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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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スキャビィと言う軍人

「貴様……!」


 こんな惨状だってのに、それでも向かおうとするやつはいる。




「真の親玉でありますか!」



 タイガーナイトより一回り大きな魔物。腰巻や乱雑な毛皮じゃなく、しっかりとした鎧を着た虎の魔物。


「もう遅いよー!」

「ったく、本来ならこんなガキどもなんか俺が出るまでもなかったんだがなあ!ったくエノ将軍とオワットには詫びを入れなきゃならねえな、ザコにやられるとはとか抜かしてすいませんでしたってなー!」

「何者だ!」

「俺はタイガーナイトたちのリーダー、スキャビィだ!」


 スキャビィとか言う大柄なタイガーナイトは、二本の剣を持ちながら足を踏み鳴らす。人の事は言えないけど、現在進行形で何十本の草を踏み荒らしながら笑っている。


「っつーかさ、お前恥ずかしくないのか?」

「何がだ?」

「あんな奴に使われてよ」

「その目玉は案外出来が悪いらしいな」

「俺の視力は両目とも1.0だが」




 この間ずっと、グベキは適当に笑ったり驚いたりしているだけ。


 驚きゃしないけど、ただスキャビィが可哀想で仕方がなくなって来る。


「俺の望みは知ってるだろ?この街道を二度と荒らさず、とっとと魔王の元へ帰れ」

「はいと言うとでも思っているのか?」

「あいつは人を利用しておきながら何の良心の呵責も起こさない女だ、お前も捨て駒にはなりたくないだろう」

「捨て駒はあいつだが」


 見た目がいいだけで中身はって人間は山といる。ボロは着てても心は錦だとか言うけど、錦を着ても心がボロな人間もいる事を俺はもう嫌と言うほどわかっている。

 三田川だってそうだし、剣崎だってその類だろう。もちろん俺だってそうかもしれない。

 そしてこの世界では、グベキだ。


「何をほだされてるんだか。おまえもしかしてそういう趣味か」

「何とでも吠えていろ」

「うるせえ!」



 結局、俺の方が耐えられなくなってしまった。

 元々俺自身悪口のボキャブラリーはなかったし、あっても何が有効なのかわかっていなかった。まあできれば必要のない生き方をしたかったけど、そんな都合のいい話なんかない事はもうわかっている。


「ヘヘヘ、先に手を出しやがったな!」

「先制攻撃の何が悪い!」


 相変わらず上達しない剣術で襲い掛かる。もちろん敵はただでさえ身軽なタイガーナイトの親玉であるスキャビィであり、攻撃が通る事はない。

「どうしたどうした、エノ将軍を倒したってのはでたらめか!」

「俺「ら」が倒したんだ、俺がとどめを刺したんじゃない!」

「でもお前が中心である事変わりはねえだろ、まあそんなに焦る事もねえけどな」


 その通り、スキャビィには焦る理由がない。俺らの勝利条件は敵全滅+味方犠牲ゼロだが、こいつからしてみればひとりでもやれば勝利と言ってもいい。


 そういう訳で俺にこいつを斬る理由はあっても、こいつに俺を斬る理由はない。



「お前ら、こいつの足止めをしろ!守りは固いが攻めは大したことはねえぞ!」

「了解!」


 しかもその焦りを突くかのように残党軍が飛び込んで来る。これではスキャビィの背中を突く事もできやしない。


ああ、まずい、まずい!


「ボクに任せてくれないかな?」

「キアリアさん!」

「ザコはキミに任せるよ」




 俺の焦りに応ずるかのようにキアリアさんのさわやかな声が鳴り響き、それと共に俺のとは全く違うきれいな剣の音が響く。直に見られなかったのが残念だ。



「何と言う素晴らしい……!」

「必殺技みたいなもんかな。まあまだ本気出してないけどさ」


「おい大将を見捨てるのか」


 キアリアさんの攻撃を受けて倒れ込みそうになるスキャビィの背中にタイガーナイトの武器を刺さらせてやりたくなるが、その点連中はこうなる事を危惧してさっと後退し、その上でまた得物を叩き付けに来る。本当にしっかりしている。


「タイガーナイトは非常に計画性が高い。山賊に変身していたのもさることながら、その単純な手腕も実に見事だよ」

「Nランク冒険者のキアリアさんよ、お前さんこんな事してていいのか?」

「ボクだって人並みには欲の皮が突っ張ってるからね、魔王の幹部を倒したとなればMランクどころかLランクにもなるかもしれないんだし」

「ならそうやって欲の皮を突っ張らせたことを後悔しながら死にやがれ!」



 スキャビィはどこまでも冷静だ。


 敵ながら見事とか素直に褒める気もないが、それでも軍人とか騎士とか武士とかって言葉で言えば一番完成されているかもしれないように思えて来る。

 あくまでも目的のために自分さえも戦闘単位としてか考えず、そして部下たちを思いのままに動かす。さらに一個人としても強い。


 俺もああならなければいけないんだろうか。ただのお気楽な冒険者様などではなく、集団の一員として、トロベいわくリーダーとして。


「どけ!」

「誰がどくか!」



 でも俺は、どうしても一個人の感情に勝てない。


これほどまでの存在を危険に立たせておきながら、相変わらずヘラヘラしている目の前の女が許せなかった。


 どんなに幼い総大将であったとしても、それが単純に幼気そうだったり勇敢だったり、あるいは部下の打撃に心を痛めているんならば別にいい。

でもグベキはそんな所なんか一切なく、ただただ自分のために戦うのを当然だと思っている。


「ああ、面倒くさいなあ!!」


 そんな俺に向かって心底から顔通りの言葉を投げ付けながら、グベキは両手を向ける。



 その手から何かが飛び出して来た。


「避けない!?」


 その何かは、速度は遅かったが俺を避けようとせずまっすぐ向かって来る。あわてて身をよじると、グベキは唇をゆがめながらその何かを地面に叩き付けた。



「あーあ、なーんで避けちゃうかなー」

「当たり前だろ!」

「もうだから面倒くさいの嫌いなんだけどなー」


 もう一発、小さな何かをぶつけて来た。今度は先ほどにもまして速度も低く、明らかに俺に見せるための一撃だ。


 銀色の球体。全く回転する事なくまっすぐ飛んで来るその球体は俺の手に向かって小さな音を立てて落ちた。




「金属の球!?」

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