総大将は!?
「ったくよう!お前が相当な手練れだって事はわかった!俺が相手してやるよ!てめえらはこいつの連れをやれ!」
「こっちだって!」
まあいずれにせよ俺と大川だけで十人近い山賊を倒した事に変わりはない。
そんな戦況にこれ以上黙っていられるかと言わんばかりに、頭目が俺に向かって剣を突き付ける。
「任せるであります!」
「わかった!」
俺は後方を仲間たちに任せ、頭目へと剣を振る。
「確かに噂通り、いや噂以上の腕前だな!」
「そりゃどうも!」
「どんな攻撃も通じねえとか、何を喰らってもケロッとしているとか、つまんねえハッタリかましやがってとか思ってたよ!」
「百聞は一見に如かず、俺の世界の言葉です」
「ならば!」
頭目は俺ではなく、俺の剣に向かって攻撃してくる。確かにこの剣は俺じゃない。俺じゃないから当たる。それで力も結構ある。
「だけど剣ってのは、金属の棒だからな!」
「何を言ってるんだか!」
「金属の棒なんて思いに決まってるだろ、そんなもんを振りまくれば力も付くよ!と言うかそんな大振りでどうする気だ!」
元々陸上選手気取りだったけど、それでもこの世界で筋肉も付いた。走るのには邪魔かもしれないけど、それでも今この時にははっきりと必要な筋肉だ。
頭目はたぶん口元をゆがめながら、俺に斬りかかって来る。その度に腕がしびれそうになるが、いかんせん大振りだ。
「頭目が大振りだと、部下も大振りなんだろうな!」
「何を言うかよ!」
顔を赤くしながら、ますます力任せに振り回す。一段と速い。
剣も随分と肉厚で、当たったら剣が持って行かれそうだ。
だがこういう相手の対戦方法はもうわかっている。
「おっ!?まさか剣なしでやる気か!?」
「ああそうだとも!」
剣をしまい、俺自ら足を踏ん張って突っ込む。
「まさか俺など剣などなしで十分だと言うのか!」
「武器だって消耗品なんだよ!」
遠藤にしたように、俺自身を標的にさせる。そうすれば俺には当たらない。拳だって人並み以上には強くなったはずだ、握力とか計ってないけど。
「なめた真似を!ならばお前の仲間から!」
「そんな大振りで誰が斬れる!」
「はあ!?」
その時間にしてみれば数十秒の間に、なんとトロベたちに襲い掛かっていた連中は全滅していた。
剣とか残っていた所を見ると、どうやらコボルドの剣をそのまま使っていたらしい。
「イチムラ殿やアカイ殿もいたとは言え、私ひとりでほとんど斬れたぞ?」
「コボルドの剣はそのまま流用しても強くはなく、一般兵用の剣の半値かそれ以下の価値しかないと言うのがペルエ市での相場であります」
「この剣はもう少し物がいいけどね、まあ一般兵用の剣に劣るのは間違いない」
しょせん魔物用と人間用は勝手が違う、と言うかなぜ弱いのかさえもわからない、わざと弱いように作られているのかもしれない。だとしたらこんな武器で戦うコボルドが少し気の毒である。
「一対一でこの状態なら、集団でかかれば!」
「汚いぞ!」
「汚いのはお前だろうが、なぜサンタンセンの街道を!」
「それが俺らの生きる道なんだよ!」
山賊が生きる道かよ、まったく何をどう間違っちまったんだか……。
俺は自分はそうならないようにしようと思いながら走り、大振りの剣をかいくぐって腹にストレートを叩き込んだ。
「あぐっ……!」
背中に向けて苦し紛れのように剣が落ちて来るが、もちろんかすりもしない。
ボクシングなんぞやって事ないのに連続パンチが決まり、体がふらつき剣を手から落としてしまった。
「ウエダ殿、とどめは私に任せてもらおう」
「まだだ、まだ……!」
トロベの槍がふらつく山賊の喉に刺さり、突き抜ける。見慣れたはずなのに怖い江連だが、そんなのに悲鳴を上げている暇もなかったのも事実だった。
「これで全滅か?」
しかし案外とあっけない。山賊団とか言うが、こんなに少数なんだろうか。と言うか弱いんだろうか。
「もしかして……」
「ったくもう、ミーサンの仇を討てると思ったのに―!」
あるいはと思う間もなく、一人の少女が飛び出して来た。
「お前……!」
そして俺は、その少女の姿をよく知っていた。
「ミーサンを殺した奴め!」
――――グベキだ。紛れもなく、ナナナカジノ襲撃事件の時の、グベキだ。




