市村正樹
「……やっぱり、上田裕一なのか!?」
っておい、なんで俺の名前を知ってるんだ!?そりゃデーンから紹介を、って……!?
「市村正樹!?」
このために過ごしてこなかった訳でもないし、実際このためにこの村を出ようとしていた。
しかしこの過酷な世界で、親しくはないとは言えクラスメイトに再会できるとは思ってなかった。少なくとも、こんな形でとは思わなかった。
「剣を交えていればお互いの事はわかるとかドラマじゃ言うけどな、まさしくお前の剣は勇気と自信に満ちあふれた剣だったぞ。さすが努力家の剣だ」
「お前こそ、ずいぶんと程度の高い剣じゃねえか……本当、こんな才能があっただなんてびっくり仰天だぜ」
「まあ、ここに来ていろいろあったんだろう?」
「まあな、俺はこの村に引きこもっていたから特にどうって事もなかったけど、お前はいろいろあったんだろ」
正樹は相変わらずのイケメンぶりを見せつける。
クラスで一番モテてたのは、ハーフだったムーシ・田口でも野球部の遠藤でもなく、正樹だった。本人は別にどうでも良かったらしいけど、そういうやつに限って不思議とモテる。大欲は無欲に似たりっつーけど、無欲も大欲に似るもんなのかね。
「まあ上田の勝ちって事でいいだろう、正直もう攻め手がない」
「パラディンって言うんなら、もっとそれらしい攻撃をしてもいいじゃねえかよ、単に剣振るだけか?」
「観客に被害が及ぶような真似は許されないだろう、ましてやあ、聖職者様にも」
「実に素晴らしいな」
二人ともほぼ同時に剣をしまい、そしてさっきと同じように握手する。
本当、陸上大会ですらなかった経験だ。戦いが終わった後にはお互いの健闘をたたえ合い、それなりの礼をしてしかるべきもんじゃないんだろうか。だってのに俺はまったくそういう機会に恵まれなかった。どこまでもぼっちだった。
いったいどうしてこうもとか思わなかった訳じゃねえけど、勝てば注目を集めるだろうと思って頑張って来たから別にいいけどな、親父もおふくろも優しかったし。
「おい……」
「ああいけねえ、忘れてたわ、はいよ」
そんでそう言えばなんで正樹を見下ろしてるんだってなり、それで足をどけてようやくその踏み台の正体を思い出した。
うわデーンの奴、めっちゃキレてる。おおこわいこわい。
「お前やっぱりインチキしてたんだな、結んでたんだな最初から!」
「馬鹿を言え、俺はそのパラディンが正樹だなんて知らなかったぞ!」
「こっちも同じだ」
「インチキをするような奴にやっぱりセブンスさんはふさわしくない!俺が」
「インチキはお前だろ、最初からちゃんとやれ!」
「俺が決めたんだ!」
何だよこの俺様はよ……ただのガキ大将から俺様キャラになっちまったよ、どうしてんな方向に進化したんだよ、って言うかこっちがもしかして素?冗談じゃねえよったくもう……!
「やっぱりですね、女性の気持ちを無視するのは良くないと、お分かりですよね、ええ…………」
「お前もグルだったんだろ?なあ、言ってみろよ?ゴコーヘーな審判様!」
「神の名においてとか言う以前にですね、二人の一騎打ちの最中に横取りを図るのはいかがなものかと思う次第でありまして、これはあなたの負けであると思う訳であります」
「セブンスは俺の嫁なんだよ!嫁じゃなきゃ妹なんだよ!」
セブンスったらもう戦いは終わりましたしとばかりに俺の背中に抱き着きやがってよ……これで本当にどうにかると思うのかね。村人の皆様も苦笑いっつーか嘲笑を浮かべてるじゃねえか、正々堂々と斬りかかってやられた方がましだっつーのによ……
「お前も」
「だからよ、ただでさえ一対二の状況でよそ様に喧嘩を売る余裕ある訳?って言うか聖職者様に八つ当たりなんぞしたらやばいと違うんじゃねえ?」
「何か言ったか!」
「お前がどう見ても悪者だっての、村長様だって怒るぜ?俺だったら怒るし」
すげえ数のVサイン、親指と人差し指で作られたVサインが出て来る。この世界のVサインが俺と正樹に向けて掲げられ、あっという間にデーンが悪者になっちまった。
「あーい、すいませんでしたー!」
デーンは芸術的なほどの棒読みっぷりを見せながら大股で大広間から去って行った。最後まで俺、と言うかセブンスの方ばかりに目線をやりながら、んなことして転んだらカッコ悪いってレベルじゃねえのに、よくもまあご器用な事……。
「いやー、やっぱりユーイチってすげえな」
「マサキさんって言ったっけ?あのパラディン様もカッコいいじゃない!」
「でもユーイチはそれに勝ったんだぜ?」
「もういいよ、どっちもカッコイイでさ!」
歓声から逃げるように、俺達はセブンスの家へと向かった。こんな所で良かったらとか言う気もないけど、まったくこんな異世界でクラスメイトに出会うとは、本当に世の中分からねえぜ……って聖職者様もなぜ付いて来るんだ?
「申し訳ございませんであります、マサキとは深い仲でありまして」
「まあいいけどさ」
とにかく仮面を脇に抱え込んだパラディン様と顔を隠した聖職者様が揃って入ったセブンス邸は、四人になったせいか急に狭くなった。
「もういいんじゃないか」
「マサキがそういうのならば……ウエダ君、こういう事であります」
皿を出そうとしていた俺の耳に入り込んだ言葉に、俺の手は止まった。ある程度の当たりを付けながら座った俺に向けて、聖職者様は顔と頭を覆っていた帽子を取った。
傷み気味の黒髪と丸顔。そしてやけに細い目。
「お前もか……」
「はい、赤井勇人であります!」




