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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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タイガーナイト

 山賊たちの大半が蘇り、次々と戦闘態勢を取る。


 山賊ではなく、コボルドと同じような魔物。



「チキショウ、よくも仲間どもをやってくれたな!」

「でもよ、やられた振りもたまには楽しかったぜ!」


 二足歩行する虎の毛皮を来た魔物たち。


 そしてニタニタと笑うグベキ。




 全く間の悪い事に、魔物たちによって俺は市村たちと分断されちまった。

 袋叩きは歓迎とは言え、そんな事になるとも思えない。




「てめえ、山賊どころか魔物に従う気か!」

「山賊でも魔物でも私を守ってくれればいいからさー」


 グベキの物言いは単純にむかつく。それだけでもぶん殴るには十分な理由だ。

 普通にそんな事をすれば暴力でしかないが、今のこのグベキにはそれをされても反論できないだけのお墨付き(指名手配)がある。


 もちろん、他の魔物にも。


「お前ら、とっととどっか行け!そして二度と街道を荒らそうとか、人様に迷惑をかけようとかするんじゃねえぞ!」

「口ばっかりじゃねえのはもうバレてるんだよ、今更お前にかかって行く理由はねえよ!」

「俺にはあるんだよ!」

「よく言うよねー」


 と言うかグベキと来たら俺に張り合うかのように煽りに来るからいちいち腹が立つ。

(俺はロキシーじゃねえんだよ!)


 経済活動を阻んでいると言えば、オユキだってそうだった。


 クチカケ村の鉱山への道をふさぎ、鉱山の過剰な採掘と木の伐採を阻止していた。

 でもそれはあくまでもオユキの都合を無視した結果であり、ロキシーにだって責めはある。一番極端な言い方をすればどっちもどっちだ。



 だが今回は違う。山賊、と言うか魔物にはこんな事をする理由がない。

 魔物たちのせいで経済活動が滞る。ただそれだけ。


 魔物たちが世界征服を本気で狙っているとすればつじつまは合うが、だからと言ってこんな小手先とも言うべき一手でどれだけの影響があるんだろうか。



「こんなんで世界征服する気か!」

「兄貴、こいつこそエノ将軍とオワットをやった奴ですぜ」

「そうかいそうかい、どっちか知らねえけどうっかり喋りやがったらしいなあ……!」

「そうだよ、この世界を魔王様の物にするためだよ!悪いか!」

「やっぱり魔王の手先かよ!そうだよ、俺こそその二人を倒した奴だ!」


 魔王の手先であるかどうかなどどうでもいい、どうでもよくないのはわざわざ人間を苦しめに行く事だ。


 その点で行けばエノ将軍とオワットだってわざわざミルミル村やクチカケ村の街道を襲っていたような魔物じゃないか、その二人をやったのは俺だ。


「世界征服だが何だか知らないけどな、仲間を大事にしなきゃうまく行かないぞ。お前らはその二人と親しくなかったのか?」

「何を言ってるんだか」

「そのまんまだよ、一人の魔物でできる事なんぞたかが知れてるだろ、こんなガキにすら負けちまうんだからな!



 言いたい事を言いまくりながらも、どうしてもセブンスの存在が頭に来る。セブンスなら、セブンスなら。まったく我ながらやたら未練がましい。


 俺は八村を足蹴にできなかった。クラスメイトだからとかじゃなく、単純に弱っている存在に追い打ちをかける趣味がなかったからだ。

 セブンスだって納得してたくせに何のつもりだ!


「貴様は後回しだ、まずは貴様の仲間からだ!」

「大事なもんを残しておくといい事ないぞー」

「うっせえよ」


「……この野郎!」



 だからこその悪口雑言だったのに、まったく効いていない。


 頭が熱くなり、剣を振ってしまった。


「やったな!」


 その結果魔物は俺ではなく、市村たちに向かって突撃を始めた。



「よしお前ら、タイガーナイト様の力を見せてやろうじゃねえかよ!」

「そのまんまのネーミングだな」


 戦闘力のなさそうなグベキに背を向け、タイガーナイトと言う安直な名前の魔物を追う。

「なんだこれ!」

 ――つもりだったのに、やたらと速い。


 走りにくいはずなのに、走り慣れた山道。それでも敵軍の後方を付いてやればいいとか簡単に考えていたが、あっという間に引き離されてしまう。


 長距離選手のスピードが短距離選手に勝てるわけはないのはわかっているが、それでもあまりにもスピードが違う。




「最初から本気でかかってると思ってたのかよ、バーカ!」


 回り込まれたらまずいと思う間もなく、市村たちを取り囲もうとするタイガーナイトたち。立場があべこべだろとか思いながらあわてて斬り込む。まずい、みんなを傷つけさせる訳に行くか!



「はいよっと!」


 それでもオユキはちゃんとしている。自分たちを守るように吹雪を起こし、タイガーナイトたちに凍傷を与えている。

 その隙を付かない理由はない!

「あれ?」

 と思ったら、いきなり目の前の奴が倒れた。どうやら市村の剣が突き刺さったらしいが、それにしては不自然なほどの前のめりだ。



 ってそんな事考えてる場合かよとばかりに剣を振り、背中を突く。


「ぬぅ!」


 確かに手ごたえはあった。だがあまりひるまず、青い血を出しながら剣を振るっている。


「上田君、幸い力はさほどないようであります!」

「でもよ、丈夫さと足の速さには自信があるぜ!」


 赤井はバリアを張り、タイガーナイトの攻撃を受け止めている。しかし赤井の言う通りだとしても、この魔物はかなり耐久力がある。タフな上に足も速いだなんて、それこそめちゃくちゃ厄介じゃないか。


「はいよ!」



 キアリアさんの刃がタイガーナイトを華麗にいなして討ち取ったものの、数はなかなか減らない。


 このままだと損害が出る。それは避けなければいけない。


「敵に背を向けても平気なのか、お前には羞恥心がないのか!」

「羞恥心より勝利だよバーカ!」


 負け犬の遠吠えと言われようが知った事かいと言わんばかりに舌を振るう。俺はともかく仲間は守らなければいけない。



「ごめんウエダ!」

「巻き込まれないようにせねばならぬであります!」

「ああ邪魔くせえ」


 オユキが氷の玉を作り出し、次々にタイガーナイトに叩き付ける。

「俺に対する害意のない攻撃」と言う名の無差別攻撃に、赤井たちは余計に固まる。

「遠慮するなよ!」

「でもウエダを傷つけたくない!」

 しかしそれゆえに攻撃は弱く、タイガーナイトたちはひるむ事すらしないで赤井たちに斬りかかって行く。



「ひるんでる場合じゃねえだろ!赤井、頼む!!」

「わかりましたであります!!」


 俺に魔法の防壁がかかるのを確認したオユキが、両手を上げる。


「かすめたらゴメン!!」




 ゴメンを言い終わると共に、急速に寒くなった。必死に赤井たちの所へ飛び込むと、タイガーナイトの頭が崩れ出した。


「私の本気、見てくれた!」

「ハックション……!」


 くしゃみをしたのは寒いから、花粉でも入ったからか、それともごまかしか、別の意味での寒気だったのか、それはわからない。



 何せ、タイガーナイトの頭が凍り付き、それが砕けるのを見ちまったんだから。


 下手すりゃ三ケタの死体を作っているくせに、あらためてオユキが魔物だってことを実感せざるを得ないほどむごい死に方だった。




「貴様……!!」


 で、こんな惨状だってのに、それでも向かおうとするやつはいる。

上田「そのまんまだな」

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