面接官八村「特技は?」セブンス「ヘイト・マジックです」
「それで今、ハチムラ商会は今冒険者を必要としています。理由はこのカイコズと南のリョータイ市の流通を脅かす山賊狩りです」
「山賊の特徴とは」
「彼らは前進と後退の使い分けが腹立たしいほどに上手です。少しでも勝ち目がないと見ると、まったく挑もうとして来ないのです」
八村は丁重な言葉づかいで仕事内容を説明する。やがては俺たちもこうして人事担当者に頭を下げて面接を行い、社会人になって行くのだろう。
「それで資格は」
「一応英検4級、漢検3級です」
「ふざけているのでありますか!」
「赤井、先にふざけたのはこっちだ。許してくれ」
そう思いきやこんな事を言い出すほどには八村もガチガチという訳でもないらしい。正直塩漬けに等しい資格を並べて赤井(ちなみに英検も漢検も2級)にツッコミを入れられるが、八村は口調からして澄ましたもんである。
「それで話を戻しますが、冒険者ランクは」
「このウエダとイチムラとアカイがUランク、セブンスとオユキがWランク、オオカワがXランク、そしてトロベがSランクです」
「何だよ、このトロベさんを差し置いてなんでこんなひょろい黒髪男がリーダー気取りなんだ?おいシンタロー、お前こいつがオトモダチだからってひいきしてるんじゃねえだろうな。トロベさんよ、あんたが中心になってくれねえか」
「私はあくまでもウエダ殿の配下に過ぎん。我々の代表はウエダ殿だ」
って言うかこのタトって人沸点低いな、さっきのギャグはまだしも行列の先頭が俺だって時点で察してくれてもいいのに。まあ冒険者ランクで分けられるのはしょうがないとしても、やけに八村に対する当たりが強すぎる。
「あのすみません、冒険者の選定をしてるんですけど、と言うか今俺たちが選定されてるんですけど」
「ああはいはい、キアリアさんのコネでどうせ採用されるんでしょ、こんな青臭そうな坊ちゃんもそこのひ弱そうなお嬢さんも。Wランクとか言うんなら」「おいバカ!」
って言うかセブンスにまで絡んで来る必要があるのかね、ってあっこらセブンス!
「やってやろうじゃねえかこの野郎!」
「勝手な事するなセブンス、ああみんな逃げろ」
抱きついたと思ったらヘイト・マジックを発動しやがった、セブンスって本当に怒らせると怖いね。
「ちょっと!タトさん!」
「シンタロー、お前だってお前の仲間の力を知りてえんだろ!」
ってんな事言ってる場合じゃねえ、本気で殴りかかって来たじゃねえか!
「セブンスも逃げろ!」
「私はいくらひ弱でもいいですかユーイチさんをバカにされるのは許せません!」
「てめえ!」
いくらこれまで命のやり取りをして来たとは言え、完璧な不意討ちに慣れるほどには調教されていない。
あのサンタンセンに行く時のオユキを襲った不意討ちだって、少なくとも凶器があったことにより緊張感も高まった。今度は生の拳だ。
「セブンス!何をやっているのでありますか!」
「だって」
「だってではない!お前に当たったらどうする!」
赤井とトロベに迫られながらも、セブンスは俺から離れない。
俺の「どんな悪意を持った攻撃からもぼっちになる」と言うチート異能は、俺に向けられるはずだった攻撃がごくわずかだけずれると言う偶然が起こり続けると言う形によって発動する。
つまり俺の近くにいる奴に、「俺に当たるはずだった」攻撃が向けられる事になる。
そのせいで一体何人が怖い思いをし、どれだけの犠牲が建物や地形に出たかわからない。
「あのちょっと落ち着いて」
「落ち着けるかよ!こちとら親方様に必死に気に入られようと数年かけて必死にやって来た、数をきちんと数えられるようになったしそれから護衛のために剣だって覚えた!
だってのに!だってのに!」
「タトさん、静かに!」
建物からも馬車からも遠い隅っことは言え、砂煙がひどい。手だけじゃなく足まで使って俺に挑みかかって来るタトさんの執念のせいかもしれないが、ったく書類が舞いそうになるまで暴れるのをやめてもらいたい。
「キアリアさん!」
「人頼みもたいがいにしろ!」
それで事もあろうに落ちていた石を拾って投げ付けて来た。当然のように俺に当たる前で急降下して地面に穴を開けただけで終わったが、目が全く死んでいないから困ってしまう。
「タトさん」
「ったくシンタロー、お前はどうして人が数年かけて、いやハチムラ商会が何十年かけて築き上げて来たもんをたったのひと月で!」
「八村は関係ないでしょ!」
まだ親に養ってもらっている俺に会社経営とかは全く分からない。でも八村は俺と違ってすでに経済と言うか経営観念の中にいて、簿記とか既につけられるようになっているんだろう。
俺もセブンスと一緒に暮らしてお金の管理もするようになったが、基本的には金より物々交換の農村であり、ペルエ市に来てからはそんな暇もなく、この前のサンタンセンの服買いが唯一最大の出費であった。
「こいつはな、よくわからねえシステムとかを編み出して、あっという間に親方様に取り入ってよ、そんで売り上げがガンガン伸びるもんだからすっかりお気に入りになっちまってよ、それでいろいろと変えまくるからよ!」
「たったひと月でですか?」
「ああそうだよ、ったくたったひと月でもうめちゃくちゃだ!せっかくあれもこれも覚えて来たのに全部台無しだよ!」
八つ当たりと言うには、悲痛な叫び声だった。
自分なりに頑張って来たはずなのに八村のような異世界の存在にあっさりと覆されるなんて事は、大会に出ると実は結構ある。
どんなに調子を合わせて100%の走りをした所で、それ以上のポテンシャルを持った奴が出てきたらそれまでなのも現実だ。他人を追わずタイムを追えと柴原コーチは言うが、どうしても未知なるライバルの存在は焦りと混迷をもたらす。
「チクショウ、なんでだよ、なんで当たらねえんだよ……」
「大川」
「そうね」
呼吸は荒いし顔は汗だく、手のふりもあまりにも遅い。もういい加減そんなあまりにも悲痛な姿を見たくなかったので、足元のおぼつかなくなったタトさんを大川に頼んで抑え込んでもらった。
「何を……す…る…ゼェゼェ…」
「セブンス、これはお前が悪いぞ」
「はい…………」
とりあえずタトさんを三人がかり担ぎ上げ、側にあった藁の上に寝かせた。
「本当に強いんだなウエダって、これは採用って事でいいか」
「だろ?シンタロー君、君のお友だちはこんなにも立派だよ!」
————————————————キアリアさんも八村も、本当に冷静だね。
杉谷拳士選手「ちょうだいちょうだいもっとそういうのちょうだい!」




