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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
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WANTED!(三田川が)

 サンタンセンの宿の倍ぐらいの大きさのある宿屋。




 カイコズって名前の付いたその宿屋の庭先には、たくさんの馬車が並んでいた。




「あんたらは冒険者かい」

「いかにもであります。それにしても馬車やら織物やら、ずいぶんと豊かそうに見えるでありますが」

「それでも下手に動けないんだよ、山賊がいるから」


 豪奢そうな馬車の中には、金貨に織物、酒に剣と言った金銀財宝と呼ぶに値するもんがぎっしりと詰まれている。もちろんその側には強そうな冒険者様がずらりと並び、下心を起こした奴をすぐさま取り締まらんとしている。


 他には馬にブラッシングしたり、糞を拾っていたり。


「農家のために肥料として運搬するのもまた冒険者の仕事のひとつであります」

「ミルミル村でもそういう動物のをとかを肥料に使っていました。ああ私のも」

 

 農家ってのはどこでも変わらんもんだ、俺だって茶畑じゃねえけどそういうもんを運ぶ仕事もした。


 そんな大事なもんを運ぶくせに、と言うかだからこそするもんはするんだろうけど、心なしか馬も寂しそうだ。

 南の大都市や王国への卸物なんだろうけど、ここにある以上ただの置物だよなマジで……。


「街道を通るのはそんなに難しいのか」

「難しいですよ。一応渡せなくはないんですが、少しでも量が多くなったり護衛が弱かったりするとそれこそ全力で襲い掛かって来ましてね」

「面倒くさいなぁ」

「って言うかそうして経済に打撃を与えて何をしたいんですかね」


 これまでも散々聞いてたけど、こっちの程度を見極めてから襲い掛かって来るだなんて実に巧みで厄介な連中だ。



「ハチムラ商会は国家にも影響を持つ大商人です。そのハチムラ商会を脅かして国家を不安定にさせ、あわよくば乗っ取りをとか考えているんじゃないですかね」

「町や城は兵士を出していないのか」

「兵士はいるのですがそれこそかなり熟練の存在を出さないと死体になって帰ってくる事も多々あって、そしてそんな存在は国家と言えど限りがありますから……って言うか滞在費がかさんで仕方がありませんよ……」


 俺らの世界にも有名税って概念があるように、この世界でも有名な奴は狙われるらしい。

 ハチムラ商会っつー、ハンドレさんのそれと互角かそれ以上かもしれない大組織を支配できればそれこそ国ひとつ取れるとなればそりゃ躍起にもなるよな。


「って言うか今さらっとすごい事言ったね」

「そうです、彼らは強弱を見極めるのが非常にうまく、そのためよほどの存在でなければ意気揚々と向かって来るのです」


 って言うか王宮の兵士さえも死体になってしまうだなんてかなりの強者ってことじゃねえかよ……それで駆け引きをわきまえてるだなんて、それこそ強者の証だぜ。


「槍は身を守る道具である。同時に、人を殺す道具でもある」

「本当にその通りだな」


 盗賊じゃなくて、もう完璧に軍隊だな。そんな奴を今度俺たちは相手にしなきゃならねえらしい。




 それでドアを開けて入った宿屋の真ん中ではみんなして、そのハチムラ商会ってとこのそこそこ偉そうな人に向かって我も我もと名前を売り込みまくっている。確かに商人が付け焼き刃で武芸を鍛えた所で程度は知れているし、お城の兵士と言う名の専門家でもダメである以上結果的に他に手はねえよなあ。


 そんでカウンターはどこかなと目を奥に向けると、先ほどよりは少ないけど結構な人数が一枚の紙の周りに集まっていた。


「しっかし金貨三〇〇〇枚か……」

「生かしていれば四〇〇〇枚だぜ、こっちこそ行くべきじゃねえのか?」


 金貨三〇〇〇枚! つまり、≒3億円。はっきし言って、魅力的と言う言葉を追い越した金額だ。




 どういうことかと思って足を運ぼうとすると、いきなり袖をつままれた。


「うわあ!」

「ああすみません、何かご無礼でも!」

「いえその、失礼いたしました……」


 ぼっチート異能のせいか、どうしても害のない不意打ちには慣れない。その結果派手に大声を上げてしまい、宿内の視線が俺に向かって来た。ああ、痛い痛い。


「あのですね、ちょっとおうかがいしたかっただけなんですが……」

「商人さん、何か御用で」

「ほらあそこですよあそこ、あのミタガワとかって女」


 キアリアさんが指名手配にしたんだろうか。って言うか賞金額を確かめてなかったけど金貨三〇〇〇枚だなんて相当に張り込んだんだろうな、ヘイトを買ったんだろうなって事がものすごーくよくわかる。


「そうですよ、その彼女がサンタンセンの冒険者皆殺しにしたって噂は本当ですか」

「一応三人ほど残っていますけど、二人は正直戦力には……」

「そうですか、ひどい事件だとはわかっていてもギンビ殿ぐらいは生き残っているかと思っていたのですが……今ではミタガワってのは賞金首ですよ」

「今では、か……」


 俺たちは道を開けてもらい、三田川の絵を眺めた。

 キアリアさんかイトウさんが描いたらしい三田川の似顔は実にいい出来で、本当に美術館に飾りたくならねえような代物だ。

(あいつめ、どうしてこんな栄光を捨てた?)

 だがこの商人さんの物言いからすると、三田川は元からそんな人間じゃなかったって事だろう。自分なりにまっとうに依頼をこなし、それによって一流冒険者と呼ばれるまでの地位を得たんだろう。冒険者と言ってもピンキリだが、それでも一流ともなればそうそう食うに困らぬだけの生活はできるはずだ。


「そうなんだよな、この姉ちゃんも本当にとんでもねえバカをやっちまって!」

「俺はしがねえXランク冒険者だけどよ、こいつを捕らえればあっという間にOランクまでは確定で行けるぜ!そんで賞金もガッポガッポだぜ!」

「お前じゃ返り討ちだっつーの、Cランク冒険者がやれるのか?」


 冒険者の一人から出たCランク冒険者とか言う単語は、宿屋中をいっぺんに沈黙に包み込んだ。


 この世界のCランクは平凡とか中堅とか言う意味じゃなく、26段階の3番目だ。


「そこのお前はなんだ」

「Uランクです」

「Uか……まあいいや、言っとくけどこの女には関わらん方がいいぞ、おっさんからの優しいお言葉だからな!きちんと聞いとけよ!」


 俺はそのCランクと互角に戦ってましたとか言うお寒い事は言わない。だいたいの話証拠がないし、あったとしても、顕示したとしても何になると言うのか。


「って言うか皆さん普段はこの宿で何をやっているのでありますか?」

「そりゃ鉱山掘りよ坊さん」

「鉱山って聞きましたけど、鉱山って何が取れるんです?」

「コボルドだよ、コボルド」


 コボルド。この世界における初めてのお仕事の代表格であり、それこそコボルドも退治できないようならば冒険者なぞやめてしまえとか言われるような存在。


「そのコボルドが持っている剣をかき集めて鋳潰して銀貨銅貨や装備にするんですよね」

「なるほど、見事に鉱山でありますな」


「おう大したもんじゃねえか兄ちゃんたちよ、一杯酒でもどうだい」

「すみません、彼女がにおいをかぐだけでダメなんで……」

「ああそうかい…………」


 ひげも髪も伸び放題なオッサンが俺たちを酒に誘って来る。セブンスを盾にNOと言ってやったけど、したらずいぶんとへこみやがる。ったく、本当に酒がどういう位置かいちいちよくわかるよな。


「まあいいか、いかにももう少し話を聞きたそうって顔をしてるな」

「はい」

「だったらそこに座れや」

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