼっちゃまでもないし、この世界に擦れて来なかったはずもないのに、急に口が微妙に甘くなる。
「なんであんたらの財布になんなきゃいけない訳?」
「自然の恵みを頂いて生きるのが人間でありますように、治安維持を担当する者は犯罪者から飯をもらっているとも言えるであります。ハチムラ商会がコボルドの葬式をやっているのもまたしかりであります」
「本当、理屈っぽい男って嫌い!っていうか嫌われるよ!」
「赤井はモテるぞ、俺と違って」
市村はサラッとそんな事を言う。どう考えても自分の方がモテてるってのに、他人を臆面もなく褒める。
歯の浮くような言葉のはずなのに、ぜんぜん軽さがない。荒み切った場のはずなのに不思議と癒しの効果を感じる。
「こういうのが総大将って言うんだよ。スキャビィにも謝れ」
「なんでそんなのに頭を下げなきゃいけない訳?」
グベキは事ここに至ってなお、顔を変えようとしない。
タイガーナイトは文字通りの全滅、スキャビィだってキアリアさんの前にまるっきり防戦一方なのに。
「お前らな、人を勝手に決め付けるんじゃねえよ。俺はこうしてここにいるだけで幸せなんだよ!」
「死んだ魔物たちに謝れ!」
こいつもグベキにやられているのか。見た目にだまされ、利用され、そして犠牲になろうとしているのか。
俺は立派な戦士だったはずのスキャビィの背中に向けて腰を落とし突っ込み、その上でぶつかる直前にしゃがみ込んでやった。
「がっ!」
「ありがとうウエダくん!」
————————案の定、グベキは俺を狙って来た。当然だが、真後ろからぶつかろうとしていた所からいきなり伏せたのだから、グベキの攻撃はスキャビィの背中を捉えた。
「ぬぐっ!」
キアリアさんの剣がスキャビィに刺さる。青い血が草木を濡らし、染める。って言うかかなり量が多い。
「もうお前らに構ってなどいられるか!」
「もう抵抗なんかできないと思うけど」
「うるさい!」
スキャビィは剣を握り直し、距離を取ったキアリアさんに突っ込む。
これまでにない速度で、文字通りの火事場の馬鹿力を見せようとしていた。
「バカよねー、そんなに気合い入れちゃって、ああハズい」
「その口を永遠に閉じろ!」
トロベからもヘイトを買いまくるグベキを無視し、俺はスキャビィとキアリアさんに目を向ける。
あと数発凌ぎきればキアリアさんの勝ちだろう。とは言えこれまでにない速度で突っ込むスキャビィを、俺だったらたぶんチート異能なしでは凌ぎようがない。
だってのにキアリアさんはじっと立っていた、何も言わずに。
「あらら」
グベキの腹立たしさとマヌケさが合成された声が響くと共に、スキャビィは二本の剣を投げ出しながらグベキに付けられた傷を俺たちに見せびらかした。
「カウンター攻撃……?」
「まあそういう事だね」
キアリアさんは布で青い血を拭きながら、軽く笑った。
Nランク冒険者とはこういう物だと言わんばかりの剣技であり、まるでコボルドでも斬るように魔物の長を斬ったその姿は実にきれいだった。
「使えないんだから、じゃあ私はサヨウナラー」
「この!」
で、その間にグベキは消えちまった。まったく、本当何しに来たんだかとか言う文句すら言わせる暇もなく、文字通りどこかへ消えた。
まあいいやと思いながら倒れ込むスキャビィに近付く。
「あんたもさ、魔王とやらに従ってなきゃさ」
「優しいんだね」
「優しくないですよ、単にグベキに腹が立ってるだけですから」
何を言っても同じ事しか言わない、悪い意味でロボットじみた女。そんな奴がこんな立派な奴を惑わしていたのかと思うと安っぽいSFを読んだ後みたいな気分になって来る。
「お人好しめ……」
「オユキだっているんだからな」
「魔法の力をなめるなよ……」
だがなめてませんけどと背中に向かって声をかけようとした途端、いきなりスキャビィの体が小さくなった。
決して極端に縮んだわけでもないが。一割ほど背が低くなっていく。
「まさか!」
「言っとくけど、俺は、スキャビィ様じゃねえよーだ」
ったく、変身魔法に二段底があったとは!
ただのタイガーナイトがスキャビィになりすまし、さらにその上で山賊に成りすましていたというのか!
「どうせ少数精鋭で来ると、思ったんだよ……」
「すると!」
「スキャビィ様は本隊を率いている、よ……そんで本隊は今頃……街……道、を…………ぐふっ」
言いたい事だけ言って、偽スキャビィは消えてしまった。これは逃亡ではなく死だが、いずれにせよ本命を逃してしまった事に変わりはない。
「あのグベキが仕込んでいたとすれば!」
「また俺たちは囮作戦に引っかかったのか!」
「そんな事をごちゃごちゃ言ってる暇はない!」
俺は何もかも置き去りにして下山を開始した。箱根駅伝6区の練習になるかもしれねえほどの急激な山下りを、俺は全速力で走った。
一刻も早く街道に出なきゃならない。
急ぐしかねえじゃねえか!セブンスは無事なのか!




