コボルドを倒した……あれ!?
「まさか魔物が山賊と組んでいるとか」
「考えられなくはないでありますが、どう証明すると言うのであります?」
コボルドの出る「鉱山」は、山賊たちが出る街道のかなり北側からの道の先にある。
西日がきつそうだが同時にきれいそうな森であり、それこそ魔物と一緒に山賊が出てもおかしくなさそうだ。
「と言うかコボルド狩りなんかしてどうする気だよ」
「資金はあるに越したことはない。そしてこの辺りの魔物の程度と言うのも改めてウエダ殿にわかっていただきたいしな」
「それとその上で山賊退治もして、トードー国って所へ行きたいんだよねー、ユーイチたちの世界にそっくりの」
俺がアルイさんにお金を払った後に、コボルド狩りを言い出したのはトロベだ。どうやらペルエ市近辺と同様に見習い冒険者がまず初めに行うのがコボルド狩りであり、そのコボルドが落とした剣を拾っては国家やギルドに卸すのもまたしかりらしい。
俺はもちろん賛成した。単純にお金が欲しかったし、そして何より、この街道を早く元通り平穏無事なそれに戻して、キミカ王国やトードー国に行きたい。
「でも冒険者の人言ってましたよね、この辺りのコボルドの剣はペルエ市よりも質がいいって。それってより強いって事じゃ」
「大丈夫だろう、ウエダ殿なら。それにしてもセブンス殿も心配症だな、わざわざこんな所まで」
「あの宿屋に居られないだけよ」
本当ならば残しておきたかったセブンスだが、大川がトロベに言ったようにセブンスはあの宿屋の玄関を通ったあたりから頭がふらつき、とてもそこに留まれるような状態ではなかった。もちろん見知らぬ冒険者たちに囲まれる不安もあったが、それでもお酒に酔っぱらってやらかす姿を見るのはそれ以上に嫌だった。
(ミルミル村では食堂のウェイトレスをしてたらしいけど、よく無事だったな……ああいう所ってお酒出そうなもんだけど)
あるいはミルミル村はお茶の産地のせいかお酒が必要ないかもしれないし実際俺もミルミル村では酒なんぞ見ていないが、だとしてもいろいろ不便な生活かもしれねえ。
って言うかパーティーの先頭で薄目を開けながら両手を前に構えるセブンスは、大川よりもずーっと威圧感がある。
三田川との戦いで見せた時のような集中力を発揮しながらも俺らとの会話に応じる姿は、はっきり言って誰よりも強そうだ。
「セブンス殿は実に完璧な少女だ」
「そんな」
「ウエダ殿のために実に一途に振る舞っている、セブンス殿のような妻がいれば夫は実に働きやすかろう」
トロベは実にさらっとしたもんだ。
赤井とか裏で「クーデレって奴でありますか」とか言ってたけど、俺にはその単語の意味はわからない。
オユキとかは「トロベってマジでウエダに惚れてるよね、誰よりも「ウエダ」ってね」とか相変わらずの調子で言っていたが、それでもトロベが俺を好きだって見識は同じらしい。
「そう……」
「オオカワ殿はイチムラ殿の方が好みか?」
「いや私はそんな、まだ恋愛だなんて!」
「十六歳なんでしょ、速くしないと嫁き遅れちゃうよ、私じゃないんだから~」
「だから、私はまだ、もう少し強くなって、元の世界に帰るまではそういう事は後回しにしてるだけ!」
大川は興味なさげだったけど、トロベとオユキはずいぶんと乗り気だ。
確かに十六歳が結婚適齢期と初恋と言う世界の差はあるにしても、人並みに市村や遠藤を追いかけて来たはずの大川がずいぶんと奥手に見えて来る。
(大川……お前まさかとは思うけどまだ遠藤に未練を抱いてるのか?)
サンタンセンで大川は赤井には負けたくない強い自分で居たいって言ってたけど、正直うちの男性陣はあまり強くない。俺は逃げるのは得意でも攻撃力はねえし赤井は僧侶だ。そんな中で市村に惚れるのはわかるが、市村だって俺と合流してからはとどめの一撃を決めるぐらいの真似しかしていない。
それに引き換え遠藤はやり方はともかく果敢に戦っている。もちろんやっている事は許せないけど俺らよりずっと派手で勇ましい。
「大川、お前」
「上田、私正直さ、どうしても突っ込んで行きたい欲望が抜けなくてね」
「突っ込むだけが戦いじゃねえ。向かって来る相手を迎え撃つのも戦いだ。トロベ、お前ならわかるだろ?」
「うむ、だがどうしても未熟な私は私情が先立ってしまう。私情が入るとたいていの場合ろくな事にならない。だがたいていの場合と言うのが厄介でな」
「たいていの場合……」
「あっちょっと待ってください!」
たいていの場合、つまりまれにはそっちのがいい事もあるってのはどういう事なのか、それを教えてもらいたいとか、かなり重要そうな方向に行きかけた所でセブンスの叫び声が響き渡った。
叫び声の主は構えを解きながら右腕を強く振って左側を指す動作に、俺たち六人は派手に釣られた。まったく、リーダーっつっても全然違和感のねえ貫禄だぜ。
「この辺りに魔物が……」
「数は四です!ゆっくりと近付きましょう!」
名前を知らないし気にもならない木をかいくぐりながら、一歩一歩大地を踏みしめる。
まだ武器は抜かない。じっと敵の方へと近づく。
「徐々に近づいています」
「魔物が何物なのかは」
「すみません、わかりません」
四体の魔物。数の上では有利とは言え油断なんかできやしない。
コボルドかもしれない。だがコボルドだとしても、見た目だけ同じでかなり強いかもしれない。
「その際はヘイト・マジックを頼むぞ」
「もちろんです!」
「しかしどうにも不自然だ」
「何がですか」
「この葉を見ろ、あまりにもきれいに切れ過ぎている」
「しかしこの木の傷は見た所かなり鋭利です」
戦いの始まる気配が漂う中、トロベが一枚の葉っぱを拾い俺に見せて来た。
ずいぶん涸れているが、それでも切り口はきれいだ。触れると血が出そうなぐらいであり、実際そばの木に押し付けたら軽く皮がはがれたほどだ。
そして木の傷跡と来たら、見事なほどの縦の五本線だ。
「これは葉っぱなどではなく、爪のような武器で削り取られたと考えるべきかと」
「爪か……コボルドのような人型の魔物とは思えんが」
「すると狼でありますか?」
「この爪のえぐり方からするとその可能性が大だな……
確かに爪である可能性が高いだろう。
狼はこの世界で俺が唯一傷をつけられた魔物であり、その狼がまた出て来るのかと思うと正直気が重い。
「しかし狼って四足歩行するもんだろ、こんな俺らの顔ぐらいの高さに傷を付けるか?」
「だとすると」
「来ます!」
だがそんな雑談に明け暮れてる暇があるかいと言わんばかりに、コボルドが迫って来た。
どこか黒ずんだ体をしたそいつらは、ペルエ市東の山にいたそれのように剣を持っている。そう言えば少しその剣もきれいに見えるが、いずれにしても倒すしかない。
「行くぞ!」
ぼっチート異能に頼り過ぎたくもない。丁寧に剣を構え、敵の姿をうかがう。
「甘い!」
コボルドらしい大振りの剣だが、それでも破壊力は半端ではない。これまでと同じように丁重に隙を突くのが一番いいだろう。
実際トロベは、一太刀でコボルドを仕留めていた。
「負けてられないな!」
市村も俺も、負けじとばかりに剣を振る。オユキもいつの間にか氷で剣を作り、残った三匹の内一匹に投げつけた。
「大丈夫、あたしの魔力製だしー」
まったくぜいたくな使い方があるもんだと感心しつつも、目の前の敵を相手にする。
「この程度!」
確かに速いけど、慣れちまったせいかそれでも目で追える。遠藤や剣崎に比べれば文字通りのザコキャラだ。
「グッ!」
俺の剣が脇腹を捕らえた。
よしもうひと押しだとばかりにもう一度刺そうとすると、俺が刺した所に左手を当てている。
「回復魔法であります!」
赤井の言う通り、コボルドの傷が一瞬で治っている。
まったく、油断大敵とはこの事か。一撃で仕留められないと回復魔法で粘られ、こっちが先に疲弊してしまうのはまずい。
なれば回復される前にやっちまえとばかりに葉っぱを散らしながら斬りかかり、コボルドの剣に俺の力を叩き付けてやった。
そして、下半身がお留守になった隙に蹴りを叩き込む。
「悪いな!」
その一撃でふらついたコボルドに向けて、剣道の面を叩き込んでやった。
頭に何の防具も付けていないコボルドは真っ二つになる直前で消滅し、跡形もなく消え去った。
「見事であります上田、君……!」
赤井の称賛を受けていい気になろうと思ったが、何かがおかしい。
「剣がない!?」
そう、市村が倒していた一匹を含め合計四匹のコボルドを倒したのに、全てが跡形なく消滅した。
剣さえも。




