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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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バッドコボルド

「バッドコボルド?」

「ああ、最近多いんだよ。ハイコボルドにそっくりだけどそれより強くて剣を落とさねえのがさ。リョータイではそのせいもあって冒険者不足だって話だよ」


 カイコズに戻った俺たちは、アルイさんからその魔物の正体を聞かされた。


 なるほど、あれだけ苦戦させておいて報酬ゼロじゃやる気も起きなくなるよな。なかなかにバッドな魔物だ。


(経験値なんて言葉がこの世界にあるのかどうかは知らねえ。でもバッドコボルドとやらをやっつけた所で見ている人間がいなきゃ成果は出ねえよな……)


 冒険者が戦利品をギルドに持ち込むのは、食い扶持を稼ぐと同時に成果を証明するためでもある。

 その成果を証明できるもんがないとなると、見ている人間の記憶だなんてあいまいなもんに頼らなきゃならなくなる。そんなある種の風評でランクを上げる訳には行かないだろうから面倒だよなあ。


「やはり成果が出ないからですか」

「違うんだよ。バッドコボルド討伐のためにはお城の兵士や熟練の信頼できる冒険者が必要なんだけどさ、知っての通り兵士も一流冒険者も盗賊退治が最優先でさ、そんな用件は二の次、三の次でね」

「難儀でありますな」


 スマホはおろかビデオテープもありゃしないこの世界で生の映像を記録するのは難しい。そんな類の魔法があるのかどうかさえわかりゃしないし、あったとしてもどのぐらいのレベルの魔法なのかもわからない。

 監視カメラがあっちこっちに取り付けられているのを窮屈とか言うのならばいっぺんこの世界に来てみろとか言いたい。もちろん監視カメラの代わりのようにノワル教があり女神様もいるのだろうが、だとしても赤井のようなにわかとは言え僧侶が冒険者をやっている時点で説得力は高くならない。


「映像を記録する魔法ってないですか?」

「記録はできるかどうかわからないけど、見せる魔法は存在はするらしいけどな。でもそれこそ最高級魔法であり王家の秘伝とかに当たるらしいぜ。かつての戦争では大英雄の幻影を見せて戦わずして敵を追い払い、その威によって平和的に戦争を解決させたって話もある」


 ダメもとで聞いた結果は、正直残念極まるもんだった。はっきり言って、ないと言われるよりきつい。

 いっその事ないと言われた方がすっぱり諦めも付くが、権力と言う絶対的な壁を見せられるのは正直失望する。


「あのさ、元々は女神様のお姿を求めて作り出された魔法らしいからな。そこの坊さんなんかは無下にしちゃまずいんじゃないのか」

「女神はその姿をもって降臨せず、教えをもって降臨すると私は思っているであります。ああそれと、私たちの世界では映像は全く珍しくないのであります」

「ちょっと赤井!」

「お前さんたち、まったく別の世界から来たのか!……まあ知ってたけどなそこの大きなお嬢さん」

「ある意味、アルイ見(ある意味)せつけたねー」

「何言ってるの!」


 アルイさんは大声で笑いながら髭を撫でる。ったく、何故かって聞くのも野暮ですね感満々だ。大川は何を平然とばらしてるのよと言わんばかりにツッコミを入れようとしたけど、アルイさんと行き場を失った手を引き取ったオユキの方が明らかに役者が上だ。

 ……ああ、肩を膨らませつつ頬を膨らませ、ほっぺたをつねっているトロベについては見ない事にしよう。


「単純な話だ。そういう頭の人間は北にはほとんどいねえ。それが四人も固まってるんだからな、そりゃそういう話だと言われてもああそうだなでしかねえんだよ」

「トードー国でもこういう色は珍しいんですか」

「珍しかない、って言うかほとんどが黒いんだよ。ごくまれに俺らと同じのもいるけど、それでも逆にそっちが希少価値だね」

「なーんか仲間はずれ感あるけどねー」


 しかし黒髪がほとんどとなると、いよいよトードー国は時代劇のお江戸だね。白髪以外で黒くない頭の人間が江戸にどれだけいたかは知らねえけど、少なくともこの世界じゃありふれている金髪碧眼の人間はまずいない事だけは間違いない。オユキなんかは少しつまらなそうにしてるけど、まあんな事はどうでもいい。


 しかし黒髪が減ったとかってよく言われてるけど、俺らのクラスに髪を染めるような奴はいない。校則そのものは極めて緩いが、それでもいないぐらいみんな無個性なのか、それともみんないつでもできると思ってやっていないのかは知らない。市村は「演技に必要となったら」とか言ってるけど、それって単なるプロ意識だよな。


「とにかくよ、そんなら別世界から来たってのもわかる。俺らが慣れっこのもんでもお前さんらには全然慣れてねえとかあるだろ」

「ええはい」

「何かが勝っていて、何かが劣っている。俺らだってお前らだって同じだ。それでいいのによ」

「それでって」


 アルイさんは赤井が抱えている聖書を右手の指を広げて指し、左手でお酒の入っているコップを持ち上げた。


「聖書は聖書に過ぎねえんだよ。生の女神様のお姿ってのはその幾十倍、いや幾千倍もの力がある。お前さんの世界に聖書がねえ訳でもねえだろうが」

「あります。映像も聖書も存在するのであります」

「だが聖書に書かれているのはしょせん文章だ。文章ってのは幾通りにも解釈できる。

 数百年前キミカ王国とトードー国はな、聖書の解釈ひとつで幾年単位の戦争をした。神の子論争とか言われているけどさ、女神様にとって神の子とはどれだけの数の存在を指すのかって議論が発生してな、それで戦争まで行っちまったんだよ」

「うわあ……」

「それで結果的に女神様がたくさんの神を生み出したって言い出したトードー国が勝利したけど、どっちの国もかなりの損害を受け復興にその数倍の月日を要した。

 サンタンセンやシギョナツは、その流れで独立したような存在で昔はキミカ王国の領国だったんだよな」



「神は一人なり、神の子を見守る物なり」と言う一文を「人間こそ神の子であり神は人間を見守る物である」と訳したのがこの世界で一般的に優勢な教義だが、かつてのトードー国の創始者は「神とは主神であり、その神が生み出した数多の神がこの世界にはいる」と解釈したらしい。最初は異端として排除されたらしいがそれでもその宗派の人間が勢力を拡大して次々と追放され、現地の民や各地の人間を集めてできたのがトードー国らしい。



「この影響からだろうな、トードー国は他の国の影響をほとんど受けないある意味できあがった国になっちまった。農業も畜産も漁業も鉱業も、みんな自分の所だけで完結する事ができるようになっちまったんだよ」

「それだと貿易の必要性は薄くなるでありますな」

「そしてキミカ王国はトードー国の力を見て、表向きだけはトードー国と断交した。トードー国もキミカ王国と争う理由がないからそのまんまなだけで、キミカ王国も今更トードー国と戦う理由もないからな」


 この世界にも歴史はある。戦いが人や国を作るとか思いたくないけど、それでも戦いの歴史があるからこそ世界は平和にもなる。

 しかしそんな中でもほんの小さなすれ違いからこんな結果が生まれるのかと思うと、改めて平和ってのは実にもろいもんだと思わされる。


「……ああ、話が思いっきりずれちまったな。おっさんの長話に付き合わせて済まなかったな。礼に宿代は二割ほど出すからよ」

「本当ですか!」

「ああ最後に言っとくけど、どうもバッドコボルドってここ最近急に増え始めたらしいんだよ。ちょうどここひと月前ぐらいから」


 ————まあ今はそっちの方が重要か。


 ひと月前と言えば俺たちがこの世界に来た時分からだ、一体その時何があったと言うのだろうか。

 俺らのせいとは思いたくないけど、まったく異世界ファンタジーも楽じゃない。




「手を洗う魔法ってないの?」

「とりあえず、ここ数日でウエダ殿たちの世界がかなり恵まれている事はわかった。宮廷内でもそのような所はなくてな……」


 ……例えばトイレとかな。

 冗談抜きで家に汲み取り式があるのは町でも宿屋や村長の家ぐらいで、ミルミル村なんか共同便所だからな。

 便所紙?そんなもんもうひと月も使ってねえよ、アハハハハ……。

ナポレオン三世は偉大です。

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