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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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大川の父「口に物を入れたまま喋るんじゃない!」

「バットコボルドが出る山の南。そこからリョータイ市の境までが山賊の根拠地となっているんだよ。それで山賊は決して町を襲う事はないと言うから実にしっかりしているよね」

「……」


 歩きながら山賊について丁重に説明してくれるキアリアさんの言葉を、大川は真面目に聞いていない。朝食が少なかったわけでもないのに、先ほど口に放り込んだ雑草を口に含んでいる。


「何やってるの!」

「私どう()ても納得いか()()よねそう()う所。都合が良すぎる気がするのお」

「ああそれ、町の人におとなしく従ってくれれば何もしませんってサイン出して後で自分たちが好き放題するための下地作りなんじゃないの」

「そんなに山賊って頭がいい()?」

「ヒロミ、山賊がどれほどの物かもうわかってるでしょ」


 キアリアさんが苦笑いを浮かべてる事など知った事かいと言わんばかりに口を動かしまくる。確かにチート異能ではあるけど、何もこんな所でキアリアさんに見せつける事もないだろうに。ああ、オユキの口も歪んでいる。


「オオカワ、何の不満があるんだい」

「別に不満なん()、ただそんあい(なに)都合のいい山賊がいるのああ(かな)って」

「真っ当な人間にそれぞれ住む町があるように、動物にもそれぞれの縄張りってものがある。悪党だって魔物だって同じ事だ」



 大川の言う都合のよさがどういう類の物かは、俺たちはだいたい分かっている。


(……の割に詳しいじゃねえかよ。あるいは中学生以前にそういうやつに痛い思いでもさせられたのか?)


 俺の進みたい大学には、好きな女性タレントと聞かれてゲームのキャラクターを持ち出すようなランナーもいた。

 決してフィジカルエリートとオタクが対義語ではない事をいかんなく示したお話であり、あるいは柔道の試合でそういう類の奴にやられたのがトラウマになっているのかもしれない。


「ちょっと市村」

「やめてよ大川、そういうのってまるでミタガワみたいだよ」

「…………っ!」


 そしてオユキと来たら案外容赦がない。市村に何か気の利いた事を言わせようと俺が振る間もなく、この世界における最大級の犯罪者の名前をぶつけて来た。

 市村ですら圧倒され、大川は噛んでいた草を飲み込む音を立てながら顔を青くした。


 もしその顔の青さが草の不味さから来ているのならばどんなに好都合だろうか。



「とりあえずはさ、山賊のアジトまではゆっくりと行こうじゃないか」

「そうですね。やっぱり魔物は出るんでしょう」

「バットコボルドとハイコボルドだね、現在の所。ただ」

「ただやはり、他にも強い魔物がいると」

「そうなんだ、バットコボルドを一撃で倒すような腕利きの冒険者がね」


 俺には結局、キアリアさんの話に乗っかって行くことしかできなかった。


「まあゆっくり進もう。いつ山賊やコボルドが出ないとも限らないんだし」

「そうね、私も大人げなくてごめんなさい」

「君たちの世界の十五歳は、悪いけどあまり強くないみたいだね」

「ぐうの音も出ません」


 本多忠勝の初陣は十三歳だとか聞いた時には少し気が遠くなった。いや織田信長も武田信玄も徳川家康も俺らの年ぐらいにはすでに初陣と言う名の殺し合いを経験し、すでに嫁さんをもらっているお話も少なくなかったらしい。


(ったく、本当にしっかりとしてるよなトロベは……)


 この小さな喧騒の中でもトロベはじっと立ち、時々槍を握って魔物たちの襲来を警戒している。


 武士と騎士にどれだけの違いがあるかわからないが、トロベが立派な騎士様だってのに俺らは実に子供っぽい。現世ならばたちまち優等生、学級委員長、生徒会長、と言うか学校の代表にもなれそうなほどにトロベは大人だ。

 ダジャレで笑う事はあるがそんなのは枝葉末節に過ぎないぐらいしっかりした大人だ。


「好悪の感情で物を言うのは後でいい。それとあまりあからさまな好意悪意の表明はかえって受け取る側の心を逆向きに追いやる危険性がある。宮中では言葉こそきれいだが凶悪な言葉をぶつけられる事もある。私もずいぶんと悪口雑言をぶつけられもした。バカだのアホだののような幼稚な文句などは通じない程度に鍛え上げられもした」


 王宮に仕える貴族ってのは支配者階級であり資産家でもある。それだけに背負っている者は大きくなり、言動一つ一つの価値は重くなり、その結果きれいに見えて恐ろしい刃が鍛え上げられて行く――と言う理屈を組み立てることはできるが、いざその刃が突き付けられたらと思うと血の気が引く。

 ぼっチート異能があったとしても心理的攻撃に効くのかどうかはわからないし、その手の経験値のゼロ同然な俺が耐えられるかどうかわからない。


「まったく、本当に格が違うな」

「強くなっていない。強くなっていないから王宮を抜け出して冒険者などやっているだけだ。私は決して強くないぞ、ウエダ殿と違って」


 その上でスルッとそういう事を突っ込んで来るんだから本当に油断も隙もない。


 セブンスが居たらものすごい勢いで詰め寄って来そうだが、ここには萎え気味の大川と元から首を突っ込む気のないオユキしかいない。




「ん……!」

「この傷は……!」


 とにかく山賊とコボルドに気を付けなければならないとか思いながら歩いていると、妙な木に当たった。


 五本の斜めの線が十字状に付けられている。

 それもかなりきれいな傷跡であり、深さも十分ある。木くずが付いていない所からするとそれほど新しい傷ではないようだが、それよりもっとすごい物が付いていた。


「青いぞ!」




 非常に薄くなってはいるが、それでも明るい木の色ににじんでいる青い絵の具のようなシミ。

 これは間違いなく青い血、誰かが魔物を倒して出した血だ。


「狼だな」

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