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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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ワーウルフ

「狼だな」

「ずいぶんあっさりと言いますね!」



 狼ってのはこの世界じゃ犬と同じレベルの野生生物らしい。確かにこんなきれいな傷跡を付けられるのはよほど強力な武器だろう、しかも形状からしても爪と考えるのが自然だ。


「山賊たちが識別のために爪で傷を付けたと言う話は考えられないでありますか」

「バカを言わないでよ、その山賊は人間なんでしょ」

「武器が剣や槍ばかりとは限らないと言う事だ」

「だとしてもね、ちょっとその考えは詰め(つめ)が甘いんじゃないかな、つめだけに」

「フフフッ……!」

「ああ確かにね、こんな大きな傷跡がついてたら私たちにもバレバレだからね」


 俺にはこういう気づかいはできない。


 出現範囲だの、進めば進むだけ敵は強くなって来るだの、そんなゲームそのものの知識が全面的に幅を利かせているという現実のせいで赤井に無意識にマウントを取られていたのが大川は不愉快だったんだろう。

 だからこそあえてマヌケな事を言って、それにうまく市村とオユキは乗っかった訳だ。ああ、トロベはどうでもいいが。


「しかしこの傷、かなり高いんだけど。私の首ぐらいの高さあるよ」

「ワーウルフって知ってるかい?」

「ワーウルフと言いますと、いわゆる人狼でありますか」

「まあそうだね。決して珍しくはないよ、特にトードー国ではね」


 トードー国に多いとなると、あるいはこの傷を付けた存在もトードー国にいるんだろうか。改めてやけにきれいな爪痕を見るに付け、このワーウルフってのもかなりの強者らしい。


「山賊と魔物が相討ちになっている様子はないと聞いてたけどさ、山賊が魔物を一方的に蹂躙できるような力関係だとしたら話は別だね」

「あーあ、そんな存在がここにいて欲しかったなあ」


 そんな存在が味方になってくれるんならばどんなにありがたい事かとか考えた俺の言葉を引き取るかのように、キアリアさんは親指と人差し指でVサインを突き付けて来る。


「その姿勢はいい。人頼みじゃなく人を受け入れる姿はいい。ただそれができない存在は一流と呼ばれる人にもかなり多い」

「自分の存在を脅かされたくないからですか」

「それもあるけど、自分だけが責めを負えばいいとばかりに抱え込んでしまう存在も多いんだよね。ギンビは残念だけど両方の意味で他人を受け入れられない人間だった」



 人に頼らないと言えば体裁はいい。でも自分の限度を越えちまうと全てはぶっ壊れる。

 もちろん限度をデカくするのは重要だけど、それでもギンビだけじゃなく、何事も依存と言うか信頼できない奴はダメにもなる。


(三田川もそうなのかもしれねえ)


 三田川はやたら努力努力と口にする。見えない所で何をやっているのかはわからないが、この世界であんなに強くなれているのも元の世界でして来た不断の努力のおかげさまだと信じているのかもしれない。

 でもそのせいか知らねえけど、あいつはこの世界でもほとんど仲間がいないみたいだ。もちろん事件のせいかもしれないが、あるいはそれ以前からだとするとぼっちだった俺でさえ今こうしてたくさんの仲間に囲まれているというのに、三田川は気の毒かもしれない。


「とりあえず魔物が出る気配はないようでありますが」


 俺の役目は、仲間を守る事だ。ペルエ市の東の山よりは暗めの山道を登りながら、腰の剣に手をかける。敵は魔物か山賊か、できれば山賊だけにしたいがそんな安易な話もない事はわかっている。


「気配がないのと実際に出ないのは違うよ」

「山賊をおびき寄せたいけどな、やはりヘイト・マジックがあればな。あと山賊と魔物が食い合いになっている所を付ければ最高なんですけどね」

「期待しない方がいいよ。魔物だって賢いかもしれないんだから。なぜ山賊と魔物が食い合わないかわかるかい?キミカ王国とトードー国が戦争をしないのと同じ事だよ」

「確かに。我がキミカ王国は現状に何か不満がある訳ではない。不満がないのに戦争なんかしてわざわざ不満を作ってどうする気だ」

「それも一因だが、同時にこの山を根城にしてると言うのは、逆にこの山から動きにくいと言う意味でもある。コボルドをただ斬るために斬ってるやつなんかボクは知らないね」


 冒険者がコボルドを狩るのは、コボルドが持っている剣を回収するためだ。

 で、そのコボルドから奪った剣を山賊たちはどこで売りさばくと言うのだろうか。もちろん自分たちで使ったりこっそり窓口を持っていたりするのかもしれないが、だとしても下手にコボルド狩りをすれば一般冒険者の目に付く。


「とにかく山賊が現れたらやればいいだけでしょ!私が山賊の親玉なんか投げ飛ばしてやるから!」

「いざとなれば俺が囮になる」

 もっとも、今は山賊たちとコボルドの関係をうんたらかんたら言っている場合ではない。目の前の山賊を斬らねばならない。


 一歩一歩、歩を進める。




 そして。


「来た!」


 傷の付いた木から二〇〇歩ほど歩いた所で一人、剣を持って飛び込んで来た奴がいた。


「この!」


 ぼっチート異能任せに突っ込み、振り降ろされた剣をかわしながら右胸に剣を差し込んでやった。


「まずひと……?」

「違うであります……」


 しかし、血が青い。その上に血と剣を残して体が消えてしまった。




「ハイコボルドかっ!」

「おーいいたぞー!」


 太い声がハイコボルドの後ろから飛んで来る。


「山賊ですか!」

「そのようだね!」


 どうやらハイコボルドに釣られて大声を出しちまったのが仇になったらしい。



 平坦ではあるが視界の悪い場所で、俺たちは山賊集団と対峙する事になってしまった。

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